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面河村誌

一 カモシカなどの哺乳動物

 カモシカは、名や姿はシカに似ていても、実はヤギと同じくウシ科の動物である。現在は特別天然記念物に指定されている保護動物である。しかし、指定を受けた後も密猟が続き以前より少なくなった。毛皮に下毛が密生していて保温と防水に優れ、肉は重要な蛋白源であった。ニク・アオシシ・クラシシといった別名は、獣肉を意味するシシやニクに由来している。〝つの〟は釣りの擬餌として使われていた。こうしたことから考えると、かつては、かなり多数生育していたらしい。
 現在では、カモシカは高山の動物であるという印象が強いが、これは低山に住んでいたが、追われたり殺されたりして、ごく少なくなったからで、山の高低にかかわらず丘陵や崖を本来の住み場所としているように思われる。今では、標高一五〇〇メートル以上の、亜高山帯の常緑樹林に住んでおり、そこで、シラベやモミの若葉・コケ類を食べている。愛媛県では昭和二一年ごろ捕まった個体の皮が県立博物館にある。
 たくさんいた動物だが、近年(一〇〇年ぐらいの間)絶滅に近い動物の一つである。
 リスは石鎚山の頂上近くまで、ムササビやイタチはブナ帯まで、テンはさらにその上部にまで住んでいる。タヌキ・アナグマ・イノシシは、人家近くや渓流の近くに住む傾向がある。イノシシは近年減ったとはいえ、クズの根を掘り返した所が、林の中にここかしこあったり、五、六人の猟師が、一日に三頭も、しとめたりしたこともある。
 他方、帰化動物とされているハクビシンは、漢字で「白鼻芯」と書き、鼻筋の中心が白いのが特徴である。ジャコウネコ科の動物で、南はスマトラ・ボルネオから、北は中国中部まで分布している。習性などについては、余りわかっていない。
 この動物が話題になったのは、静岡県でミカンに被害が出たことによる。昭和十九年(一九四四)飼育中のものが逃げ、それが野生状態で繁殖したものと考えられている。
 面河村でも、昭和三十年(一九五五)に見つかったという記録がある。この標本も県立博物館に保存されている。現在でも、村内のあちこちで、果樹や農作物・養鶏・養魚に被害があるといわれ、カキの実が熟するころ、カキの木に糞が付いていることもあるという。
 夏は瘠せていても、秋は山の幸をせっせと食べて、冬には丸々と脂肪太りして、肉の味はイノシシ以上だともいわれる。
 しかし、ハクビシンは、ノウサギ・ノネズミなどを駆除する益獣とも評価されている。
 現在、道後動物園には、これが数頭飼育されている。
 日本特産で冬眠するヤマネは、樹上性のネズミ大の小動物で、とがった鼻とかなり大きな目、毛のない大きな耳を備えており、当地ではキネズミと呼ばれている。春から秋にかけて、昼間は木の穴などに休んでいて、夜になると、木の実・木の若葉などを食べている。しかし時には、大型の夜行性動物に捕食されることもあるという。冬になって気温が一〇度C以下になると、体を丸く曲げて、落葉の中などに隠れて冬眠を始める。ヤマネは世界でも、日本にしか住まないたいへん珍しい動物である。今は数もだんだん少なくなっていると聞く。時々人家の近くまで来てカキなどを取るという。
 ムササビ(方言モマ)・モモンガ(方言カマス・コモマ)などもいる。
 小型哺乳類では、ヒメネスミ・スミスネズミなどのネズミ科、ヒメヒミズモグラ・シコクヒミズモグラなどのモグラ科、モリヤブコウモリ・モモジロコウモリ・フジホオヒゲコウモリ・チチブコウモリ、ヒナコウモリなどのコウモリ科の動物もいる。特に、コウモリ科の五種は他の地域でも数個体しか記録が残っていないものだけに、石鎚・面河にいることは、たいへん貴重なものである。
 コウモリの交尾期(冬眠の前の秋ごろ)には両性の個体が、金属的な声で鳴き交わす。雄はせっせと未来の伴侶のごきげんをとっている。攻撃的ですぐかみつくコウモリだが、嫉妬心は余りない。この時期が過ぎると、雌雄はばらばらになる。しかし雌はいつもの所で集団で生活を続け、子宮内に取り入れた精子を温存し、春になって、排出した卵子と結合させて妊娠する。その後、数週間して一~二子を産む。コウモリは、一匹が生きている間に、数百万匹の昆虫を捕食するほどの有用な動物である。