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双海町誌

第三節 商業

一 沿   革
 中央構造線の断層崖が直接海に臨み、東西に出入りの少ない海岸線が長く続く本町は、平地に恵まれず、広い商圏を形成することができなかった。それでも、灘町・上浜・下浜には、旧上灘町・下灘村の中心地として古くから商店街が発達していた。また、海岸沿いや上灘川流域に点在する集落にも、それぞれの地域を担うよろず屋的な小売店が立地して、活発な商いが行われていた。
 旧国鉄予讃線が通っていたとはいえ、一九六五(昭和四十)年までは海岸線の道路舗装もなされておらず、交通の便が悪かったため、人々が町外へ商品を求める傾向は少なく、日常必需品のほとんどを町内で購入するという商習慣が定着していた。そのため、上灘(灘町)、下灘の商店街へ出向けば、ひととおりの物資が調達できたわけで、商店街自体も賑わったのである。
 しかし、高度経済成長期以降、本町の商業は大きく変貌し、近年は厳しい状況が続いている。その要因として、次の三点が上げられる。
 第一は、人口の減少による購買力の低下ということである。町内の人口は、一九六〇(昭和三十五)年に一〇九六一人であったものが、二〇〇二(平成十四)年には五六四八人となり、四〇年余の間に半減に近い状態になっている。この間を一〇年ごとにみても、八〇〇~一〇〇〇人ずつの著しい減少傾向が続いたことになる。また、生産年齢人口の流出や少子高齢化による人口構成の変化も購買力の減少をもたらす要因となった。
 第二には、道路交通網の整備が進み、購買力が町外(松山市・伊予市・長浜町方面) へ流出したことがあげられる。まず、県道伊予~長浜線は、昭和四十一年から五年をかけて舗装され、昭和四十九年には国道(三七八号)に昇格した。更に、沿線の各所にバイパスが建設され、伊予市・松山市・長浜町との時間的距離が著しく短縮された。なかでも、昭和四十二年の下浜バイパス、四十八年の上灘海岸バイパス、五十六年の上浜~日喰バイパスの完成は、灘町・下灘商店街を通行しないままで町外へ向かう客を増加させてしまった。各戸が自動車を保有する時代となったことが、その傾向に拍車をかけたのである。
 第三には、大規模小売店の進出があげられる。松山市のジャスコやダイエーなどの量販店もさることながら、伊予市や長浜町に進出している総合スーパーは、本町の小売店の経営に大きな影響を及ぼしている。

二 現   況
 次の表は、町内の業種別商店数について、四〇年前と現在とを比較したものであるが、時代の変化の特徴をよく示している。
 例えば、薪炭業・鍛冶屋・製縄業・畳屋などが町内でみられなくなったのは、生活様式の変化によるものであり、薬局・文具店・履物屋などが激減したのは購入先を広く町外に求めるようになったことを表している。このうち特に注目したいのは、雑貨商が四九店から三〇店に減少していることである。同様の現象は「商店数、従業員数、年間販売額等」を表した次表からもうかがうことができる。
 これによると、最近約二〇年間の町内の商店数は一二〇店から九三店に減少しているが、そのなかでも小売店が一〇六店から八五店と約二割も減少している。本来、町内の商店は小規模経営が多く、平成十四年をみても、商店総数九三のうち従業員一~二人の事業所が六三、三~四人の事業所が一六となっており、従業員四人以下の事業所が全体の約八五パーセントを占めている。そのような状況下にあって、前述の外的諸要因の影響を最も強く受けたのが従業員一~二人の小規模小売店であり、そのなかから廃業するものが出てきたものと考えられる。
 また、表中の販売額・一商店当たりの販売額・従業員一人当たりの販売額について、それぞれ総数と小売店とにわけて二〇年間の伸び率を計算してみると、小売店一店当たりの販売額の伸び率(二・六倍)が最も高くなっている。これは、小売店の営業の成果というよりは、小規模店舗の廃業数の多さを示したものといえる。当該の小売店は、これまで長い間、地域の人々と直結して日常生活になくてはならない店だったのである。ことに独居老人をはじめとする高齢者にとっては、単に商品購入の場であるだけではなく、人的交流の場でもあった。
 小規模小売店の今後の経営努力を期待したい。

三 新しい動き
 道路網の整備とモータリゼーションの発達は、消費の場を都市に移動させたため、本町においても小売店を中心として深刻な影響を被ったことは既に述べた。
 その一方、一九九三(平成五)年、国道三七八号が「夕やけこやけライン」の愛称で呼ばれ始める前後から、自動車による不特定の来訪者を主な顧客とする、次のような企業が国道沿線に起こってきた。
・高野川・灘町・高岸・下浜・満野などに海鮮料理を提供する飲 食店やレストランが点在してきた。
・石ノ久保の「ゆうきの里」(石田末廣)は、会員八〇名が自ら生産・製造した野菜・果物・農産加工品等を直接販売している。
・久保の「はたるの里グループ」(藤岡フサ子代表・八名)は、特産品加工場「穂樽の家」で製造した手づくり味噌・弁当・惣菜をふたみシーサイド公園などの町内イベント等で即売している。

業種別商店数

業種別商店数


商店数、従業員数、年間販売額等

商店数、従業員数、年間販売額等