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面河村誌

(三) 小道具類の製作

 水汲用の手提桶、「はんぼ」などの飯櫃・盥・肥田吾・肥壷などの桶類は、暮らしと生産に欠くことのできないものである。
 桶類の材料は、槙・栂・松・杉などの材質、木目のよいものを、板又は割り材としてじゅうぶん乾燥し、木の反りを見て選んだ。桶屋という渡り職人が専ら製作したが、土地の者も、見様見真似で素人細工をする者もあった。
 鍬・鎌・斧などの柄も、それぞれの道具に応じて、材料を選択した。樫・桑・合歓木などの原木から荒取りして、桶類の材料同様よく乾燥し、木の反りを見てみずから飽をかけて、製作したのである。
 桶類に次いで、竹籠(おいかご・ちゅうかご・いれこかご)、箕「したみ」などの竹製品も、必要欠くべがらざる道具である。
 唐黍取り・茶摘み・芋掘りあるいは雑穀の精製に、生活の道具として重宝に利用された。
 こうした竹細工も渡りの職人、又は土地の人々の手になった。
 桶類は昭和時代の初めころから、馬穴などのぶりき製品に押され、太平洋戦争後は、化学製品の容器がしだいに売り出され、現在は日常生活にほとんど使われていない。
 竹籠類は、雑殼農家の衰退と、それに代わる容器類の普及で、その利用もだんだんなくなりつつある。
 桶にしろ、竹籠にしろ、そうした製作技術を持つ職人、あるいは村内の素人職人もいなくなった。生業の変化・生活方法の変遷は、こうした伝来の道具類を捨て、その製作技術さえも忘れられてしまった。
 建築用材はもちろんのこと、鍬の柄一本を探すにも、あの木この木と考え、それを製品にする思考と技術、それは一朝一タにできるものでなく、あるものは、この地特有の伝来の文化ともいえよう。現在、なんでも安易に求められ、欲望を充足させる。そこには、技術もなければ思考もない。
 せめて、祖先の英知の表れである生産生活用具の品々を残し、それらを通じて素ぼくな農村文化の跡をしのびたいものである。