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瀬戸内の島々の生活文化(平成3年度)

(1)舟形のウバメガシ(越智郡岩城村)

 このウバメガシは岩城村西部地区の祥雲寺の庭に見られる。この寺には、京都の金閣寺建設と同時代の永享3年(1431年)に飛騨内匠藤原重安が作ったといわれる観音堂があり、国の重要文化財に指定されている。
 ウバメガシは、大小4本が一体となっており、地上2.5mくらいから、枝をすべて水平に延ばし、幅10m、長さ30mの平坦な葉群を構成している。中央のウバメガシは、もっとも太くて胸高幹周300cmもあり、樹齢は300年ほどと言われているが、ウバメガシの大木としても希なものである。全体の形は舟形を意図して作られたもので、中央には、1本のウバメガシの幹を上に延ばし、それが3段に切り込まれ帆柱となっている。これは瀬戸の海を借景として、海に浮かぶ帆かけ船であり、全体は「舟形のウバメガシ」と呼ばれている。ウバメガシの自然木の樹形からは想像もつかない見事な樹姿だが、刈り込んでも良く萌芽するウバメガシの特性を利用したものである。これほどまでに造作するには、幾代もの住職の苦心があったことだろう。昭和43年に県の天然記念物に指定された。
 寺の裏側には、ウバメガシを鑑賞するための展望台が設置されているが、本来、このウバメガシは寺の座敷から眺めるものである。寺は、集落を見下ろす高台にあるので、本堂の座敷から西を見ると、眼下に瀬戸内の島々が眺望出来る。正面は伯方瀬戸であり、瀬戸を挾んで右に生口島、左に伯方島がある。瀬戸の奥には大三島が遠く霞んで見える。穏やかな海には幾つも船舶が行き交い、目を凝らせば釣舟が小さな点となっている。まさに見とれるばかりの佳景だ。とりわけ夕日が美しいという。
 その遠い景色は、そのまますぐ目の前のウバメガシの緑の葉波につながっている。しばらく眺めていると、ウバメガシの平坦な部分が緑の海に、そして帆柱がその海に浮かぶ舟に見えてくる。 
 ウバメガシは崖地などにごく普通に生育しているが、おそらく寺が建造された時代には路肩の崖に自然に生えた灌木だったのだろう。木が成長するにつれて、展望の邪魔になるので上部の枝葉を切り揃えているうちに、現在のような樹形になったのだろう。しかし、座敷から眺めると、下の家並みや雑木や畑が隠されてしまい、ただ遠い瀬戸の海だけが見える。あくせくした俗世間を忘れて、ひととき悠長の世界に心を置くために作られたものとも思える。

写真2-3-1 舟形ウバメガシ

写真2-3-1 舟形ウバメガシ

平成4年2月撮影