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面河村誌

二 コマドリなどの鳥類

 昭和四十五年(一九七〇)愛媛県鳥に指定されたコマドリは、古来よりウグイス・オオルリと並んで、日本の名鳥の一つに数えられ、人々に親しまれてきた。コマドリ(駒鳥)の名は、胸を張って高らかに鳴く声と姿が勇ましく、あたかも、駒のいななきを思わせるからだといわれている。
 コマドリは亜高山性の小鳥の筆頭である。「石鎚鉤」と呼ばれるほど石鎚山系に多く生息する小鳥である。体長七・五センチほど、オスは胸が濃茶赤色、腹部が汚白色、メスは赤味に乏しく、全体に暗緑色で地味である。標高一〇〇〇メートルぐらいのブナ林から上に生息しており、四方の谷間から「ヒンカララ…」と、高い鳴き声を響かせる。サクラの花の開くころ、山麓でさえずり始め、初夏の訪れとともにしだいに高所に移る。なわ張り意識が強く、一つの谷に一つがいしかいないのが、普通だ。巣はサカズキ状でがけなどの隠れた場所に多い。「コマドリが鳴けば山の中腹を過ぎた」といわれるように、この鳥は登山者にとってかっこうの〝高度計〟となっている。
 面河の春は四月の中旬ごろから、春の来るのを待ち望んでいたかのようにミソサザイがさえずり、やがて、シジュウガラ・ウグイスの声が聞こえてくる。
 五月に入ると、ヒガラ・オオルリ・キビクキなどが盛んに鳴いている。氷河期の残存者とか、春の天使とかいわれているウスバシロチョウも現れる。
 六月、ホトトギス・カッコウ・コマドリ・ツツドリ、そしてメボソムシクイ、〝チョリ・チョリ〟の鳴声が〝ゼニトリ〟とも聞えるので、そんな別名もついている。
 七月、石鎚神社の大祭、山頂近くイワツバメが舞う。ミソサザイ・コマドリ・メボンムシクイ、そしてウグイスなどがさえずり、お花畑には色とりどりの昆虫が、花から花へとたわむれている。
 八月、夏山登山の最盛期、コガラ・ヒガラ、〝一筆啓上仕り侯〟の鳴声のホオジロなどが、けたたましくさえずり始める。関門辺りの木々には、ミンミンゼミ・チッチゼミが、我が世が来たとばかり鳴いている。
 九月中ごろ、石鎚・面河では、秋風が吹き始め、シジュウガラ・ヤマガラなどの群れが見られる。オオルリやキビタキの渡り鳥も、その準備に忙しい毎日である。
 十月、石鎚・面河は万山紅葉の秋、渓流にセキセイが飛び回っている。
 十一月から四月まで、山越しの風吹く冬、アオゲラ・ヒヨドリの留鳥が、渡り鳥を追いはらうかのように飛び回っている。
 〝天狗の申し子〟といわれるホシガラス(カラス科)〝ガァーガァー〟と気味悪く叫ぶ。なんといってもこの鳥が石鎚の長老である。体は約二〇センチ、羽は濃かっ色、全身に細かい白斑がある。クチバシと脚は暗黒色、針葉樹の太い枝に枯れ枝やカンバの樹皮を集めて巣をつくり、白い卵を三、四個産む。雑食性で木の実のほか、虫・動物の死がいなど、ありとあらゆる食物をついばむ。性格は非常に図太い。しかし近年お山の俗化とともに、ホシガラスは登山道からめっきり姿を消したという。
 その他、石鎚・面河に普通に見られる鳥は次のような種類である。
 ミソサザイ・カワガラス・ヤマセミ・キセキレイ・セグロキセキレイ・カワセミ・ヤブサメ・オオルリ・ジュウビタキ・コサメビタキ・ノビタキ・モズ・ヒガラ・エノガ・シジュウガラ・キビタキ・コルリ(チッ、チッチッとしだいに早い前奏をつけ、チッカラララ、チッチーリ、チールなどと高らかに歌う)・ホオアカ・ビンズイ(渡り鳥の時静かに鳴きながら空を渡る)・メシロセンダイムシクイ・ヒワ・コカワラヒワ・アオジ・ヤマガラ・コゲラ・ムクドリ・ベニヒワ(頭に紅色の毛)・コムクドリ・イスカ・シメ・トウツグミ・コマドリ・カッコウ・ウグイス・セッカ・アカハラ・コヨシキリ・オオコノハズク・アオバズク・ホトトギス・ヒヨドリ・カケス・ヨタカ・サンショウズイ・ジュウイチ・マメノキ・ブッポウソウ・ウソ・ルリビタキ(ヒョロロ、ヒョロロと四小節のリズムで、終日楽しげにさえずる)・イワツバメ・ホウジロ・ミヤマホウジロ・アリスイ・ノゴマ・ヤブサメ・サシコウチョウなどの、約七〇種ぐらいであるといわれている。
 ヤマドリ・キジなども雑木林がなくなったのでだんだん少なくなり、川岸にたくさんあった野生バラの赤い実・草の実も近年ほとんどなくなり、渡り鳥も減少した。山畑の雑穀もなく、ホウジロなどの小鳥もだんだん姿を消してゆく。
 ここ数年の間に、石鎚・面河の鳥は激減したというのが一致した意見である。原生林の代採、石鎚スカイライン、林道の開発、石鎚の観光地化など、どれもこれも、小鳥たちにとっては悪条件ばかりである。
 石鎚は高山鳥の繁殖地としては、我が国の南限に当たるという。日本アルプス・東北地方・北海道にしか見られない高山鳥の存在は貴重なものである。石鎚の鳥は、ほとんどが保護鳥、みんなが心して、いたわりたい。

鳥類の垂直分布

鳥類の垂直分布