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わがふるさとと愛媛学Ⅲ ~平成7年度 愛媛学セミナー集録~

◇郷土料理に見る、生活の知恵

 郷土料理にもいろいろありますが、先ほどコーディネーターの永井先生がおっしゃいましたように、宇和島の代表的な郷土料理と言いますと「鯛(たい)飯」と「さつま」です。
 「鯛飯」は、全国でも珍しく、全く火を使わなくてできるお料理なんです。料理屋では、生けづくりにして豪華な感じに作りますので、家庭ではちょっと作れないと思われておりますけれども、生け盛りさえしなければ、簡単な即席料理なんです。鯛でなくても、白身魚のお刺し身なんかが残った時に、温かい御飯、生卵、おしょうゆ、みりんがあれば、それだけでできるんです。煎りゴマとノリをちょっと入れていただいたら、一層風味が増すと思います(料理の本によっては、「出し汁を入れる。」となっておりますが、うちの店では、生卵、おしょうゆ、みりん、それだけです。)。
 「鯛飯」は即席にできますが、「さつま」は手間暇かけて作らなければできません。打ち合わせの時に、「簡単にできる、さつまの作り方を説明してほしい。」と言われたんですが、井上先生も『四季録』で書いていらっしゃるように、さつまは、やはり愛情込めて、手間暇かけて作らないといけない料理だと思います。
 私の両親は教員で共働きでしたので、祖母が料理役だったんです。教えてもらったのではないんですが、子供のころは今みたいにいろんな食べ物がなかったですから、夏になると必ず大きなすり鉢を持たされ、子供心に、さつまの作り方を覚えました。材料は、今はコヅナを使うようですけれども、昔はアジとかイトヨリとかを使っていました。御参考までに、スープにのばす前の、お味噌とお魚を混ぜ合わせた段階で冷凍していただくと、ずっと持ちます。そして、食べられる時にスープで延ばしていただいたらいいと思います。
 さつまは、昔は本当に家庭料理だったんですけれども、今おうちで作っておられますか。(会場の挙手を見て)ああ、すごい優秀ですね。鯛飯もさつまも、今は、なかなか家庭で作っていただく方はないんです。料理屋にとっては、料理屋に来ていただいたほうがいいんですけれども。鯛飯は、料理屋料理でなかなか難しいという感じですけれど、さつまは、やはりその家々のお料理にしていただきたいなと思います。
 ほかには、「丸寿司」「ふくめん」「鯛そうめん」などの鉢盛り料理があります。うちでは仕出しもしておりますけれども、お祭りとか法事とかの場合は、ほとんどが鉢盛料理です。鉢盛料理というのは、高知の皿鉢料理と同じで、20人と思っていた人数が30人になっても、何人お見えになっても十分間に合いますし、好きな物を好きなだけ食べられます。ホテルなどで今はやっているバイキング料理の先取りをしているようで、こういう点では、田舎のほうがむしろ上ではないかと思うんです。