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中山町誌

一、 林業の概要

 中山町は県都松山市の南西、伊予郡の最南端に位置し、喜多郡に接する肱川上流の峡谷型山村地域である。昭和六二年策定された全国森林計画に即し、森林法第五条一項の規定に基づいて愛媛県が策定した森林計画区では、中予森林計画区に属し、肱川森林計画区と区分されている。しかし、肱川上流に位置し歴史的には大洲藩領であったこと等から、林業生産においては肱川林業地域の影響を受けつつ発展してきたといえる。
 中山町は、ほぼ中央にそびえる秦皇山(八七四メートル)を主峯に、標高六〇〇~八五〇メートルの急峻な山に囲まれ全般的に起伏の激しい地形である。
 本町の北東部障子山から犬寄峠に至る連峯は、皿ヶ峰連峰県立自然公園の一部に含まれている。
 河川は、障子山付近に源を発し、秦皇山北方をめぐり本町の中央部を貫流する中山川(肱川支流)に秦皇山南方をめぐる栗田川が合流し、途中その他の小河川が分岐している。
 中山町の総面積は七、四七七ヘクタールで、そのうち森林面積は四、五一六ヘクタール、林野率は六〇・四パーセントである。
 地質はほとんどが古生層の三波川変成岩である緑色変岩で、一部双海町との境界付近に新第三紀層の火山性岩石である安山岩が分布している。林地の土壌は、ほとんどが地味肥沃な適潤性褐色森林土が多く、材木の成育も概ね良好であるが、一部には地味のやや劣る乾性褐色森林土も点在している。
 年中平均気温は約一四・八度で、降水量は年間約一、七〇〇~一、八〇〇ミリメートルである。
 近年降雪量は比較的少ないが、過去には昭和三八年の豪雪など五年~一〇年に一回程度の雪害をみた年もある。局地的な風害等はなく樹木の成長も良好である。
 現在樹種別面積でみると、針葉樹林が七四パーセント。広葉樹林二六パーセントとなっているが、昭和三〇年代までは広葉樹林が五〇パーセント以上を占めていた。
 本町林業の特性は、かつてはスギ、ヒノキの一般中・小丸太生産、マツの上具材及び箱材、クヌギ林に恵まれ薪や木炭の生産、竹材の生産地として特徴づけられていた。しかし、燃料革命による木炭生産減少に伴なう広葉樹林の針葉樹林への樹種転換、しいだけ生産の発展、たけのこの販路拡大等、更には昭和五〇年代に松くい虫発生によって町内の松林が全滅に近い枯死状態になったこと等もあって、現在では、スギ、ヒノキの小丸太と小径木、しいだけ及びたけのこ生産地ということができる。
 林業を経営的にみると、現在専業林家はなく、農林業一体の複合経営が進んでいる。かつては小規模農林業経営に基因する短期収入の薪や木炭の生産が盛んであり、炭焼きを専業とする林家もみられ、薪炭林経営偏重の時代が長く続いた。
 森林の所有も零細で、一〇ヘクタール未満が八五パーセントを占め、五〇ヘクタール以上の森林所有者は三戸、〇・四パーセントに過ぎない。
 用材林の経営は、古くは薪炭林経営先行の中で一部篤林家的な人達によって実施される程度であった。戦後昭和二五年の木材好況を契機として、林家の経営への自覚と関係機関の教育指導、特に森林組合の真剣な活動によって、植栽可能林分のほとんどが造林され、燃料革命によって広葉樹林も針葉樹林へと積極的な樹種転換が行われた。
 しかし、昭和四〇年代後半からの木材不況と松くい虫被害などによって、経営は停滞から下降へと向かい、経営の再検討に迫られている。ここで針葉樹林を齢級別にみると、三五年以下の林分か二、二三二ヘクタール、六六・八パーセントを占め、間伐の早期施業を必要としている。
 しいたけ生産についても昭和四〇年代から盛んとなり、昭和五五年には約五億五、二〇〇万円余の生産額となり、県内有数の生産地としての地位を築くまでになったが、生産者の高年齢化と価格低迷によって同六〇年頃から生産量は下降しており重大な転換期にある。
 本町は森林組合と一体となって林業振興対策に積極的に取り組み、昭和四五年(一九七〇)から林業構造改善事業を導入して、林道網整備や林業近代化施設整備事業を推進すると共に、林業振興総合整備事業・間伐対策促進事業・特用林産物振興事業等次々と施策の展開を行っている。
 第二次世界大戦後におけるわが国の社会経済は大きな変革を遂げつつ成長してきた。そして工業化が進む一方で農林業離れが深刻化していった。しかしながら成熟社会といわれる今日を迎え、森林のもつ公益性と、森林保全の必要性が強調されるようになった。
 かつて木炭生産で郡内最高の生産量を誇り、しいたけや、たけのこ生産で質量共に県内屈指の中山林業が築いてきた歴史を林業従事者の高年齢化か進行する中でどう守り、育て、発展させるのか。この課題を解決するため町は、平成六年五月に農林作業の請負事業を目的とした
第三セクターの農林会社として、「株式会社プロシーズ」を設立した。この会社は、有志農林家と町・農協・森林組合が出資して資本金を造成し、若い農林業従事者を社員に採用して、若い力と創意によってふる里中山町の林業と農業を守ろうとしている。
 中山町の林業は、歴史的転換期に直面し、将来の大きい変化が予想される中で、今こそ地域住民の総力を結集すべき時といえる。