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柳谷村誌

第一節 新しい社会の出現

 名づけて「明治維新」といわれる。維新は維れ新たなりと訓ずる。永い封建社会体制が、その安定を失って変化を選ぶことになる。変わるべくして変わり、生まれるべくして生まれる新しい文化体制である。文化はつねに安定と変化を積み重ねてその層を厚くしてゆく。意味づけてこれを進化という。生まれ出た社会体制の新しい所以を覗いてみる。
 人々はこの地に住みついて、農耕による自給社会をつくり、その社会の支配者となった封建大土地所有者と、その土地の農耕従事者とは、共同体として存立し、農本的封建社会期を経てきたのである。この共同体制は、農耕労働者迄も含めて生産手段化した土地の単一農耕利用なのである。この共同体制が生み出す生産物の分配関係は相対的である。所有者側は、従事者層の必要生産物量の少量化を願って、余剰生産物量による自己所得増大を図る。従事者側は、自己の必要生産物量の安定化と、その超過生産物量による自己致富化を求めるものである。この相剋し合う両者の関係は、やがて従事者側の生産性向上が、自己の致富化志向に統合され、所有者側の所得低落・財政破綻を来すに至る。ここで単一な農耕利用の共同体制は、その安定性を失うに至る。
 人類は、文化化の過程で、その転機に立つとき、新しいエネルギーの発明に成功している。採取生活の極限に立ったとき、農耕の大発明に奏功している。この発明は、「光合成する太陽エネルギー」の発明であった。以来一万年、人類はその発明を忠実に実践してきた。農耕道具の改良等、その物理的側面には進歩の跡が見られる。人類の内胚葉のニーズ(内臓の要求に応ずる)の側面は、この発明の改良進歩を以て充たすことができるであろう。しかし安定保持が至難となった社会体制の側面の解決のため、新たな発明を発想しなければならない。人類は、中胚葉のニーズ(筋骨皮膚の働き要求=主に手足の要求)に応ずる大いなる発明に成功した。それは「化石燃料燃焼エネルギー発明」である。史家名づけて産業革命といい、社会体制通産化改変を迫る決定的発明であった。
 新体制への改変のため、旧い体制はその両極に分解した。そして新体制への転換の鍵を果たす「絶対権力」が打ち樹てられるに至った。維れ新たなる所以は、この「絶対権力」を指すものと考える。明治が迎えた近代社会の絶対権力とは、「国家権力」のことである。その主体は、「人間性の自覚と承認を保持する国民の権威」であり、その象徴は「天皇制」である。

明治初期の松木組略図(小坂卯太郎提供)

明治初期の松木組略図(小坂卯太郎提供)