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わがふるさとと愛媛学   ~平成5年度 愛媛学セミナー集録~

2 飾り幕の制作

 飾り幕は、おおまかに、布団締め、上幕、下幕(=高欄幕)に分類される。図柄、種類などの詳細は、資料のとおりである。
 制作の本番とも言えるのは刺繍(ししゅう)で、飾り幕の刺繍のことを「縫箔(ほうはく)」という。正式には「立体刺繍縫箔技術」とよばれ、「平縫」、「高肉縫」、「刺縫」などの技法がある。平縫は一般の平面刺繍、高肉縫とは綿入れや厚紙を中身に入れ、その上から刺繍を施すもの、刺縫とは、禽獣(きんじゅう)物(唐獅子(からじし)、鷲(わし)など)の動物の毛並みなどの刺繍のことである。これらの刺繍は部品ごとに行い、刺繍ができたら枠から取り外し、小さな部品を大きな部品に縫い合わせ、最後に厚みを持たせるための中身を入れながら全体を組み合わせ、完成品となる。布団締めの場合で、小さく分類すると約40個くらいの部品からできている。
 上幕、下幕(=高欄幕)の作り方も、刺繍の技法は布団締めと同様であるが、図柄によってはたいへん手間のかかるものがある。一番手間のかかるものは、「御殿もの」で、次に「武者絵」などの「人物もの」である。御殿ものの場合、だいたい「禽獣もの」の2倍以上の手間がかかる。
 布団締めの図柄と大きさについては、各太鼓台で多少の差があるが、時代とともに大型化してきた。昔は、呼び名のとおり、ただ布団を締めていた帯に小さな刺繍をしていただけであるが、刺繍の部分が拡大化・厚手化し、今の形態になった。幕も同様の経過をたどったが、図柄が昔の物語ものから一見派手に見えるものへと様変わりしてきた。
 制作の技法も、時代とともに変遷していくものと推測されるが、やはり昔の技法にはそれなりの工夫が施されており、その技法はやはり受け継がれていくべきものだと思っている。
 使用する金糸は、最近はほとんど蒸着ものと呼ばれる「ソフト金糸」で、本金糸ではない。その理由は、「雨に弱く、剝落しやすい、変色が早い」ということに加え、撚糸機械の普及による量産化と、蒸着ものの急速な伸長といった、業界の生産状況の変化によるものと考えられる。
 参考までに、ソフト金糸は、金ではなくて真空中で銀を糸に蒸着しているので、硫黄系統の油に弱いという性質がある。硫黄によって銀が硫化銀になって変色する。ソフト金糸を使った太鼓台の保存場所では、石油・ガスストーブの使用は絶対に避けるべきである。
 太鼓台は新居浜の文化財として、新居浜の人たちによって伝承されていくべきものと思うので、飾り幕制作に興味のある人はぜひ連絡してほしい。