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柳谷村誌

第一節 観光

 村の西から南にかけて、村ざかいをなす隆起山地―四国カルスト高原は、平担にひらけてなだらかな稜線を、ながく描いてゆく。そしてこの高原から、一気に刻み下りた黒川の刀の跡に、流に沿って絶間なく渓谷美が、綴られている。草木に石に水に、三拍子そろったわが村、いたるところに自然美を織り出して、観光のことごとに充ち満ちる。
 その一 大川嶺(一五二五メートル)から笠取山(一五六二メートル)へ
  四国の北海道高原
  大川峰から笠取山へと、弧状の稜線が四キロを越して連なり、緑の
  ジュウタンを敷きつめたような牧草の風景は、遠く北海道を連想さ
  せてくれる。ここも国営による草地改良事業が実施完了され、笹原
  の原野は採草放牧地と変わっており、毎年四月から一〇月にかけて
  牛の放牧が行われている。
  春から秋にかけては高原のシーズンとなり、隣村の美川村の方では、
  冬季山スキーのゲレンデとなる。展望にかけてもまたすばらしく、
  北は久万高原の村落を望み、遠くは三坂峠を越えて、瀬戸内の興居
  島が見え、それより東に、石鎚連山が遥か彼方にたなびく。
  東は中津明神山(一五四一メートル)と対峙し、西は坪神山から晴
  れた日には九州の国東半島を望むこともできる。
  そして南に源氏が駄場・牛が城・地芳峠・姫鶴平・五段高原と、緑
  の稜線が空に一線を描いている。
  山頂一帯には点々と、庭木のようにツツジが群生して、四月下旬か
  ら五月上旬にかけて、かれんな花の一面の花畑となる。また新緑の
  ころは、国有林のブナ林が美しい景観をかもし出してくれる。
   ルート
  (1)自家用車 落出一三㌔二〇分→大成二㌔三〇分→大川峰・笠取
    山二㌔五分→大谷五㌔一〇分→御三戸 国道三三号線→松山。
  (2)国鉄バス利用した登山
   国鉄バス(松山高知急行線)の御三戸・成川橋の駅地点よりそ
れぞれ登山道がある。主なコースは美川村の大谷集落を経て、
美川スキー場の中央ゲレンデを横切り、営林署造林小屋のそば
    を通って登る。所要時間は片道約三時間である。もうひとつは、
    国鉄バス(同前)落出駅から、国鉄バス(落出古味線)で〝名
    荷出口〟で下車、名荷、木地を経て国有林の中をぬけ、大川峰
    の南稜に出るコースで、変化に富むハイキングコースとしては
    一番良い。所要時間は片道約三時間半である。
 その二 四国カルスト 姫鶴平~五段高原~天狗高原
   ルート
  (1)自家用車 落出より所要時間片道四五分 落出一五㌔二〇分→
    古味九㌔一五分→地芳峠三㌔一〇分→五段高原
  (2)国鉄バス
    落出より所要時間片道一時間三〇分 夏期臨時バスヤングメー
    ト号利用
    落出ヤングメート号一時間三〇分→姫鶴平徒歩回遊二㌔二時間
    五段城ヤングメート号一〇分→姫鶴平ヤングメート号一時間二
    〇分→落出
  地芳峠より約一〇分、少し急な曲りくねった道を走ると、広大にひ
  ろがるカルスト高原が眼前にひらけてくる。このカルスト高原は、
  秋吉台、平尾台と共に、日本三大カルストの一つとされ、標高が高
  いのが特徴で、西は大野が原(野村町)から、東は鳥形山(高知県)
  まで延長二五キロに及ぶ。高山植物を集めた生え越の森を背に、陵
  線がなだらかに拡がる。この地点を姫鶴平と呼び、東に向って五段
  高原がつづく。白いカーレンフェルトが点在するさまは、一瞬羊の
  群を思わせ、ここでは毎年四月下旬から十月上旬にかけて、二〇〇
  頭をこえる放牧牛が、のんびりと草を食んでいる。
  姫鶴平から五段城(一四五六メートル)迄は二・〇キロで、完全舗
  装された高原道路が貫通しており、道路傍の遊歩道を二〇〇メート
  ルほど登ると五段城に着く。ここからは四国カルストを一望するこ
  とができ、振り返っては、姫鶴平のスロープ、生え越の森、地芳峠、
  その後方には牛が城、そして源氏が駄場の稜線が続いて、延々と横
  たわる。また行く手には、顕著な石灰岩の露出、その背後に瀬戸見
