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面河村誌

三 余 滴

 明治四十三年(一九一〇)杣川村郷土誌の編集があった。その「中組之部」を制作した面河尋常小学校長岡部博吉の地誌と漢詩を抜粋して記したい。
 明治時代の雄渾なる文章は、格別の風格があり、面河の自然を讃美して筆を走らせた最初のものではあるまいか。
  面河川ノ水源ハ面河渓ヨリ発シ面河山林ノ諸流ヲ合シ隣区若山ヲ径テ江ノ子川ト相合シ本区二入ル川幅広狭アリテ一定セズト雖風十三間水深モ亦等シカヲズト雖モ是モ亦常流三、四尺ニシテ両岸皆石身ニシテ上ヲ戴キ青松之レガ髪トナリ紅葉之レガ裳ヲナシ禽声其間二上下シ下岸水簾ノ懸ルアリ灑々トシテ漂石ノ上ニ墜ツルアリ。
  本区ノ末流落合ニ(破石川トノ落合)至レバ石皆奇状両岸ニ羅列シ或ハ突起シテ柱ノ如キアリ或ハ折裂シテ門ノ如ク大岩ノ水面ニ屹立シ坐シテ一太白ヲ浮ブルヲ得ベキアリ本村勝地ニシテ其ノ深穏ノ態李白ノ筆退之ノ手ニ非ザレバ其ノ状ヲ述ブル能ハズ。
  毎年脱秋ニ至リ残レル紅葉所々ニ点在セシニ早クモ六花翻々紅葉変ジテ白花トナル事婁々アリ降雪時期ノ早キ事寒気ノ激裂ナル事ハ我国信洲ニモ劣ラザリ更ニ一吟スレバ
    聞説信洲雪
    冬季茅屋封
    我尚在山僻
    盈尺婁相逢
  山水ノ景美ニシテ四時ノ眺メ佳ナラザルハナシ春ハ花卉睛深禽声上下シ夏ハ納涼ニ適シ秋ハ満嶺紅葉日光ニ映エ其状恰モ二月ノ花ヨリモ紅ナリト云フ如ク萬峰ノ連山錦繍ヲ織ル如ク冬ハ萬山銀界ニ変ジ其壮観筆述スル能ハズ河川モ亦奇岩怪石屹立シ深渕清流流雪ト飛ビ玉卜散ルノ清勝アリ。
    嫩緑扶疎樹影長
    林間無処駐春粧
    数群狂蝶高飛去
    不識何枝剰晩香

    暁園多宿蝶
    白点映窓紗
    風起不飛去 
    初知是比花
          (原文のまま)