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えひめ、子どもたちの生活誌(平成18年度)

(1)地域ぐるみの活動をめざして-南山崎校区愛護班-

 伊予(いよ)市唐川(からかわ)・大平(おおひら)地区は市の南東部の中山間地域に位置し、両地区を校区とする南山崎小学校には約120名の児童が通学している。この校区で地域全体での子育てをめざし、地域ぐるみの愛護班活動を進める南山崎校区愛護班の活動の様子や活動を支える大人たちの思いについて**さん(昭和36年生まれ)と**さん(昭和41年生まれ)に聞いた。

 ア 住んで良かったと思える地域づくり

 「私は、昨年まで5年間愛護班の会長をやってきました。生まれも育ちも南山崎で、高校卒業後はふるさとを離れ県外で働いていました。長男ということもあり30歳のときにUターンし、それから愛護班活動にかかわるようになりました。活動方針というほどの大げさなものはありませんが、子どもたちに1年間を通して何か一つでも楽しい思い出を持ってもらえればと考えています。というのは、私たちが子どものころにも地域の大人たちが様々な行事をしてくれてとても楽しかったなあという思い出があるのです。ですから、楽しかったなあと感じてくれるようなものを今の子どもたちにも体験させたら、ここに住んで良かったという気持ちになるのではないかと思っています。」
 「私は小学校5年生のときに双海(ふたみ)町上灘(かみなだ)(現伊予市)から大平に引っ越してきました。上灘でも大人たちにキャンプや海水浴といった行事をやってもらっていてとても楽しかったことを憶えています。だから、今の子どもたちにも私たちが持っているようないい思い出をつくってほしいし、大きくなったときに南山崎に住んで良かったとか、子を持つ親となったときに我が子にも思い出に残る活動をやっていきたいというような気持ちが芽生えてくれればいいと考えています。」

 イ 子育て世代が会長に

 「私が愛護班の会長になるまでは、会長には高校生以上の子どものいる方で50代ぐらいの御年配の方々が就かれていました。実は、私の代から小さい子どもを持つ世代が会長に就いたのです。私には子どもが3人おりますが、当時は39歳で一番下の子どもが小学校3年生でした。
 私たちのイメージとしては愛護班の会長というのはいずれはやってもいいけれど、まだまだ自分たちが就くような立場ではないと思っていました。しかし、やってみると我が子がいるので力が入るのです。また、私自身がそれまでに愛護班や南山崎体育協会の役員をやっていたこともあり、様々な団体にもお願いしやすかったことも幸いしました。そして、活動を続けているうちに自分たちのような小さい子どものいる世代のほうがやりやすいのではないかと思うようになったのです。そういうわけで、3人の子どもがいて一番下の子が小学校3年生の柴田さんに会長を引き継いでもらったのです。」

 ウ 年間の主な活動

 「年間の主な活動のうち、愛護班単独で行う大きな行事としては、7月のサマーキャンプと11月のふれあい体験道場があります。そのほかには、9月のコミュニティー大運動会、10月の三世代交流ゲートボール大会、1月の新春レクレーション大会がありますが、これらは他団体や組織(大平公民館、体育協会、PTA、婦人会、老人会)の主催であったり、協力を受けたりしながら実施しています。
 キャンプは毎年恒例の行事で、今年(平成18年)は7月22日(土)~23日(日)の1泊2日で実施しました。7月の夏休みに入ってすぐの時期に実施しているのは、8月だとお盆や家族の行事が入ってくるからです。参加の呼びかけは小学校を通じて全校児童にしています。小学校もとても協力的で、先生方は子どもたちに参加の声かけをしてくれたり、キャンプに顔を出してくださったりするので、年を追って参加人数も増えています。キャンプ当日は参加した1~6年生までの子どもたちを縦割りの班を編成し、班ごとにテントを割り当てます。高学年の子どもが低学年の世話をして、異年齢間の交流が深まることをねらってそういう編成にしています。
 また、ふれあい体験道場も毎年恒例の行事ですが、以前は小学校4年生だけを対象にした『そば打ち体験』でした。しかし、今は子どもの数が減ってきているので3年生も参加しています。指導は旧中山(なかやま)町(現伊予市中山町)でそば打ちの指導をされていた方で、この方が大平にお住まいなのです。」

