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瀬戸内の島々の生活文化(平成3年度)

(4)伊予水軍の聖地-大山祇神社-

   「伊予一の宮ある島の大鳥居海にうつりていや白く見ゆ」(吉井 勇)

 瀬戸内海の海上交通の要衝に位置し、芸予諸島の中でも最大の島は大三島である。その大三島には、伊予最古の旧国幣大社(こくへいたいしゃ)(国司がまつる神社)である大山祇神社が伊予一の宮として鎮座している。大山積神を祭神とする大山祇神社は「日本国総鎮守大山積(そうちんじゅおおやまずみ)神社」、「三島大明神(みしまだいみょうじん)」とも呼ばれ、古くは伊予の名族越智氏をはじめ源平両氏、戦国時代には河野氏を中心に、大内氏・小早川氏・村上三氏など戦国武将たちによって、武神・海神・山神として厚い崇敬と保護を受けた。大山祇神社は、越智氏の出自といわれる神官大祝氏の努力のもとで発展し、本来、山の神である大山積神を祭る三島神社が伊予国各地に建てられ、海運・農業・漁業・山林・鉱山の守護神として、一般庶民からも幅広く信仰された。
 同神社には、中世において活躍した源氏や平氏をはじめ各武将が武運長久祈願と満願の際に奉納寄進した多数の武器・武具が所蔵され、特に国宝・重要文化財指定の甲冑は77点に達し、全国の80%の所蔵を誇っている。その代表は、源義経奉納と伝えられる赤糸威胴丸鎧(あかいとおどしどうまるよろい)・大袖付(おおそでつき)、紫綾威鎧(むらさきあやおどしよろい)・大袖付(おおそでつき)(源頼朝奉納)、紺糸威鎧(こんいろおどしよろい)・兜(かぶと)・大袖付(おおそでつき)(河野通信奉納)等の国宝類であり、更に、鎌倉期以前の太刀(たち)の所蔵は国宝・重要文化財指定の刀剣類を含め全国一である。まさしく同神社はわが国の武器・武具の宝庫としての役割を果たしている。
 今日、同神社を参拝に訪れると、国重要文化財指定の本殿、拝殿を中心としてうっそうとそびえ立つ国指定天然記念物の楠の巨木群と共に、水軍のメッカ(聖地)にふさわしい歴史の年輪と荘厳な雰囲気を漂わせている。
 また、同神社所蔵の国指定重要文化財として注目されるのは、281巻に及ぶ法楽連歌(ほうらくれんが)である。この連歌集は「三島大明神法楽連歌」として大山祇神を安めるために奉納されたものであり、文安2年(1445年)から寛文11年(1671年)に至る227年間に及んでいる。法楽連歌の作者は、河野通直など河野一族はじめ神官大祝氏、水軍武将の村上通康(みちやす)(来島城主)、村上吉継(よしつぐ)(甘崎城主)など村上氏一族や僧侶・庶民・女性にまで及んでおり、各階層の人々の宿願成就、感謝祈祷のこもった連歌集となっている。これらは、瀬戸内海の島々を舞台とした地方文化水準の高さを示しており、わが国中世文芸の宝庫としても大山祇神社の名を高くしている。