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久万町誌

5 笠地蔵

 とんと昔もあったげな。
 あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでおりました。おじいさんは、毎日山へ行って薪を取ってきました。そうして薪を背中に負うて町へ売りにいきます。
 ある日のこと、いつものようにおじいさんは町へ薪を売りに行きましたが、途中雨に会いました。六地蔵様のところまでくると、雨は土砂降りになってお地蔵はすっかり濡れていました。
「お地蔵様、お地蔵様、もう少し待ってくだされ、わたしか笠を買うてきますけに」
と言って、おじいさんは薪を背に負うて町へ出かけて行きました。薪はみんな売れたので、そのお金で笠を買いましたが、五つしか買えません。おじいさんは五つの笠を持って帰りはじめました。
 途中の六地蔵様のところで、持っていた笠をお地蔵様にお着せしましたが、一つ足りませんのでしようがありません。一体のお地蔵様だけはとうとう背中に負うて、わが家へと戻ってきました。おじいさんのうちは貧乏で、食う米にも困っていましたが、そのお地蔵様はふたりの食うお米だけは、毎日尻から屁ってくれました。
 それでしだいにおじいさんのうちも裕福になっていきました。
 ある日、おじいさんの留守の時に、おばあさんがたくさんの米を出そうと思って、たがねでお尻へ穴をあけました。ところがお地蔵様はもうお米を屁らなくなってしまいました。おじいさんが晩方になって帰ってきますと、お地蔵様は、
「もう、これからは、やっかいになることはできぬ。わしはもういぬる」
と言って、出て行ってしまいました。おじいさんの家は、それからはもとの通り貧乏になってしまったということです。