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双海町誌

発刊に寄せて

 双海町の歴史が合併によって閉じられる予想と、明治百年を記念して発刊された「双海町誌」以降の現代町史を書物として残していないこともあって、編さん委員会を組織したのは今から二年前の春のことでした。当初、前誌以降の記録を広報「ふたみ」縮刷版を頼りとして追録的に編さんしようと計画し、また、前回の編さん作業を中心的に行った委員二名の就任もあって編さん作業を楽観視していました。しかし、双海町の歴史を閉じる年に編さんする双海町にとって最後の書という性格を持つため、全委員の総意によって、追録ではなく改訂にする旨の編さん方針変更を急遽打ち出しました。にもかかわらず財政ひっ迫を押して予算を確保していただいた町当局は勿論のこと、編さんのスピードを超人的に速められ、以降深夜にも及ぶ苦闘の編さん委員会を幾度も重ねた委員諸氏に改めて深甚なる謝意を表する次第であります。紆余曲折を経ながらどうにか閉町までに発刊の運びとなりましたのは、編集に携わった方々の日ごろの精進とご協力の賜物であります。
 編さんに携わりながら過去の関係書物を幾度となく紐解き、必要な史料を収集してまいりました。物言わぬ過去の文章から読み取れるものは、周りの歴史に翻弄されながらも必死に生きた先人の知恵や、自然が織り成すふるさと双海町の栄枯盛衰でした。その歴史こそが他に誇りうる比類なき双海町固有の文化であり、その文化を守り後世に伝えるのも私たち町民の大きな使命であると考えています。
 人間は今という一瞬に生きているから、今ある記憶に頼って今を記録しないという欠点を持っています。現代の記録が少なかったり一方向性だったり、都合の悪い情報はかき消される運命にあることも編さん委員を悩ませました。逆に、急激に進んだ高度情報化がもたらした電子情報なる新しい技術は、編さん作業のスピード化に大きく貢献しました。さらに町民の写真や資料提供、情報化社会の申し子たちの大きな力を得て、短期間の編さん作業にもかかわらず、予想を超える成果物として町内各家庭にお届けすることができたことは嬉しい限りです。
 編さん作業を通して「歴史は人の生きざまであると同時に生き物である」ことをしみじみ思い知らされました。編さんに携わったこの二年間だけでも、わが町に未曾有の大災害をもたらした長雨・台風による災害や新潟中越地震、スマトラ沖地震などの天災を始め、まさに激動と呼ぶに相応しい出来事があり、悲しいかなその記録を書き加えなければならない必要にも迫られました。
 歴史は繰り返すのですから、深い洞察をもってすればこのかけがえのない一冊の町誌が未来への示唆を与え、扉を開いてくれる大きな力を持っていることは確かでしょう。願わくは後の世の何時の日か、誰かの想いによってこの双海町誌が基になって新しい歴史のページが捲られることを願って止みません。
 平成十七年三月
                                    双海町誌編さん委員長 若 松 進 一