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わがふるさとと愛媛学Ⅶ ~平成11年度 愛媛学セミナー集録~

◇先達として

 さて、わたしが先達を担当し始めてから8年になりますが、ふるさと探訪に参加し続けて良かったなあと思うことが三つあります。
 まず一つには、参加することでふるさとの自然を見直すことができるということです。これは、この事業の目的そのものですから当然のこととも言えますが、ふるさと探訪に初めて参加した方の多くは、「砥部町にこんなにすばらしい所があったのか。」と驚かれます。人一人がやっと通ることができるくらいの山道を歩くときには、小学生などは自分が探検隊員になったように好奇心一杯に目を輝かせていますし、巡拝コース途中の山頂で休憩を取るときには、女性の方などは下界の景色を眺めながら「きれいねえ。」と言って、うっとりと見とれています。こうした自然のおもしろさや美しさは、実際に歩いてみないと案外分かりません。ふるさと探訪に参加することで、普段いかにわたしたちが、ふるさとのすばらしい所を見過ごしているかということに気付かされます。
 良い点の二つには、参加者同士の触れ合いがあることです。歩き始めた最初は、参加者はお互いをよく知りませんから会話もあまりなく、ただ黙々と歩を進めるだけです。しかし時間がたつにつれて、巡拝団のあちらこちらから笑い声や楽しそうな会話が聞こえてきます。先に申しましたように、この事業には老若男女が参加しますから、異世代間の交流が体験できるわけです。特に、真剣なまなざしの子供と、その様子を目を細めながら見守っているお年寄りとが並んで歩いているのを見ると、わたしは本当に充実した気持ちになります。時には苦労をしながらも一緒に歩いているという共通体験から、最初は見知らぬ同士にもかかわらず自然と交流が深まり、一種の連帯感が生まれてくるのです。
 さらに、良い点の三つには、この事業には地域の人たちとの触れ合いがあることです。巡拝コースの道すがら、わたしたちは「お接待」を受けます。これも、本物の「お四国さん(四国八十八か所霊場を巡礼すること)」になぞらえて行っているわけです。お接待の場所としては、コースの途中にある集会所や広場などが当てられ、全部で22か所あります。それぞれの場所では、主に老人クラブの方々がボランティアでお世話をしてくださいます。ちょうど歩き疲れたころ、わたしたちは、お接待として甘酒やよもぎもちをいただき、元気を回復します。しかし、ここでぜひ強調したいことは、わたしたちが元気を取り戻すことができるのは、甘酒を飲んだりもちを食べたりしたからではなくて、それらをとおして、お接待をしてくださる方々の温かい心に触れるからだということです。こうしたお接待の心は、四国に住むわたしたちが誇りとすべき文化であり、単なる宗教的な慣行にとどめずに、その行為の奥底に脈々と流れ続ける心情が、もっと多くの人々に受け継がれてもよいのではないかと思います。わかしは、ふるさと巡りに参加してお接待を受けるたびに、このようなことを思いながら一杯の甘酒を飲み干すと同時に、身も心もじんわりと温かくなるのを感じます。
 以上が、ふるさと探訪に参加してわたしが感じたすばらしさであり、体が元気な間は先達を続けていこうとわたしが心に決めている理由でもあります。