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えひめ、その住まいとくらし(平成17年度)

(4)大工道具

 **さんは「道具を上手に使おう」というテーマで、カンナ(写真1-4参照)などの研ぎ方や使い方を、若い人に教えている。大工道具全般について、**さんは次のように話した。

 ア カンナ

 「飛鳥期からヤリガンナというものがあって、腰のところでためて、押したり、手前に引っ張ったりして、材面の大きい凸凹を削っておりました。薬師寺の仕事をしたときに、西岡棟梁が『これを使う。』と言って出して来られたので、若い者がびっくりしていました。『電気ガンナで削ったものとヤリガンナで削ったものを、雨の中にさらしておいたらすぐ分かるわ。電気ガンナで削ったものやったら1週間でカビが生えてくるわ。そやけどヤリガンナやったらそんなことありませんわ。水がスカッと切れて、はじいてしまいます。電気ガンナは回転で繊維をちぎってるんですから、顕微鏡で見ましたら、毛布みたいなもんでっせ、けばだっておって。だから水はいくらでもしみ込むわな。(②)』と言っていました。
 大工の仕事で木造りが一番大事なこととされています。柱とか桁(けた)とかの部材の角度を決めてまっすぐにすることです。木は乾燥したらねじくってくるわけです。それをまっ角にとらないといけません。大きいところは、斧(よき)といってマサカリのようなもので、はつる(そぎ落とす。)のです。その次は手斧(ちょうな)でそぎます。次にとぐりカンナ(大きい凹凸を少しならして平らにするカンナ)で横擦りをします。木目に沿わないで、横に削るのです。とぐりカンナでまあまあできたという段階で、普通の荒ガンナで横擦りをし、その次に始めて木目に沿って荒ガンナで縦に削って仕上げて行くのです。従って部材は15cm角の物なら3cmから1.5cmくらいは余分にとるのです。昔の人は気が遠くなるような、念の入った仕事をしていたのです。
 今は押さえのついた二枚ガンナが普通で、それに対して押さえのないものを一枚ガンナといっております。一枚ガンナは最上級の削り用で、削った面のつやが違います。普通のカンナはカンナの刃の角度が39°(8寸勾配)くらいで、一枚ガンナはもう少し刃を起こしたものです。また長台カンナは長く幅広い厚板などのねじれを抜くときに使います。
 カンナはまず台です。いくら上手に研いでも、台が良くなければ、全然切れません。台は金物屋に売っている物を選んで、それに刃を自分で仕込むのです。材は赤ガシが一番良いといわれます。京都などでは仕込み屋さんがいて、持って行けばちゃんと切れるように仕込んでくれました。『カンナは口で切る。』と言われるほどで、口をなるべく小さく小さくして、刃の状態をよく見ながら、台の角を金槌で叩(たた)いて調整します。材に当てたとき、台尻の中ほどは心持ち隙間(すきま)ができるようにし、頭の方は台尻より少し削った状態が望ましいのです。台を正しく調整できないと、木材は削れません。雨の日とか天気の日で、台が微妙に狂いますから、直さなければなりません。ねじれに注意しながら、自分なりに工夫して材木が受け入れてくれるカンナにしてほしいものです。
 次にカンナの研ぎ方ですが、カンナの刃、ノミの刃ともに裏が大事です。裏は金盤に金剛砂(研磨剤)を撒(ま)いて押しながら擦り傷などが残らないよう、鏡のようになるまで擦ります。砥(と)石の面はいつも平らに、合わせ砥石で手入れをしておきます。手で角度をしっかり決めて、砥石には力を掛けないように、軽く擦るような気持ちで、刃先が裏へかえるまで研ぎます。刃の角度がゆるくならないように、30°~35°が良い角度です。また刃の角を心持ちミクロン程度丸くします。材の真ん中へ角の筋が付かないようにするためです。
 砥石も昔は伊予砥、青砥、鳴滝砥などの天然砥石が知られており、値段も高くて手に入れにくかったのですが、近ごろは人造砥石が出回って入手しやすく、硬度も均質なので研ぎやすくなってきました。昔と違って砥石の前に座って、長いこと研いでいる人は、刃物研ぎが下手くそなのです。下手な者は砥石の前で手元が定まらず、船をこぐようにギッコンバッタン研いでいるのです。今は砥石が良いから、上手な者はスカッとすぐに研げるのです。

