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久万町誌

7 竜宮女房

 とんと昔もあったげな。
 山の中に村がありました。村には貧しい若者が住んでいました。この若者の仕事は、町へ炭を持って行き、売りさばいてくることでした。
 ある日のこと、いつものように町へ出かけて行きましたが、その日にかぎって買い手がつきません。
 「しようのないことじゃ、こんなことなら竜宮様に差し上げよう」
と思い、村へ帰る途中の海辺で炭を海の中に投げこんでしまいました。そうして、村へ帰ってきました。
 その夜、男が寝ていますと、戸をたたく音がします。この夜更けにいったい誰がきたんじゃろかと思い、戸をあけてみますと、今までに見たこともないような、綺麗な若い女の人が立っています。
「わたしは竜宮の乙姫じゃ。きょうはどうもありがとう。わたしをあんたの嫁さんにしてくれませんか」
と言って、家の中へはいってきました。男は、
「せっかくうちへ来てくれても、食べさせる物もないけに、早う帰ってくだされ」
と言いましたが、乙姫はどうしてもおいてくだされと言うので、とうとうお嫁さんにしておくことになりました。
 このことが、やがて、村の評判になりました。何せ竜宮界の乙姫のことですから、とっても綺麗です。村の庄屋がそれを聞いて、乙姫を貧しい若者の手から取り上げようとしました。若者を庄屋の家に呼んできて
「灰縄を千束持って来なければ乙姫を取り上げるぞ」
と言いました。若者は家へ帰って考えていますと、乙姫が、
「そんなことはわけは無い。縄に塩をかけて燃やすとよい」
と教えてくれました。そこでその通りにすると灰縄千束ができました。
灰縄千束を庄屋の家に持っていきますと、今度は、
「打たん太鼓に鳴る太鼓、お手ふり上げて舞うのが舞、を持ってこぬと乙姫を取り上げるぞ」
と言いました。
 若者は家へ帰って今度も困っていますと、乙姫が、それは太鼓の中へ蜂を入れて持っていくがよいと教えてくれました。そこで言われた通りにして、庄屋の家へ持って行きますと、なるほど蜂が太鼓の中でぶんぶんと鳴ります。庄屋の座敷で太鼓の皮を破って蜂を出しますと、刺されてはたいへんと庄屋は手を振り上げで逃げまわりました。
「お手ふり上げて舞うのが舞」ができたので、庄屋はいまいましくてしようがありません。今度は、
「きみょうきんちゃく、ちゃちゃむちゃく、と言うものを持ってこいや」
と言いました。若者は家に帰って、今度の難題は乙姫でもよう解くまいと、心配して寝ていました。
 乙姫は若者にむかって、今度の難題は何かと聞きました。
「きみょうきんちゃく、ちゃちゃむちゃく、と言うものを持っていかないかん」と言うので、乙姫は、
「それはよいことじゃ。二重ねの重箱を持っていくがよい。上の箱には、赤牛を入れて、下の箱には、侍をいれておくけに案じずともよい」
と言いました。若者は乙姫から渡された重箱を持って、庄屋のところへ出かけて行きました。
「きみょうきんちゃく、ちゃちゃむちゃくを持ってきたか」
と庄屋が言うので、若者は
「ここへ持ってきたけに今からあけて見せるぞ」
と言いました。そこで庄屋は、座敷で大勢の家来衆といっしょに、若者の持ってきた重箱を見ることになりました。
若者が重箱をあけてみますと、上からは赤牛がたくさん出てきました。庄屋が、
「これはきみょうきんちゃくじゃ」
と言っているうちに、その赤牛が家来衆に角で突きかかっていきました。
「これはちゃちゃむちゃくじゃ」
と言っているうちに、今度は下の箱から侍が出てきて、庄屋や家来をみんな斬ってしまいました。
 そうして、若者はかわりに庄屋になり、乙姫といっしょに安楽に暮らしました。