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双海町誌

第六節 経営の近代化

一 小売商業の近代化
 地方の時代という言葉が使われはじめてから久しくなるが、本町は、松山市、伊予市、長浜町に隣接しており、周辺都市部への通勤者が多く、消費人口の流出に伴う小売商業の近代化の遅れが著しい。本町の商業は、極めて厳しい現実に直面していると言うべきであろう。近代化に向けて意識改革を行い、地元消費者の立場に立って、地域に愛され地域に根ざした商店街を形成するとともに、住みよい町づくりを目指していくことが望まれる。
 双海町商工会は、昭和五十七年三月、地域小売商業近代化対策調査事業報告書として「双海町小売商業の現況と近代化の方策」を発刊した。
 そのなかで、双海町小売商業の近代化方向について以下の事項を提示している。


(1) 個店の近代化方向
経営者の意識改革
その人々が欲求する生活物資を、求める時に、求める場所で、必要な数量提供するものである。更に、物を売るだけでなく、消費者の欲求する商品情報・生活情報をも提供し、地域住民の生活安定基盤を確保するとともに、その向上に役立てることが大切である。このことは、地域住民の定着を促進し、産業振興・地域振興に貢献することとなる。
 したがって、経営者は次のことを十分に認識する必要がある。
 *小売業は独立した産業であり、従属的な産業ではない。
 *公私の区別を明確に行うこと。
 *消費者は、経営者が考える以上に多くの情報を持ち、素早く反応するということ。
 *消費者は、物を豊富に持ち、お金も十分持っている。そして、必要なものには、お金を出し、不必要なものは見向きもしないということ。すなわち、賢い消費者が多くなったという事である。

経営戦略の再検討
 経営者は、消費者の購買行動に見合った業種・業態・販売方法であるか、あるいは一般消費者のみに限った販売先でよいのか、その店づくりはふさわしいものか、といった業種・販売方法・販売先について、経営戦略を練り直すべきである。本町の小売業は、地域一般需要を十分満足させるにはいまだ至っていない。自店の顧客を核として、その購買行動に完全にマッチしているのらどうか、再検討する必要がある。

消費者の購買行動に対応した店づくり
 前記事項に加え、業種・業態・販売方法にふさわしい店舗づくりが必要である。回遊性、通路幅・歩行の安全、整理整頓、豊富感の演出といった店舗の機能を熟知し、その機能を十分に発揮できる店づくりをすることが望まれる。


(2) 集団での近代化方向
小売店の組織化
 灘町商店街は本町の中心商店街として、下灘商店街は地区商店街として、独自の活動が可能な組織体をつくり、組織体として連盟に加入する。また、その他の商店は、商店連盟に直接加盟する。活動には、連盟主催のものと商店街主催のものがあるが、連盟主催の活動には、当然、商店街も参加しなくてはならない。小売店の組織化を図り、連盟主催の活動と商店街主催の活動を両輪として、活力ある小売商のイメージを地域住民に訴えなければならない。

商店街活動の活性化
  商店街活動、特に販売促進活動の活性化を図らなければならない。それにはまず、年間販売促進計画の立案が必要となる。季節、国民的行事、社会的行事、地域行事といったタイミングをとらえ、それらの季節や行事にマッチしたテーマを設定し、そのテーマにふさわしい内容をもつ行事を企画することが必要である。