  の森、天狗の森と続き、四国カルストの東の端、白く頂の光る鳥形
  山と、三六〇度にわたって展望が開け、全く壮観の一語につきる。
  五段城から更に東の天狗高原(高知県)へは、そのまま遊歩道を約
  三〇分であるが、この間は四国カルストの中でも景観のすぐれたと
  ころで、姫百合台・白雲台・碁石が原の名勝がある。笹原とすすき
  の草原の中に、さまざまの形状のカーレンが灌木の姿態を競い、天
  然の名園となっている。
  この姫鶴平から天狗高原天狗荘まで約五キロは、幹線道路がつらぬ
  けており、車で一〇分程で、四国の屋根を翔ける高原の道が楽しめ
  る。
   宿泊施設ー姫鶴平、生え越の森をバックに姫鶴荘がある。四季折
        々の山菜料理・あまご料理を楽しみながら、カルスト
        高原の別荘でゆっくり羽根を伸ばすのもよい。
 その三 地芳峠
  五段高原・大野が原東西一五キロの略中央に位して、国道四四〇号
  線が愛媛・高知両県を結ぶ。標高一〇八四メートルの峠迄一気に走
  れる。
  峠からの眺めはすばらしく、東に姫鶴平・五段城、西に小牛が城・
  大野が原が連なり、その稜線のやわらかな起伏がすすきで覆われ、
  女性的な美しさを誇っている。又稜線は草花が、それぞれの季節に
  色どりを添え、秋はお花畑となる。ハイキングは春か秋がよく、春
  のワラビ・ゼンマイ・ウドなど、山の幸の採取を兼ねたハイキング
  は年々にぎわう。夏はやはりキャンプがよい。朝、牛が城の頂上か
  ら眺める御来光は変化に富み、雲海と相俟って全くすばらしい。
  大野が原へは、小牛が城・姫草を経て約三時間。牛が城へののぼり
  は苦しいダラダラ坂がつづき一時間半かかる。峠から下山の場合、
  梼原町永野の県交通バス停留所まで四○分。柳谷村古味の国鉄バス
  停留所まで一時間半。峠には、梼原町観光協会の経営する地芳荘が
  ある。
 その四 日浦洞
  国道四四○号線の中久保部落から約五〇〇メートル、地芳峠からの
  沢のつきあたりで、道路から約二〇〇メートル上に白い石灰岩の露
  頭が見え、支洞がポッカリと口をあけている。
  この支洞からははいりにくく、支洞の右上一〇メートルのところに
  入口がある。全長二五○メートルの水穴で、大量の地下水を湧出し、
  そのうち一〇〇メートルのサイフォンになっためずらしい洞穴で、
  水中一〇〇メートルはアクアラングを使って探検されたが、瀑があ
  りその奥は全くのナゾにつつまれている。
  人ひとりがやっと通れるぐらいの支洞がいくつもあって、ザイルを
  持っていけば、たのしい洞穴探検ができる。
  またこの近くには、中久保洞・山神洞があり、日本でも寒い北国に
  しか棲んでいないといわれていた、耳の長いウサギコウモリ、管状
  にとがった鼻をもつテングコウモリが棲み、生物学上貴重なものと
  されている。
 その五 柳谷キャニオン
  ルートー国道三三号線落出駅から柳井川小学校を経て二・五キロ、
  黒川第二発電所はこの渓谷の玄関口、発電所前を抜け、足に自信の
  ある方は、渓谷を歩くのがおもしろい。ただし、増水時や女性は川
  の左岸を歩くのが無難。
  台風で歩道が荒れたままだが、がまんして一〇〇メートルも進めば
  旧歩道に出る。この歩道を渓谷沿いに左岸をさかのぼるのだが、道
  も細く落葉が堆積して歩きにくい趣がある。一時間も歩くと、渓谷
  は急に開けて明るく、両岸は数十メートル絶壁で歩道が切れる。コ
  ースを渓流にとって対岸の岩のトンネルをくぐり、再び左岸に渡っ
  て歩道に出る。一五分も歩くと、崎山からの歩道と合流して八釜の
  甌穴に至る。
  甌穴の探勝は八釜橋の上からも出来るが、渇水期なら渓流に降り、
  甌穴の縁に立つことも、又対岸に渡ることもできる。
  帰りは八釜橋から三〇分で崎山の国鉄停留所に出る。
  この歩道は整備されていて、女子や子供にも危険はない。時間があ
  れば八釜橋を渡って、渓流をさかのぼると、幽谷の感を一層深める
  と思う。落出から渓流を探勝して、崎山迄の所要時間は約三時間で、
  メンバーによってこれを標準にするとよい。子供連れの時は、直接
  崎山からの往復が無難である。
