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双海町誌

第四節 現代の漁業②

 板こぎ(オッタートロール)
 最も魚を有効に捕獲することができるので乱獲防止のために、現在瀬戸内では禁止されている。魚取りから順次網を入れ、引綱のうちわら綱と板からおくの引綱を入れ、板を投じてはりながら入れていく。こぎ網は、その操業方法がほとんど同じなので省略する。

 イワシ機船船ひき網(パッチ網)
 カタクチイワシのシラス地びき網を二隻の船で引き、中央に寄りながら袖網までネット・ローラーに巻き取る。袋部は手で手繰り寄せ、その一部分を運搬船に渡し、魚をタモで運搬船に取り込む。
 対象魚・:カタクチイワシのシラス(稚魚)から大羽イワシまで、ほかに雑魚。

 小型底びき網漁業
 下灘では、手繰り網漁業として取り入れ、ローラー五智網に似た底びき網で海底を引き、同じ船を一定の位置に止めて網を手で繰り上げる漁法である。網の大きさは、ローラー五智網などに比べて極めて小型で、漁船一隻に従事者が二名の極小規模な漁業である。

(3)刺網漁業

 建網(底さし網)

 普通朝方投網し、夕方揚網する。水深よりやや長めの浮網にボンデン(目印の浮子)をしぼりつけ海に投じ、片方には網端とイカリをつけて入れる。ついたてを並べたように海底にはるのでこの名がついた。
 昭和二十六年の漁業法に基づく初めての共同漁業権が、燧灘、伊予灘、宇和海で免許制となり、雑魚磯建網漁業第二種の漁業権漁業となった。

 サワラ流し(浮さし網)
 建網が底魚を対象にするのに対し、流し網は上層回遊魚を目的とする。またこの漁法は海底に固定せず潮流乗って流すのでこの名がついた。まず浮縄を適当な長さに調節し、片方にブイをつけて順次海に入れていく。最後の端にもブイをつけ、魚船は揚網まで他船が網上を横切らないように見張る必要がある。

(4) 釣 漁 業

 はえなわ
 夕ぐれ、日が沈むころ、投縄し二~三時間置いて揚縄する。最初にボンデンザオに水深よりやや長いうけ縄をつけ、その端にはえなわの端とイカリをつけ投縄を始める。五~六本に一個重りをつける。これは潮流に縄を流されるのを防ぐとともに、魚による縄の切断ともつれを防ぐためである。

 一本釣り
 釣り糸に釣針と重りをつけ、餌を付けて手や竿で釣るだけのシンプルな一本釣りは、漁法の原型ともいえるものだが、その生産性の低さから生業としては成り立ちにくく、主に遊魚として多くの人に親しまれている。最近は餌の代わりにルアー(疑似餌)を付けたルアーフィッシングも普及しているが、一本釣りの変形といえる。一本釣りによって漁獲される魚種はアジ、サバ、メバル、イワシ、イカ、タコ、カレイ、ハギなど多種だが、キス、ベラ、トラハゼなどを狙う夏季の一本釣り遊魚は双海町の風物である。


(5) その他の漁業

 突棒漁業
 漁場に到着すると全員見張りに出て魚群の発見に努め、発見すると追跡に移る。突手は船首部に立ち舵手と密接な連絡をとりながら魚群に接近し、投射距離に入ったら魚の胸部めがけて突く。
 [フカの突棒漁]
 太平洋戦争中は伊予灘においては本格的な漁業はできなかったため、魚が増えていた。その魚を追って、小型のクジラや大型のサメ(通称フカ)が多数回遊してきた。終戦直後の一九四五(昭和二十)年には、当時の三・五トンから四トンの一〇馬力の動力船でフカの突棒漁が行われた。射止めた獲物は、弱るのを待って、一日がかりで船につるして持ち帰った。
 この獲物は、上灘で鮮魚店を営んでいた西本伝吉らによって、蒲鉾やジヤコ天に加工され、販売された。また、終戦直後で食用油がなかったため、フカの肝臓から魚油を採り出して、てんぷら油に利用された。浜で解体して取り出した肝臓は、大型のトロ箱にいれて大八車で木蝋の晒し工場に運び、大釜で煮た。一匹のフカからは、ドラム缶一本分(二〇〇リットル)から三本分(六〇〇リットル)が採れた。価格は、一匹数千円から最高で一万二〇〇〇円たった。ちなみにフカは、下灘や長浜からも持ち込まれた。
 突棒漁はその後二年間ぐらい続いたが、食用油が調達可能となり、フカの買取りが中止となったため、しだいに行われなくなった。

 タコ壷漁業
 一本のタコ縄に五〇個前後の壷を結び付けたものを海底に沈め、壷に入ったタコを捕らえる漁法。漁場は砂泥地が好漁場。使用する漁船は、ニトン前後一〇馬力程度で、一人乗りである。

