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わがふるさとと愛媛学Ⅴ ~平成9年度 愛媛学セミナー集録~

◇日本の巨樹

牧野
 次に、日本の巨樹ということですが、昭和63年度(1988年度)に、環境庁が日本の緑の国勢調査として世界で初めて巨樹の実態調査も行うこととなり、巨樹というものをどういうふうに測るか、どのへんから巨樹というかという定義が必要になりました。そこで、人間が立ちましてほとんど目の位置になる地上から高さ1.3mで見た木の直径(目通(めどおり))が1.0m(幹周(かんしゅう)約3.3m)以上の木を巨樹と言うということになりました。そうするとサカキであるとかツバキであるとか、元々そんなに大きくならない木は、それから外れることになり、それが今大きな問題になっておりますけれども、一応この基準でそれぞれ測りました。いくら出てきたかというと、日本にざっと5万5千本ありました。当然、5万5千本以外にも山の中に生えていて、こうした調査対象からもれているものもあるわけですが、とにかく5万5千本という数字が上がってきたのです。この5万5千本の巨樹はどこにあるかというと、約57%が神社やお寺の境内にあります。普通、神社などですと、「鎮守の森」と言われたりしますので、割合人間生活の身近にある存在です。私たちは木を自然の中のものと思っていますけれども、先程の屋久島の縄文杉などは、原生林の中で、寺社林のものではありませんから、むしろこちらの方が例外ということになりまして、意外と人間生活の周辺にあるのだということが分かります。つまり、巨樹を大事にしましょうということは、身近にある大きな木というものを大事にしようということが出発点になるのだ、ということがこの数字で明らかになると思います。
 それから、この中のだいたい10%前後が、すでに空洞になっていたり、健康状態が悪く、またその他に7%くらいは、台風などのために大きな枝が欠損したりしています。しかし、今のところは、全体にまだまだ健康かなということが、数字の上から把握できます。と言うことは、巨樹が健康を害さないように、皆で注意して守っていかなければならないという、別の答えが出るわけです。そして、木を守るために努力しても無駄ではない、まだまだ間に合う。現在は、私たちが、大きな木を守るための最後のチャンスだと言えます。しかし逆に、私たちが大きな木を守ることを放棄してしまうと、そういうチャンスも消されてしまうのだという意味で、日本全体が、あるいは地球文明全体が、一つの分岐点に立っているともいえるのです。
 もう一つ申し上げたいことは、環境庁の調査の結果、大きい木をリストアップすると、50種類にもなります。最も多いのはスギ、それからケヤキです。マツなどは、このごろ松枯れ病等で減っております。このように木の種類によって、種類の多い木もあるし、少ない木もあるのですが、50種類と非常にたくさんあるということです。例えば、トチやミズナラは、内陸部にある大きな木です。アコウやガジュマルなどのように、四国、九州や沖縄あたりの海岸部にあるような日本の南のほうに多い木もあります。また、クスノキというのは、だいたい利根川から西の地域、特に四国と九州に多いのです。逆に、北のほうに多いのはカツラの木で、だいたい日光から信州の辺にかけての標高700mよりも高い所に多いのです。サクラの種類では、北海道・東北はオオヤマザクラ、伊豆半島あたりはオオシマザクラ、西日本ではヤマザクラがありますし、北は青森のあたりから南は鹿児島まで転々と分布しているエドヒガンがあります。さらに、イチョウやケヤキはだいたい全国的に分布しているというように、一口で巨樹といっても非常に種類も多く、地形や緯度、海岸とか内陸だとか、山奥だとかその場に応じて様々な木々が日本列島にはあるのです。そして、その自然や木々の多様性というものを基盤として出来上がった日本の文化が、非常にきめが細かくて、変化に富んでいて、奥行きが深いものだということを、私たちは自覚し誇りを持たなければならないのです。