データベース『えひめの記憶』

えひめの記憶 キーワード検索

えひめ、昭和の街かど-生活を支えたあの店、あの仕事-(平成21年度)

(3)木の温もりを伝える技①

 ア 桶作りは難しい

 「桶作りより難しい仕事は他にはないと思います。桶は3つそろわないといけないのです。丈夫さと格好の良さと水を止めるということです。特に水を止めるのは難しいのです。同じ木を使う職人でも大工の仕事は、切り込んだものをはめ合わせたり、釘で打ったりするので少々隙間(すきま)があっても大丈夫ですが、桶は少しでも隙間があると水が漏れ、タガ(輪)がゆるむとそれで使えなくなるので難しいのです。 
 出来上がった桶から水が漏れないかを試すようなことはしません。新しい桶は、水を入れるとにじむことはありますが、木が水を吸って膨らむので水が漏れることはないのです。桶は大事に使えば20年や30年はもちます。ただし、使った後の干し方とか置いておく場所や方法によります。水分を嫌うのでよく乾燥させてビニールではなく新聞で包んだりダンボール箱にいれてしまっておくとよいのです。後は、使った後に水で洗うよりお湯で洗った方が黒くなりません。
 道具は、鉋(かんな)だけでも30種類以上あります。桶の大きさと曲がり具合、外側を削るか、内側を削るかなど用途によって使い分けます。最初の鉋は、弟子の上がりの時に奈良県に注文して作ってもらいました。今も使っているので、60年近く使っています。桶屋が側板(がわいた)を削る時には、逆目がおきないので鉋には押さえがありません。クレを削る『セン(両端に柄があり、両手に持って手前に引いて削る片刃の道具)』も30種類ぐらいは持っています。桶屋が使う道具の特徴は、曲がったものが多いということです。丸いものを作るので、道具にも曲線がついているのです。」

 イ 桶の材料

 「桶に使う材料は、側板にスギ、底と蓋(ふた)にモミの木、タガ(輪)に竹、針金、銅線を使います。側板の材料にスギを使うのは、ヒノキなどと比べると柔らかくて割りやすいことと、水引きが良いからです。1本のスギの木でも、芯(しん)の部分の赤いものと外側の白い部分があります。赤い部分は油気が多いので腐りにくく、白い部分は油気が少ないので腐りやすいのですが水引きが良いのです。白い部分でおひつを作ると、ご飯の水分を取ってくれてご飯がおいしくなるのです。赤いところは、酒樽、醤油樽や味噌桶など水を入れるものに使います。
 材料は、丸太で買います。大工が使う柱や垂木(たるき)などは、ひいて加工したものを売っていますが、桶屋が使うものはひいて加工したものがないので、丸太を買って自分でひいたり、割ったりしなければならないのです。材料のスギは、樹齢35年から40年ぐらいのものをよく使います。直径が約27、28cmのものです。木は、山から4m、3m、2m、1mの4種類で出てきます。外材には8m以上のものもありますが、国産のものはだいたいこの4種類です。うちは、4mか3mのものを買います。以前は、店の前の道で買ってきたスギをひいていたのですが、今は車も多くなり危ないので、製材所にお願いして3尺(約90cm)から3尺2、3寸(約96、99cm)に切ってもらっています。」

 ウ 桶職人の技

 (ア)原木の小切り

 「大割りにした木片を、作る桶のサイズに合わせて切ります。」

 (イ)クレ作り

 「小切りにした木片を縦におき、木割りと槌で小割りにします(写真1-1-14参照)。小割りにした短冊形の木片をクレと呼びます。クレが桶の側板になるのです。クレは井桁(いげた)に組んで半年ぐらい乾燥させます(写真1-1-15参照)。」

 (ウ)クレ削り

 「乾燥させたクレを『セン』という道具で削ります。クレの内側(桶の内側になる部分)は、刃が内にそっている『内セン』、クレの外側(桶の外側になる部分)は、刃が外にそっている『外セン』を使います。クレを削る時は大きな力がかかるので胸当てを付けて胸や腹を保護して削ります(写真1-1-16参照)。」

 (エ)クレの合わせ目(接合部)の鉋がけ

 「『正直台(しょうじきだい)』とよぶ長い鉋(かんな)でクレの側面を削ります(写真1-1-17参照)。桶の径は上が広く、下が狭くなっているため勾配や角度を『型(かた)』という道具で測り、つなぎ目が合うように確認しながら削っていきます(写真1-1-18参照)。この作業を正確にしておかなければ隙間(すきま)ができて水が漏れるのです。良い桶ができるかどうかが決まる肝要な作業で、職人の腕がものをいいます。これで桶の側板ができあがるのです。」

写真1-1-14 クレ作り

写真1-1-14 クレ作り

宇和島市中央町。平成21年5月撮影

写真1-1-15 クレの乾燥

写真1-1-15 クレの乾燥

宇和島市中央町。平成21年5月撮影

写真1-1-16 クレ削り

写真1-1-16 クレ削り

宇和島市中央町。平成21年5月撮影

写真1-1-17 正直台で側面を削る

写真1-1-17 正直台で側面を削る

宇和島市中央町。平成21年5月撮影

写真1-1-18 つなぎ目の確認

写真1-1-18 つなぎ目の確認

宇和島市中央町。平成21年5月撮影