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わがふるさとと愛媛学Ⅶ ~平成11年度 愛媛学セミナー集録~

◇「砥部町物語」の創造

石森
 先ほどの小西先生のお話の中に、本日のセミナーの話題の一つでもあります『「砥部町物語」の創造』と結び付くことが含まれていたと思います。
 将来、砥部町の光を生み出していく時に重要なポイントは幾つかあると思われますが、そのうちの一つが、「三つの美」をいかに作っていくかということです。この三つの美を作り出すことが、砥部町に限らず、ある地域をより良くしていくときのポイントとなるとわたしは考えます。では、三つの美とは何か。まずその一つは、「自然の美」であります。自然の美しさというものをいかに守り、そしてそれをいかに生かしていくことができるかということです。
 二つ目が「人工の美」であります。小田町の場合でも、御紹介のありました祭りを新たに作り出すことによって、その地域の光を生み出している。そして、三つ目が「人情の美」であります。要するに人の情けと言いますか、現代風に言うならば、もてなしの心というものであります。
 ですから、自然の美、人工の美、人情の美の三つがバランス良く整えられている地域は、外から来る人にとっては大変魅力を感じることができる。そして、バランスを整えるためには、もちろんその地域に住む人々が、地域の自然であるとか人工の物、さらには地域の人情というものについて理解を深めていなければならないわけであります。
 このように考えます時、では、砥部町物語はどう創(つく)られるのか。これにも幾つか方法があるわけです。一つは、その地域の歴史をどう見直していくか。ここ砥部町も歴史の中に生き続けているのですから、砥部町が持つ歴史的な遺産、歴史的な資源の見直しをより一層進めていく必要がある。これについては、後ほど、亀楽老人クラブ会長の伊藤英雄さんから、「砥部四国」という砥部の持つ歴史的な遺産を現在にどう生かすのかという視点に基づいたお話があろうかと思います。
 また、先はどの小西先生のお話にも出て来ましたが、歴史に根ざしながら新しいものをいかに生み出すかということも重要ですね。小田町においても、新しい祭りが、10年、20年と続けられることで伝統となっていった。そういう意味で、この砥部町には、すでに「七折(ななおれ)梅まつり」があります。こちらも新たに生み出された祭りです。これについても、後ほど愛媛中央農業協同組合七折梅部会会長の矢野征司さんから、新しい祭りの創造であるとか、「七折小梅」という新しい特産品をどのように作ったかというお話がある予定です。
 また、町商工会青年部部長の壽野春幸さんからは、砥部焼で楽器を製作された苦労についてお話があろうかと思います。砥部焼には、220年余の歴史があり、まさに砥部町を象徴するものです。この砥部焼で、オカリナや陶琴(とうきん)、リコーダー、フルートなどを作った。実に発想がすばらしいですね。これを今後、オカリナフェスティバルとか陶琴フェスティバルというような形にうまくつなげていくことができるかどうか。これは、まさに地域の皆さん方の御協力によるところが大きいと思われます。
 日本の多くの市町村において、その市町村はそこの地域住民だけのものだと考えているところは衰退していっております。そうではなくて、いかに外へ開かれていくかが大切なのであり、そのためには、わたしは、「第三の町民」という視点が重要だと考えます。
 まず「第一の町民」とは、皆さん方ですね。砥部町に居住し、住民登録をし、納税をしておられる方のことです。次に「第二の町民」とは、例えば松山市に住んで、砥部町で仕事をしておいでの方です。そして、「第三の町民」とは、例えばわたしのように、ある日、こつ然と現れ、そして去っていく者のことです。そんな者のことはどうでもいいと思われるかもしれません。しかし、先ほどお話しいたしましたとおり、交流人口が増加するとともに自由時間革命の進展が予想される21世紀においては、この第三の町民こそが、その町の経済を潤し発展させることについて重要な存在となってくるのです。
 こう考える時、わたしの一つのアドバイスとしましては、例えば「砥部シルバーカレッジ」というものを、ぜひ作るべきだろうと思います。日本は、21世紀には、世界でも有数の高齢社会になります。そして、特に西暦2010年代以降は、非常に特異な現象が起こります。それは、団塊の世代が第二の人生を迎える。団塊の世代というのは、昭和22年(1947年)生まれを中心とする、いわゆるベビーブームの時に生まれた世代のことですが、この人々が、例えば63歳で定年を迎えるとすると、その時期がちょうど西暦2010年です。そして、この人々の第二の人生が第一の人生と同じように仕事ばかりですべて終わるかと言うと、決してそうではないでしょう。第二の人生は、もちろん生きるために仕事も必要ですけれども、もっとゆとりをもって楽しみたいという人が少なからず出て来ます。そうなりますと、例えばこの砥部町において、どういう楽しみを提供できるか。この観点から先ほど申し上げたのが砥部シルバーカレッジで、温泉療法や砥部焼による創造的な学習をセットにしたものです。これは一例に過ぎませんが、西暦2010年くらいを視野に入れて、町民の皆さん方一人一人が、自分たちの地域の将来を考えることが必要な時代が、今、始まりつつあるということです。

小西
 どうもありがとうございました。先生のお話を聞いていますと、まさに観光が地域学だということが非常によく分かりました。また、地域の総合的な魅力とは、自然の美、人工の美、人情の美という三つの美のバランスであるということにも気付かされたように思います。何が砥部町にある自然の美であり、何が人工の美であり、何が人情の美であるのかをしっかりと把握することを、西暦2010年をめどに、あるいはそれ以上の長いビジョンを持って考えることが大事であり、そこに地域を見つめ直す地域学の必要性があるのではないかとも思います。

石森
 そういう意味では、これからお話しいただきます伊藤さん、矢野さん、壽野さんのそれぞれがなさっていらっしゃることは、まさに、それぞれの地域の古い美を掘り起こしたり、新しい美を作ったりすることです。地域学という意味においても、三人ともすばらしい活動をされていると思います。ですから、先はどの禅宗のお坊さんの話にも象徴されますように、人知れず野辺に咲く、名も知らぬ一輪の花は、人が生きてゆく上で何の役に立つのか。これまでの日本では、そんなものは役に立たなかったわけです。しかし、これからの日本は、野辺に咲く一輪の花が、人生における重要性を少なからず持つ時代を迎えます。そういう意味で言いますと、わたしは砥部町に、幾種類もの一輪の花が、たくさんあるのではないかなと思います。それを皆さん方が、外の人間に対してどのような良い形で演出をしていただけるか。これから十数年後のこととして、砥部町の皆さん方お一人お一人にも考えていただかなければならない時代が、今、来つつあると思います。

小西
 どうもありがとうございました。役に立たないものが、ひょっとしたらすごいかもしれないという御意見を、わたしは非常にうれしく思っております。ですから、そういうものを数多く見付けていくことが、同時にわたしたちの人生を豊かなものとすることではないかなと感じております。
 以上で、対談講演を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。