  みどころー柳谷キャニオンは、小田深山・大野が原に源をもつ黒川
  が仁淀川に合流する附近から、小村附近迄の約七キロに及ぶ典型的
  なV字型の渓谷で、両岸は一〇〇メートル以上の急崖となり、至る
  ところに懸谷瀧が白布を懸けている。この渓谷の第一のみどころは、
  黒川第二発電所の附近。玄関口にふさわしく、右岸の天狗岳の大絶
  壁がそびえ、左岸の人工の大瀑布は壮観の一語につきる。しかし残
  念ながらこの滝は、渇水期には見られない。天狗岳大絶壁の上に、
  はしごで昇降するほか道のないところに一軒の茅屋がある。周囲の
  最観に調和して南画を思わせ、ここからの大瀑布は一段と豪壮な眺
  めである。この発電所から四〇〇メートルの上手にある地獄渕は、
  この渓谷随一の渕で蒼黒の底には主が棲む無気味さがあり、下流に
  は新しい甌穴も亦見ることができる。八釜甌穴群の下流二〇〇メー
  トルの砂の瀬では、一夜のキャンプ飯ごう炊さんなどを楽しめば味
  は格別。
  渓谷美は、秋のもみじを最も可とするが、山ざくら・つつじ・しゃ
  くなげなどの咲くころ、新緑もすばらしく、巌谷小波先生の詠まれ
  た。〝夏水や湧くやおどるや釜八つ〟のように、夏もまたよく、岩
  頭に雪の綿帽子をのせた風情もすて難い。
 その六 八釜の甌穴群(特別天然記念物 昭和二七年三月二九日国指定)
  黒川の河床になっている堅硬なフリント質角岩の上に、大小三〇余
  簡の甌穴群を生じたもので、甌穴群は縦に五列に並んでいる。
  第一列は川の左岸に沿って八個一列をなし、深い溝によって相連結
  し、各甌穴間は小さな瀑となって、つぎの甌穴に注いでいる。甌穴
  はその滝つぼに当たり、この列は現在川の主流をなしている。甌穴
  の最も大きなものは、径九~一二センチ。深さは岩上から水底迄一
  三・五メートル、水深約六メートルもあり、大きな釜状となってい
  る。
  第二列は河床の中央にあって五個つらなり、第三列は更にその右側
  に五個連なり、第四列は最も右岸に近く、三個連続して、上流から
  の水は一部分わかれてこの方向に流れ、再び本流に合している。第
  五列は第一列の左岸に、やや高い河岸に数個列になって点在し、最
  も古い時代には、ここを水が流れていたと思われる。一度甌穴群の
  中央に立って、細かい甌穴の形状を観察すると、トンネル釜・二段
  釜・メガネ釜・獅子釜等、形状はさまざまで、自然の妙趣に驚くほ
  かない。
  八釜橋の左岸には、最近一大断層面の露頭が発見された。その鏡面
  のように磨かれた露頭面は、八釜と合わせて、貴重な学術的資料と
  されている。八釜甌穴群の周辺には、このような断層は各所にあり、
  甌穴群の成因に重大な関係があるものと思われる。
  黒川の谷は深く、この谷の壁を上へ上へと辿って眺めていくと、ほ
  とんど一直線で山の頂迄続いているようである。
  大川峰を通る北西~南東の方向の直線を引いて、その線に沿うて、
  山を縦に切った切り口の図(地形断面図)をみると、谷はいやに深
  くえぐられているのに対して、大川峰辺りの山の頂が、平らなとい
  うことに気づく。幅がせまくて深い谷と、広くて平らな山の頂とい
  う組み合わせは、どうしてできたか。黒川の谷などができる前の遠
  い昔のある時は、図の点線のような凸凹の少ない広い地形をしてい
  た時代がある。これを準平原という。今大川峰(一五二五メートル)
  あたりが残っているのは、そこが一五〇〇メートルくらい隆起した
  からであろう。
  八釜の甌穴は、この谷底を深くえぐる働きのため出来たものである。
  川の底に何かのために、ちょっとした穴ができたとすると、その穴
  の中で水が渦巻き、そのとき石ころが穴の中にとび込み、それが水
  の渦の勢いで穴の中の壁にぶつかって壁をこわしてゆき、穴はだん
  だん大きくなる。

四国カルスト五段高原案内図

四国カルスト五段高原案内図


四国カルスト 姫鶴平~五段高原~天狗高原

四国カルスト 姫鶴平~五段高原~天狗高原


柳谷村断面図

柳谷村断面図


甌穴の成因説明図

甌穴の成因説明図


第一甌穴郡縦断面図

第一甌穴郡縦断面図