 双海の養殖漁業
 本町では昭和三十年代から魚類の養殖が開始された。上灘の鮮魚商人であった西本伝吉は、夏に巾着網でとれたワカナ(ハマチの稚魚)を竹生1 (約二・五×一丁五×一・五メートル)で飼い始めた。餌に相当な苦労を重ねたが、当時高野川沖で行われていたボラ釣りの餌を参考にして、餌づけに成功した。ワカナは、秋祭り(十月二十三日)ごろには約一キロ程度まで成長した。
 彼はまた、タコの養殖も試みた。木の生簀を小さく仕切って、一匹ずつ入れて育てた。彼が餌を与えにいくと、タコは餌をもらえることを知っていて、足を出して受け取ったという。大変よく育ったが、頭だけ太って足のほうはあまり太らなかった。県外の市場に出荷したところ、最初は売れたが、その後は不審がられて売れなくなった。
 一方漁業者は、狭い伊予灘での「獲る漁業」の資源の枯渇に将来の不安を抱いて、様々な模索を重ねた。上灘漁協では、昭和四十年ごろに小網沖に養殖イカダを設置して、春から夏にかけてとれたトラフグの畜養を試みた。また、下灘漁協ではワカメの海面養殖も試みた。そのほか上・下灘両漁協では、地上に水槽を設置して、ヒラメや車海老等の中間育成や様々な試験養殖的なことを行った。しかし、地形に恵まれないこともあって、本格的な海面養殖までには至らなかった。
 一九八三(昭和五十八)年、福岡行廣は、上灘大堀田において地上に水槽を設置してヒラメの養殖場をつくった。伊予市本郡浜にも養殖場を有した。
・有限会社福岡殖産
 住 所  大字上灘甲五九五二番地の一
 起業年  昭和五十八年
 規 模  上灘養殖場  一三〇〇平方メートル 三〇トンタンク一五基・四〇トンタンク七基
      伊予市養殖場 四三〇〇平方メートル 六〇トンタンク二八基・五〇トンタンク四基。
             三〇トンタンク四基
 従業員数 八名
 売上高  一億~一億三〇〇〇万円


六 漁業の課題
 本町の漁業は、漁船漁業がほとんどを占める。太平洋戦争から半世紀を経て大幅に漁法が進歩し、漁船漁業では伊予灘だけではなく瀬戸内においても不動の地位を築いてきた。しかし、平成に入って産業のグローバル化か進むにつれて、外国からの安価な輸入物に押され、漁業においても魚価が低迷していった。また、漁船・漁具などの装備の向上が資源の乱獲につながり、最近では漁獲量が著しく減少している。更に、社会的な面からも、漁業者に対する認識が厳しくなるとともに漁業者の高齢化や若者の漁業離れによる後継者問題が深刻化している。
 また、安全操業への対応もひとつの課題となってきている。
 漁業機器の近代化が進むなかで、一九六〇(昭和三十五)年ごろから特にネットローラーが普及し始め、底びき網漁業に大きな変化をもたらした。それまで一船に二~二人が乗り組んで操業していたものが一人で操業できるようになるとともに、網の大型化が図れるようになり、収益率の向上につながった。
 しかし、機械化は他の産業と同様に大きな危険を伴った。昔の漁業にはなかった事故が発生し、幾人もの人たちが尊い人命を落としたのである。安全操業に対し、大きな課題として組織をあげて取り組み、解決に努力していかなければならない。
 このような現状を打開し、すぐに発展につなげるような方策は、容易に見当たらない。国が発行する漁業白書にも、将来の展望については十分なビジョンが描かれてはいない。
 ただこのうえは、中・長期的に従来からいわれてきた「資源管理型漁業」の徹底と、稚魚の放流などの「つくり育てる漁業」の二本柱を中心に、漁業資源の回復を図ることが急務であると考えられる。これを達成するためには、すべての漁法や漁具及び操業期間を見直すとともに、大小魚礁の設置や禁漁区・休漁区の設置など、数多くの対応が必要となる。また、これらのことは、個々の漁民や単協組織にとどまらず、広く伊予灘や瀬戸内海全体で協議したうえで取り組まなければならない問題である。
 幸い、伊予灘の魚は他の海域より味が良いと高い評価を受けている。一部の漁協では、味と鮮度を全面に打ち出してブランド化し、市場に供給して実績をあげている。こうしたことからも、現状を一歩踏み出した販売の見通しをつけることも急務であろう。
低価格の魚介類は、徹底的に加工して付加価値を加え、双海の煮干しに続く特産品として開発することも必要である。
 一方、我が国の国民性からして海への関心は高い。海洋性レクリエーションが年々盛んになっていることからもそれは実証できる。本町の場合には、地理的に恵まれていることを再確認して、観光漁業の充実を図るべきと考える。釣りだけではなく、自然とふれあう楽しさ・神秘さ・驚き・喜びなどを実感できる「体験型観光漁業」の創造が必要である。
 そのためには、資源豊かな海づくりに励み、単なる海のハンターではなく、海のエキスパートにならなければならない。海に関するあらゆる知識や技術を磨き、それを駆使して人々に夢や感動を与えつつ、海と共生していくことが望まれる。


板こぎ(オッタートロール)

板こぎ(オッタートロール)


イワシ機船船ひき網(パッチ網)

イワシ機船船ひき網(パッチ網)


機船手繰網漁業の漁具展開図

機船手繰網漁業の漁具展開図


建網(底さし網)

建網(底さし網)


はえなわ

はえなわ


突棒漁業

突棒漁業


採藻漁業

採藻漁業


採介漁業

採介漁業