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わがふるさとと愛媛学Ⅳ ~平成8年度 愛媛学セミナー集録~

◇地域調査の姿勢と方法

若林
 加藤先生、非常に具体的でわかりやすいお話をありがとうございました。
 それでは、私のほうから、今、大学で学生たちといっしょに実践している地域研究を紹介しながら、その具体的な地域調査の姿勢や方法を思いつくままに、簡単に紹介しましょう。その上で、もう一度、地域学の進め方、さらには、風早学の可能性について話し合ってみたいと思います。
 ご存じのとおり、私の大学は女子大ですが、彼女たちは大変、旅行好きです。でも、私も含めて学生たち全員が公民館などの公共施設に寝泊まりして、実際には、雑魚寝(ざこね)して、1つの地域にじっくりとこだわって学ぼうということになると、いろんな理由でもって、ついてくる学生は限られています。でも、私はその少数ではあるが、彼女たちの姿勢を大事にしてやりたいと思います。
 今、実践しているのは、沖縄県の地域調査です。先島(さきしま)諸島の一つ宮古(みやこ)の伊良部(いらぶ)島という離島で、大学の休暇を利用して、約10日間の調査を何度か実施しています。これは社会学や文化人類学の分野でフィールドワークとよばれるもので、実地調査と訳されています。フィールドワークは調べようとする地域社会に足を運んで、そこで「生活」をしながら、情報収集するというものです。私の大学の学生は愛媛県内の出身者が多いのですが、沖縄と愛媛ではさまざまなことが違います。たとえば、泡盛(あわもり)でのオトーリ(宴会)のこと、ピンザ(山羊(やぎ))料理のこと、ユークイズンという年中行事用の服のこと、サンシン(蛇皮線(じゃびせん))のこと、大きくてりっぱな墓地のこと、地元のTV番組のことなど、いろいろです。何でもいいのですが、「どうして、愛媛と違うんだろう。」と、彼女らなりに感じ取ったことを大切にしてやっています。素朴な疑問から調査研究がスタートするんだと。その根底には先ほど話題になった「比較」というものが存在するわけです。彼女らの感性、視線でとらえた地域のイメージは貴重なものだと思うのです。なぜ違うのかということを問い詰めていけば、つまり、相違の要因を明らかにすれば、それで、もう、りっぱな学問になる可能性があります。そして、他方で自分の生まれ育った地域に対する認識、さらには、愛着も深まるというものです。
 それから、調査のなかで興味や関心を持ったものを実際に自らが確かめてみることも大切でしょう。つまり、「百聞は一見にしかず」ということです。さらに、「一見」以上に、参加・実践してみること、つまり、そういう実体験、参与観察が重要だと思うのです。
 私は明日から沖縄に出かけますが、学生の1人が、今、沖縄でサンシン作りに挑戦しています。宮古の平良(ひらら)市の職人さんのところでお世話になっています。もちろん、すべて学生だけでできるわけではありません。学生でもできる工程と職人さんにしかできない工程など、いろいろあります。その違いを自らが体験することによって、技能とか、ワザといったものを身をもって理解できるでしょう。そういうチャレンジ精神や体当たりの姿勢がフィールドワークには不可欠です。
 ところで、話は前後するのですが、こうした調査で前提となることがあります。それは調査が人とのコミュニケーションをもとに成立しているということです。調査する人と調査される人の相互作用(やりとり)がうまくいってこそ、さまざまな情報が得られるというものです。調査ということで、最初から身構えずに、仲良くなるということからスタートすべきでしょう。語り合うことをもとに、いい人間関係をつくるのです。私の学生たちはそうした「ふれあい」を通して、民家に泊めてもらい御馳走(ごちそう)になり、松山に戻ってからもさまざまな交流をしているようです。そうしたことを社会学や社会調査では、ラポール形成の確立とよんでいます。
 最後に、調べたことをきちんとまとめて公表することも大切でしょう。当たり前のことですが。加藤先生のお話によると、横浜学ではいろんな発表の場を設けておられるようですね。発表報告会なり、印刷物なり、映像なり、形式はともかくとして、何らかの形でまとめて公表することを心掛けるべきです。自己満足に陥らず、意見交換を通してさらに問題意識を深めるためにも、調べたことを公表するのは重要でしょう。