データベース『えひめの記憶』

えひめの記憶 キーワード検索

久万町誌

3 古岩屋のあまのじゃく

 昔々、神様がお大師様にこの四国の土地に八八か寺の札所を造るようにおいいつけになりました。
 そしてこの伊予の久万、(上浮穴郡久万町)にもやって来られて、お菅生さん(四四番菅生山大宝寺)をお建てになりました。
 お大師様がえんまどうの辻を通りかかりますと、向こうに小さな小屋があって、そこからドタンパタン、ドタンパタンと音が聞こえてきます。お大師様が近づいて窓の障子の破れから中をのぞいてみますと、薄暗い土間の隅で頬かむりをした娘さんが機を織っておりました。
 ちょうどお大師様は足や手が汚れていましたので、布が欲しかったものですから、
「手や足などをふくんですが、少々布をくれませんか」
と頼みました。娘さんは軽くうなずきました。そして、機を織り終わると早速それを切ってくれました。お大師様はこの娘さんの親切がうれしかったのでしょう。
「あんた、なんぞ望みはないですか」
と尋ねました。するとその娘さんは、
「わたしはおくまという者ですが、ここはこんな山の中じゃけん人がおらず、夜などは寂しゅうてかなわんですけれ、町をこしらえてもろたらええと思います」
といいました。
 お大師様はそれを聞くと、にっこりうなずき、早速ここに町をつくり、その心の優しい娘さんの名前をとって「久万」と呼ぶことにしました。
 この久万の町をあとに、お大師様がさらに山の中へはいって行くと、こんどは岩ばかりの山に来ました。そこは古岩屋というところでした。
 神様は、またお大師様に、この古岩屋にもお寺を建てるようにいいつけました。お大師様はもうだいぶ嫌になっていましたが、神様のいいつけなので仕方がありません。また、そこの山の木を伐り倒して仕事を始めました。
 カツン、カツンと仕事をしていましたが、いやいややっているので仕事はちっともはかどりません。神様はとうとうお怒りになって、
 「いつまでもぐすぐすせんと、今晩中にはよ建ててしまえ」
といいました。
 それをいけずのあまのじゃくが聞いておりました。あまのじゃくは何でも人の仕事の邪魔をするのが大好きでした。
 お大師様は神様におこられたので、それからはいっしょうけんめい仕事に精をだし、もうあと少しでできあがるところまで仕上げました。
 お大師様はここらでちょっと一休みしようと思って岩の上で休んでいましたが、疲れがでてついとろとろとしました。気がついてみますと、もう東の空が薄明るくなりかけています。
 お大師様は大あわてで仕上げにかかり、屋根瓦をもうあと一枚置いたらすむという時に、悪いことに鶏がコケコッコーと鳴きました。あとで意地悪なあまのじゃくの仕業であることがわかったのですが、あとのまつりでどうにもしようがありませんでした。
 気合いくそが悪いが、仕方がありません。そこでこの古岩屋にはお寺がとうとう建ちませんでした。