データベース『えひめの記憶』

えひめの記憶 キーワード検索

わがふるさとと愛媛学Ⅳ ~平成8年度 愛媛学セミナー集録~

◇「博情館」革命

上田
 第二次世界大戦以後は、世界の他の都市も、文化のことを考えるようになり、世界都市をねらうようになりました。中でも最も世界的文化都市であるパリが、ますます文化都市に野心を燃やすわけです。ルーブル美術館の中庭にガラスのピラミッドのポンピドーセンターを造ったのです。ルーブル美術館は、世界最大の美術館、フランスが誇る美術館です。確かに古い絵画は世界一ですけれども、新しい絵画、モダンアートに関しては、ニューヨークのモダンアート・ミュージアムの方がはるかに上なのです。現代芸術に対してのメッカはニューヨークである。これがフランスにとっては、しゃくにさわってしようがない。古典のみならず、なんとか現代アートもフランスが世界のメッカになりたいということで造ったのが、ポンピドーセンターであります。これはパリの町の真中に、まるで巨大な工場みたいなものができてしまったような印象を与えますが、実はその形よりも、ここに現代アートのメッカが造られたということの意義が大きいのです。
 ところが、造ってみて驚いたのは、建物を造るのは、いいのですけれども、中に入れる現代アートを、ニューヨーク・モダンアートに匹敵するだけのものを集めようと思ったら、フランス政府の予算を10年分足しても足らないということが分かったのです。それぐらい現代アートを集めるということにも、お金がかかるわけです。それで困ったフランス政府はいろいろなことを考え出しました。
 その中で、もはや本物ばかり集めるのは難しいのでレプリカでもかまわないじゃないかとか、所蔵品だけを見せるのではなくてあちこちから集めてきて、企画展をやったらどうかとか、あるいは会場の中をオープンにして従来の美術館にある普通順路という「強制動線」をやめて、好きなものを見てもらおう、といった数々の試みをいたしました。
 結局、本物の時代に本物を見せるというよりも、コンピュータとかテレビ画面を使って見せるようになったのです。たとえば、ピカソの絵を1点見せるのもすごいことかもしれないけれども、ピカソの絵を1,000点も2,000点も見せて、若い時から死ぬまでのピカソの全部が分かるようにするというのも、すごい情報なのです。そこでこれから以後、博物館といわずに、博情館(広く情報を集める館)というようになったのです。つまり、広く物を集めるところが博物館なら、広く情報を集めるのが博情館ということです。こういう言葉はまだあまり一般化しておりませんけれども、博情館革命といわれるのが、実はこのポンピドーセンターであります。そうすることによって、ニューヨークモダンアート・ミュージアムと並んで、今やポンピドーセンターも現代アートのメッカになっているのです。