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わがふるさとと愛媛学Ⅶ ~平成11年度 愛媛学セミナー集録~

◇モノを見つめる

石原
 博物館の仕事は、実は大変なのです。先ほど申し上げましたように、まず集めたモノの計測をして図面を作成するのですが、この後、これを百年か2百年間保存しなければなりません。ですから、散逸させないためには、モノの一つ一つに番号を付けるとともに、モノに関する情報をA4判くらいのカードに書き込みます。この情報をさらにコンピュータに入力して、いつでも取り出せるようにしておきます。
 さらに、博物館ではもう一つ非常に大切な仕事をしております。それは、先ほどジゴクを例にしてお話ししましたように、「これは何でできているのか。どこで作っているのか。何の目的に使うのか。」といったようなことを調査して、それらを「情報化」する仕事です。情報化とは少し難しい言葉ですが、簡単に言ってしまうと、調査をして分かったことを展示という形でお見せするということです。
 最近の全国各地の博物館では、いろいろな趣向を凝らしているようですね。テレビを使ったり、あるいは、きれいなマンガやイラストレーションを書いたりして、来館者の目を引いているようです。こうなりますと、来館者はこうした趣向の方に興味を持つことになり、例えば、道具一つがぽつんと展示してあるだけでは、あまり興味を示されないようです。
 しかし、モノを集めているわたしたちの立場からしますと、やはりモノをしっかりと見ていただきたい。そして、皆さん方それぞれの御経験や知識に照らし合わせて、モノが持つ性格などを読み取っていただきたい。ですから、わたしは、最近の博物館は少し厚化粧をし過ぎではないのかなと思うのです。モノを語るための装置をいろいろとたくさん使うことに力を入れ、モノそのものが持っているおもしろさをいかに見てもらうかということを、どうも忘れがちになっているのではないかと思います。
 同時に、博物館は、集めたモノをずっと長く保存しなければなりません。それには湿気が大敵です。湿気がくれば、カビが生え、虫食いが起こり、だんだんと風化していきます。つまり、モノが壊れていくのです。これを保存するためには、たいへんな努力が必要なのです。けれども、この仕事を皆さんに押し付けることはとてもできません。
 しかし、今までわたしがお話ししてきたようなことは、皆さん方のなかにも御経験のある方がいらっしゃるのではないでしょうか。例えば、切手をコレクションされたとか、マッチのラベルを集められた方はおいでになりませんか。実は、興味のあるモノを集めることは、案外皆さんおやりになっていらっしゃる。しかし、集めているときの皆さん方の興味は、集めることの方に行き過ぎて、集めたモノがどんな歴史を持っているのかとか、よそのモノと比べるとどのように違うのか、といったさまざまな情報を取り出すことから、ちょっと外へそれていらっしゃる部分があるのではないかと思います。