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美川村二十年誌

二、蛇ヶ淵

 大川の石本城主の梅木右馬允政倫の末裔と称する男が日ノ浦本組にいました。常に鉄砲を所持していて、その腕前は近在に鳴り響いていました。或る日、面河川の川辺で松の木を切っていますと、一匹の蜘蛛が来て、頭に糸をつけるのです。その糸を払いのけては、松の切り株につけると、また糸をつけるので不思議に思いながら、払いのけては切り株につけました。同じ事を数十回すると蜘蛛は、川の向い側に石伝いにわたり、糸をたぐり始めました。すると松の切株はいとも簡単に川の中にくずれ落ちたのです。すると蜘蛛は声高く笑って淵の中に消えたのです、梅木氏は大いに怒り、「わしを川の中へ引き込まんとしたのは何者ぞ、わしの鉄砲にかけて勝負してやる、明朝ここに来い」と大声で呼び、急いで家に帰り、その夜は寝ずに鉄砲の弾丸づくりをしました。ところが弾丸の中に、八幡大菩薩の八の字の刻まれてあるのが出て来たので、大いに自信を得て、夜の明けぬうちに、昨日の淵の上に立ちました。すると川辺から一人の妙令の美人が、微笑をたたえて岸を上って来るのです。これを見て「曲者なにするものぞ」と引金に手を掛けると、大音響を立てて弾は妙令の美女に命中したのです。すると爆煙の中、美女は大蛇の姿となって、轟音とともに淵の中に消えたのです。
 その日より、この淵は、三日三晩血にそまっていたといいます。以来、この淵を「蛇ヶ淵」と言っていましたが、現在ではそれがなまって「ジガヤ淵」と呼んでいます。今でも蛇とも、かわうそともつかぬ動物が淵に現われるといいます。
 誰が建てたか、蛇を祭る祠が淵の傍らに建てられ、松の木がこれを覆っています。この松の木に鳥が止り、三回鳴くと三日目に人が死ぬと噂されています。世は移り変りましたが、土地の人々は、この付近を気味悪がって近寄ろうとしません。