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えひめ、その装いとくらし(平成16年度)

(2)ふくさ

 『袱紗(ふくさ)』によると、ふくさはその使用形態で、包みものの手ふくさ、茶道のふくさ、掛けふくさの三つに分類される。昭和30年(1955年)にふくさが物品税の対象になったときの定義では、袷仕立(あわせした)てで四隅に飾り房をつけた掛けふくさを本ふくさとし、単衣(ひとえ)の飾り房のないのは小風呂敷と定義された(⑦)。風呂敷とふくさの名称の区別はごく最近になされたのである。そうすると手ふくさは小風呂敷に分類され、昭和初期に考案された台付きふくさも同様かもしれず、現在(平成16年)は物品税も廃止されたが、その呼称は混乱したままである。
 風呂敷と同じく、**さんと**さん・**さん夫妻に聞いた。
 **さんは、「ふくさと風呂敷は使い方が違います。もちろん改まったときや場所で使うのがふくさで、風呂敷よりは格が上の物です。ふくさは掛けていく物で包んでいく物ではありません。ふくさの下にはお盆なり、お重なりがあって、それに掛けていく物です。台付きふくさは最近の物です。お包みを入れるのに便利だから急に広がっただけで、本来のふくさとはいえません。
 私は、旧県女(県立松山高等女学校、現松山南高等学校)のときに、ふくさを縫ったことがあります。2年生のときに刺繍(ししゅう)の授業があり、ふくさの裏表に刺繍をしました。考えてみたら、今の中学校の2年生ですからね、泣きながら作った記憶があります。勉強もしないといけないし刺繍もしないといけない、グリ(身体のしこり)ができて、母にマンジュシャゲ(ヒガンバナ)の根をすって湿布してもらったりしながら作ったもので、私の宝物ですから、今も大切に保存しています。表には白地に扇の刺繍をし、裏は深紅の地にして、うちの家紋ではないのですが、ひとすみに三ツ割なでしこ(家紋の一種)を配し、最後にその両方を縫いつけました。材料は、お嫁さんのきものに使ったりする高級な絹織物で、塩瀬(しおぜ)という織物でした。子どもができたときに内祝いを配ったりしますが、そのときに上に掛けて使ったことがあります。」と思い出を話す。昭和前期に、本ふくさの作り方が、学校の授業の中で指導されていたのである。 
 **さんは、「結納など大切な儀式のときには、このふくさ(写真2-3-34参照)を使います。二幅(ふたはば)です。これは広蓋(ひろぶた)(*12)に掛ける最も大切な儀式のときに使う本格的なふくさです。
 また、家紋入りの正方形の万寿盆(*12)には、鯨尺1尺(約37.9cm)四方のふくさを掛け、それを家紋入りの絹の風呂敷で包んでいく方法もあります。この場合は、万寿盆、ふくさ、風呂敷にそれぞれ家紋がありますから、それぞれの家紋の上端が正面に行くように包まないといけません。これも、結納に使ったり品物の贈答に使ったりします。相手に品物を差し上げるときには、家紋の上端が相手側に向くように、平包み(結ばず、折りたたんだだけの風呂敷の包み方)にして渡します。
 金封の場合には切手盆(万寿盆より一回り小さく長方形の漆塗りの盆)に入れ、ふくさを掛けます。これらは特別改まったときで、手ぶくさで包むこともあります。」と話す。**さんは、「子どもができて赤飯やおまんじゅう、紅白餅を配ったりすることがあります。このときは、ふくさや風呂敷を使います。普通の風呂敷に包んで行った場合は、風呂敷を解いて品物の上にふくさを置いて、『お祝いです。』と言って渡します。相手は家に取り込んで、ふくさを折りたたんで返します。母に聞くと、戦時中にはこんな贅沢品(ぜいたくひん)は禁止されていたそうです。」と話す。
 広蓋(ひろぶた)に掛けるようなふくさは、おめでたい絵や刺繍が施されている。大正・昭和期には、万寿盆用に小型化し、家紋か「寿」などの吉祥文字のみのふくさとなり、さらには金封を贈るだけの台付きふくさに変わった。**さんのふくさは、1辺が約54cmで万寿盆に対応し、しかも刺繍が施されており、その推移の過程を示す物といえる。写真2-3-34に見られるような広蓋用の大型で刺繍や染色が施されたふくさは、現在(平成16年)は、多く美術品として美術館等に収蔵される存在となりつつある。            
 風呂敷は、包み運搬する道具である。掛けるふくさの意味はなんであろうか。『袱紗』によると、「防塵布としての機能よりも清浄結界や情意表現などの表現具(⑦)」だとし、ふくさを掛けることによって特別に清浄な世界を生みだし、ふくさの意匠で心を伝えようとしたものであるとしている。


*12 : 広蓋と万寿盆 古代、中世には贈り物を唐櫃(からびつ)で運び、相手に渡す時はその蓋(ふた)で渡す習わしであったと
  いう。その蓋が贈り物専用の器として漆塗り、家紋付きの広蓋に変化したもので、現在(平成16年)の賞状人れのような
  長方形の漆塗りの盆である。一辺が1尺(約30.3cm)以下で正方形のものを万寿盆と呼ぶ。広蓋や万寿盆は曲尺(かねじゃ
  く)(1尺=約30.3cm)で作成され、ふくさは鯨尺(1尺=約37.9cm)で作られる。容器と同じ寸法のふくさであれば、
  当然容器を覆い隠す計算になる。

写真2-3-34 二つのふくさ

写真2-3-34 二つのふくさ

左が広蓋用、右が万寿盆用のふくさ。四国中央市川之江町。平成16年6月撮影