 イ ノコギリ

 西洋のノコギリは押して切ります。日本のノコギリは引いて切ります。押しに比べて引く方が、抵抗が少なく薄身のノコギリで仕事が出来るのです。薄身であるから、和風建築独特の精密な仕事も可能になるのです。
 ノコギリも良いものは、2枚になっています。よく刃先を見ていると合わせが見えて来るのです。指先ではじいてみると、澄んだ音が響きます(③)。目立てをしても、昔のノコはヤスリが利きやすいのです。このごろのものは、焼き入れしてしまっていて、固くてヤスリが通用しません。このごろのノコは早く引けて、くい込みもよいのです。またまっすぐに引こうと思えば、まっすぐに引けるのですが、ただまっすぐに走るだけです。昔のノコは融通性というか、余裕があって少し内側へとか外側へとか、微妙な加減を付けて引くことも出来たのです。
 ノコギリには、縦びきノコ、横びきノコ、両刃ノコ、胴付きノコ、ひき回しノコ、つる掛けノコ、がんどノコなどがあります(写真1-5参照)。それぞれ材に応じ、仕事に応じて使い分けます。柄は自分で付けますが、ヒノキが多く、さらに良いのはキリだと言われます。またノコの身を差し込んだ口元を藤などで、しっかり巻き付けます。
 目立ては専用のヤスリを使い、あさり(刃先)の調整には、槌やあさり出しを使います。
 他の道具にも言えることですが、保管は菜種油を引いて、さびが来ないようにします。また使わないときは、ノコ巻きという粗めの布を巻いてしまっておきます。

 ウ ノミ

 ノミは大きく分けると叩(たた)きノミ、突きノミ、特殊ノミの3種類があるとされています。叩きノミは穴彫りその他の荒加工用で、穂を仕込む部分に口金をはめて、柄の頭に鉄の輪をはめた大形の丈夫なものです(写真1-6参照)。突きノミはみぞや穴の仕上げ用で、薄ノミ、しのぎノミ、鏝(こて)ノミなどがあり、両手で突いて仕上げるのです。そのため、柄の頭に鉄の輪をはめないのが普通です。特殊ノミとしては、くぎ道あけ用のつばノミ、ほぞ穴貫通用の打ち抜きノミ、底をさらえるかき出しノミなどがあります。
 ノミで大事なことは鉄の輪を叩かないことです。この輪は柄が割れるのを防ぐためのもので、木の部分がつぶれて、鉄の輪を打つようになると、『ノミが踊り出す。』と言って、刃先に均等な力が伝わらなくなるのです。突きノミは保管用の木のケースを作ります。大入れノミは金物屋で保管用の袋を売っています。

 エ ゲンノウ

 ゲンノウは両口、片口、丸、角また大、中などと用途により何種類かあります。釘締めなどのように打つ相手に応じた大きさが必要です。大は小を兼ねないのです。
 大事なことは柄を自分で入れることです。グミの木などがねばくて良いと言われますが、きちんとバランスを取って、頭に打ち込みます。栓を入れなくても、頭が抜けたりすることはありません、使う前にちょっと水に漬けることはあります。

 オ その他 

 その他数多くありますが、錐(きり)、回しびきノコギリ、釘抜き、水糸(水糸巻き)、釘締め、やっとこなども、大工仕事には欠かせないものです(写真1-7参照)。」

写真1-4 各種のカンナ

写真1-4 各種のカンナ

西条市新町。平成17年10月撮影

写真1-5 ノコギリなど

写真1-5 ノコギリなど

西条市新市。平成17年10月撮影

写真1-6 ノミ

写真1-6 ノミ

西条市新市。平成17年10月撮影

写真1-7 釘抜き、釘締め、水糸(巻)など

写真1-7 釘抜き、釘締め、水糸(巻)など

西条市新市。平成17年10月撮影