商店街の再開発
 本町の小売商業が地域需要を十分に満たす力を発揮できない原因のひとつとして、中心商店街の力の弱さが挙げられる。言うまでもなく、各個店の努力には限りがある。また、商店街・小売商店全体が一致団結して、販売活動を行ったとしても、現状ではそれにも限界がある。すなわち、中心商店街は、そう呼ぶにふさわしい個店の集まりであり、商業集積や商店密度も十分でなければならない。更に、店舗の質や商店街の環境整備も充実したものでなければならない。
 「双海町小売商業の現況と近代化の方策」は、以上のような近代化の方向を示したうえで、双海町小売商業の今後について、次のように結論づけている。
 本町小売商業は、町内を予讃線が走っているために、松山市・伊予市などとの交流や通行が以前より盛んである。このことが、それらの諸都市の小売商業の影響を強く受け、本町小売商業の現況をもたらした大きな要因であるといっても過言ではない。このため、本町小売商業の経営規模は零細であり、生産性や販売効率は非常に低い。
 その原因の多くは、経営努力の不足に負うところが大である。というのは、消費者の商店利用頻度は非常に高い反面、支持率は低いのである。更には、商店街の魅力度調査において、安全性、健康性という二指標においては、松山市商店街や大型店に優るとも劣らない評価を得ているが、現在の消費者が望む選択性、革新性、その他においては各段の差がある。
 このことから、本町小売商業の近代化方向としては、個店の近代化努力が基盤となって、そのうえに集団としての組織化、活性化が必要である。更には、商店街の街路整備、駐車場の確保、及び体育施設利用者をも吸入できる共同店舗の創出が望まれる。
 小売商業の近代化は、単に小売商業者だけの問題ではない。これは、行政をも含めた町内住民全体の問題である。だが、いずれにしろ、小売商業者全員が、総力をあげて早急に取り組まなくてはならないことは確かである。


二 小規模事業の活性化ビジョン
 双海町商工会は、平成九年三月に、小規模事業活性化ビジョン策定報告書「突っ走る文明から立ち止まる文化に」を発刊している。
 そのなかで、本町の商工業の現況を示したうえで、商工業の課題として以下の事項をあげている。

(1) 人 口 面
雇用の場の確保
 交通基盤の整備に伴い通勤圏が広がったことで、本町でも松山市を中心に、他市町村に従業・通学する割合が高まっている。松山市のベッドタウン化の方向で、定住人口の減少を食い止めるという方法もあるが、昼間も活気にあふれた町づくりを目指すのであれば、町内に魅力ある職場を創造し、若年層の流出を防ぐ、あるいは他市町村で働く町民が安心してふるさとへUターンできるような体制をとる必要があるだろう。

(2) 商   業
零細規模・非効率経営の小売業
 経営規模をみると、一店舗当たりの売り場面積は愛媛県平均の約半分、販売額は約四分の一にとどまっている。また、経営効率面をみると、従業員一人当たりの販売額は愛媛県平均の約半分となっている。本町の小売業の業種は最寄品主体であるため、粗利益額も低いと思われ、非効率な経営となっている。

購買流出
 地元購買率二七・七パーセントという数値は、近隣の町村と比較しても極端に低い。小売店は飲食料品などの最寄品を扱う店が大部分を占め、買回品、専門品の購買が松山市などに流れていると思われる。したがって、地元購買率を上げるばかりでなく、近隣からの買い物客を引き寄せるくらいの魅力ある商業施設が必要である。シーサイド公園を中心に町を訪れる観光客は増加している。こういった新しい人の流れをとらえた立地で、本町らしさをアピールできる商業施設が望まれる。


(3) 工   業
零細規模経営の工業事業所
 本町にある一九の事業所のうち、一〇の事業所が従業員数九人以下となっている。また、一事業所当たりの従業員数をみると、愛媛県の平均二六・九人に対し、本町では一四・二人と約半数になっている。更に、一事業所当たりの出荷額をみると、愛媛県の平均が七億六四一五万円であるのに対し、本町では一億三二九七万円と五分の一足らずである。一人当たりの出荷額をみても、愛媛県の二八四二万円に対して、本町では九三六万円と、かなり低くなっている。

低い生産性
 一事業所当たりの付加価値は、愛媛県が三億一九三一万円に対し、本町は三五〇一万円と約一〇分の一となっている。一人当たりの付加価値では、愛媛県の一一八八万円に対し、二四六万円と五分の一になっている。現在、食品製造業にかたよった産業構造となっているが、高付加価値型の新たな産業構造への転換が望まれる。

事業地確保の困難性
 本町は平地面積が少なく、そのため基幹産業は農林水産業となっている。工業の発展のためには、ある程度広い工場立地のための土地が必要であるが、本町のこの地形が工業発展の障害となっている。
 以上のような指摘を受け、各事業所、商工会、町当局はそれぞれ、課題の克服に努め、近代化の推進に最大限の努力を払ってきたが、その結果は満足すべきものとは言い難い。今後も商工業の近代化のため、更には、すばらしい町づくりのために、最善をつくすことが必要である。