データベース『えひめの記憶』

えひめの記憶 キーワード検索

久万町誌

10 たくあん二きれ

 上浮穴の山奥に父子が住んでおりました。息子も年ごろになったので隣村から嫁さんをもらいました。
 里がえりに行く時に、嫁さんが婿さんに、
「あなたはそそっかしゅうて、お茶を飲んでもすぐに口をやいて、大さわぎをするから、お茶を出された時には、『すまんが、たくあんを二きれください』というて、お茶をさましてから飲みなはい」
と前もっていい聞かせ、里へいっしょに出かけて行きました。
 里へ着くと、嫁の母が、
「疲れただろうから、お茶でも飲んで休んでいなさい。そのうち風呂でも沸くから」
といってお茶を出しました。くる時に嫁さんに教えてもらった通りに、たくあんを二きれもろうてお茶をさまして飲んだので口をやかずにすみました。
 そうこうしているうちに風呂も沸きました。母が、
「さあ、お風呂が沸いたから早くおはいりなさい」
と言いました。
 婿さんはさっそく風呂に入ったのですが、湯が熱かったので
「たくあん二きれ持ってこい。たくあん二きれもってこい」
と大声でいいました。
 これには嫁さんも困って、
「馬鹿にはものを教えても役にたたんわい」
と言ってなげきました。