 エ 活動のマンネリ化を打破するために

 小さい地域ですから毎年やっていると学年が上がっただけで同じ子どもが同じ行事に参加してくることになるので、内容が前年と同じだと『去年と同じことをしている!』と厳しい声が聞こえてきます。かといってすべてを一新することは難しいので、何か一つでも目玉になって、そして去年とは違ったことを入れていこうと役員がアイディアを持ち寄っています。子どもたちをぎゃふんといわせてやろうと大人たちも楽しみながら知恵を絞っているわけです。では、そうやって工夫してきた取り組みのいくつかを紹介します。
 まず、平成14年の7月には『子どもゆめ基金(*11)』の助成を受けて伊予市森(もり)の海岸で『地引き網体験』をさせました。南山崎に山と川はありますが海はありません。山里育ちの子どもたちを海に連れて行って、そこで地引き網を引かせることで、みんなで力を合わせることの大切さや、自然の恵みのすばらしさを味わってもらおうと実施したのです。当日は台風接近の影響もあり、大漁というわけにはいきませんでしたが、子どもたちは初めての体験に大喜びでした。
 次にキャンプの実施場所はこれまでは旧唐川小学校(昭和57年[1982年]3月廃校。跡地は唐川コミュニティーセンターとして活用)と南山崎小学校の校庭を利用していましたが、平成16年(2004年)度のキャンプは南山崎校区愛護班始まって以来、初の校区外キャンプを実施しました。場所は伊予市上三谷(かみみたに)の愛媛森林公園です。当初は久万高原(くまこうげん)町での計画を立てたのですがバス代などの問題があるため、保護者に送迎してもらうことで現地集合が可能な地元にしたわけです。おかげで参加人数は親子合わせて約160名(子ども119名)となりました。これまでの経験では100名を超えて人が集まったことはありませんでしたからとても驚きました。ところが、いつもやっている小学校の校庭とは使い勝手が全く違います。忘れ物一つしても、すぐに取りに帰れないわけです。それに体調を崩す子どもも自宅まですぐに帰れるというわけではなかったものですから、お世話係としてはとっても大変でした。しかし初の校区外キャンプという試みは、私たちにとっても参加した親子にとっても思い出深いものになりました。
 キャンプでは子どもたちが知らない、やったことのないことをさせてみたいといつも考えています。これまで空き缶を利用して御飯を炊(た)いてみたり、竹にパン生地を巻きつけて焼いてみたり、表彰状を用意して料理のコンテストなどをやってきました。昨年は竹を様々に利用して『そうめん流し』をやりました。竹で作った樋(とい)にそうめんをただ流すだけではつまらないので、竹の樋をぐるっと回したような大きな円形にしてやってみました。山から竹を伐(き)ってくるのは体育協会の役員、当日そうめんを茹(ゆ)でてくれるのは婦人会、スタッフとして参加した中学生はそうめんを流す係というような具合でした。私たち役員は下準備として竹から箸(はし)やお椀(わん)、そして樋の試作品を作ったり、小さい子どもにささくれが刺さらないように竹を磨いたりしました。今年は竹で水鉄砲などを作ったところ、子どもたちはびしょびしょになるまで水をかけ合い、おおはしゃぎで走り回っていました。
 また、キャンプの運営上の工夫として5年前からは愛媛大学の学生ボランティアサークルYMCAの皆さんに参加をお願いしています。大学生たちは子どもたちの中に入って上手に遊んでくれたり、まとめてくれたりで、子どもたちからは大好評で、私たちとしても本当に助かっています。」
 そして、ふれあい体験道場では、この行事がもともと午前中だけで終わり、参加できる学年も限定されていたので、せっかくなら校区全体の子どもたちを対象として午後からも何かできないものかと考えました。そして、平成16年(2004年)からは、午前中はそば打ちをして、午後はお好み焼きを作ることにしたのです。これなら低学年の子どもたちでも参加できると思ったのです。場所は大平公民館横の空き地です。ドラム缶を半分に切ったものを並べて、その上に鉄板を載せて焼きますが、熱い鉄板や火のことがあるので中学生にも参加を呼びかけて、低学年の子どもたちが焼くのを手伝ってもらいました。ほぼ校区全体の子どもの参加があり、かなり好評でした。翌年にはお好み焼きに代わってお餅(もち)つきを実施しました。活動を終えた子どもたちに来年も参加したいかと聞くと、『参加したい』という答えが返ってきて、もうそれだけで疲れが吹っ飛んでしまいました。
 さらに、南山崎愛護班の特徴として中学生が参加しやすくなるような働きかけをしてきたことがあります。きっかけは、私が会長をしていたときに小学生の面倒や手伝いのスタッフとして中学生に参加を呼びかけたのです。最初は役員の子どもを無理やり参加させて、その子たちが友だちを誘って5人くらいでした。やってみると楽しかったようでそれ以来参加してくれる中学生が増えてきました。また、中学生たちが参加しやすいように中学校(港南(こうなん)中学校)にもお願いに上がりました。というのも中学生には部活動に入っている子が多く、参加するとなると部活動を休まなければなりません。そういう子にとっては、地域の行事に参加することをまるでサボっているかのようにチームメイトから言われてしまうことがあったからです。そこで、私たちは南山崎出身の中学生が地域の行事に堂々と参加できるような雰囲気を作ってほしいと中学校の校長先生にじかにお願いしたのです。校長先生もよく理解してくださり、今では学校から地域の行事に積極的に参加をするように勧めてもらえるようにもなっています。今年のキャンプには、事前に25名の中学生が手を挙げてくれました。参加した中学生(写真2-2-11参照)は私たち大人顔負けで、よく動いてくれて助けてもらっています。
 南山崎というのはこじんまりとした地域ですから、中学生になっても小学生とのつながりがあります。中学校1年生といっても前の年は小学校6年生ですから、キャンプに参加したときに『自分たちが中学生になったら今年見た中学生のようにやっていけばいいんだ。』というような感じで来年の自分の役割を自覚しているようです。だから順繰りで、子どもたちの中に自覚が生まれ、その結果として中学生が小学生の活動にも参加しやすくなってきていると思います。こういう循環が生まれてきたのもそんなに古いことではなく、今から数年前のことです。」

