データベース『えひめの記憶』
中山町誌
八、 六月
歯固め
六月一日、正月についた歯固めや、餅をうすく切って乾したものを食べると健康になるといって食べる行事である。また、正月の餅を寒の水に浸して水餅とし、それを焼いて食べたり、その水を飲むと健康になるともいわれた。とにかく歯固め行事は各地であった。
田植に関すること
① 苗代作りの行事
苗代の水口に近いところに石ヤシロをつくる。かずらで輪をつくり、スデの木、それに川から拾ってきたきれいな石と御幣などを立て、米粒やいりこなどを供える。そして、「苗がよくできますように」「豊作でありますように」と祈った。この神は、苗を育てる神(田の神)作神であり、あるいはミト(水口)にいる水の神と考えられている。
② オサンバイサン
田植えの最初の日に各戸で豊作を祈願する行事である。
都合のよい田を選び「オサンバイサン」という田の神を祀るのである。
またたびかずらで輪をつくり、川より拾ってきたきれいな石を入れて、田の畦に祀る。
そのとき、餅・かきもち・お米・いりこ・かち栗・乾し柿など、正月に使ったものを上手に保管しておき、正月と同じようにして祀るのである。
また、正月の「樵り初め」に切ってきて大切に保存していた木を薪として炊いた田植飯をお供えする。こうして米がよくできるように祈願するのである。これを「オサンバイサン」とか「サンバイオロシ」とかいっている。また、正月に搗いた「はがため」を食べるところもある。
オサンバイサン等の方法については、地区により家によってそれぞれの方式があったようである。
「オサンバイサン」は昭和四〇年頃より次第に見られなくなった。理由としては、①神に対する篤い信仰心がなくなってきた。②「オサンバイサン」は田の練り畦に造ったが、「畦シート」を使うようになってからはできなくなった。③苗を自分で作らなくなった。④米の価値の変化(下落)、などが考えられる。
③ 田休み
田植えの終了後、今までの仕事の疲れを癒すために、部落で休み日を定めて仕事を休むのである。その日は、神社に全員が集まって太鼓や鐘を叩いて念仏をし、そのあとおこもりをした地区もある。
なお、正月神の「歳徳神」、社日の「オイブッサン」、田植の「オサンバイサン」どれも似たところがある。一つは、来訪神であること、次に生産神であること、さらに、正月の供物と同じ供え物をするし、正月に使用した材料を薪として田植飯を炊いた。興味津々たるものがあろう。
われわれの祖先は、農(作)を中心として生活し、季節、季節また節目、節目に神を祀りわが生活全般を守ってきたのであろう。現在それらが遙か彼方に消え去ろうとしている。私たちの心の寄り所が崩れ去ろうとしているとも考えられる。今こそ新しい指針を見つけ出すことが重要ではなかろうか。