 オ 楽しむことを大切に

 「私はこういった活動は『ボランティアでやっているんだ。』というだけではいけないと考えています。せっかくの休日を割いてやっているのですから、しんどいことはしんどいです。しかし、活動がつまらなくて、しんどいだけで終わっていては、それこそストレスが溜(た)まるばかりですから、私たちにとっても活動そのものの中で大人も楽しめるようなことを取り入れていかないと続かないと思っています。だから、行事の中身だけでなく、行事後の慰労会などで大人が本音を出し合っていくことも大切なことだと考えています。
 また、キャンプなどの参加人数が年々増えてきているので私が会長となってから人数が減ってくるようになってはいかんと、プレッシャーがあります。でもプレッシャーと感じるのではなく、やっていることが楽しいなあと思えるようにもっていくことが何より大切だと思って取り組んでいます。」

 カ 南山崎のこれから

 「かつては親御さんたちが地域の行事などに参加されない時期もありました。でも最近は子どもたちと一緒に出てきてくれる方が増えてきているように感じています。小さい地域ですから小学校のPTAと愛護班の役員を兼ねている方も多く、それぞれがお互いの活動を繰り広げながら、相乗効果もあって、声をかければ気持ちよく手伝ってくれる方も増えてきたと感じています。そして一つのことをやろうとすると、いろんな人たちがぱーっと集まってきてくれるようになっています。小さい子どもが対象の行事であれば、その親たちの多くが集まってくれますが、それだけではなくて小学校を卒業した子どもを持つ方であっても出てきてくれるのです。そういう縦のつながりもあって子どもたちと親たちが顔なじみになっていき、自分の子ども以外の子どもにも親たちは声をかけやすくなるし、子どもも友だちの親たちとかかわることによって地域全体のつながりが広がっていると思います。
 小さい地域ですから何かしようにも愛護班だけではできないのです。だから、地域にある様々な団体との横のつながりを大切にして、既存の行事を工夫しながら継続させていきたいと考えています。」


*11:子どもゆめ基金 独立行政法人国立青少年教育振興機構が運営している基金で、財源は国からの出資と民間からの寄付
  による。民間団体が行うさまざまな体験活動や読書活動などの支援を目的としている。

写真2-2-11 キャンプを支える中学生

写真2-2-11 キャンプを支える中学生

伊予市大平。平成18年7月撮影