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伊予市誌

四、郡中・松前の網代紛争

 両町村の網代入漁の紛争は古く、一六五八(万治元)年、替地後に起こった大紛争であった。このときは土佐藩主が和解のあっせんに努力して一七二四(享保九)年に一応の解決を見た(市誌歴史編「近世」参照)。
 松前と郡中の網代入漁にかかわる紛争は、明治以後もたびたび起こっている。その都度、仲裁がなされてきたが、一九三二(昭和七)年の協定書によると、操業方法について次のように細かく定められている。

         協 定 書
   郡中漁業組合、松前漁業組合ニ於テ鰮地曳網漁業ノ行使方法ニ関シ協定スルコト左ノ如シ
            記
  一、一番網ハ漁場ノ標木ヲ基準ニ投網シ「コウデバシ」ハ其ノ内ニ置クモノトス
  二、二番網ハ一番網ノ大船着陸後直チニ投網スル場合ノ他ハ潮ノ上手ニ代ッテ投網スルモノトス
  三、三番網ハ潮ノ上手ニ代ッテ投網スルモノトス
  四、投網ノ方向ハ如何ナル場合トイエドモ標木ヲ基準トシ潮ノ上手ニ投網シ潮ノ下手ニ出ザルコト
  五、操業ノ順位ハ漁場ニ舟ノ到着ノ順位ニヨルモノトス
  六、前各項ニ違反シタルトキハ其ノ所属漁業組合ニ於テ漁獲物ヲ没収スルモノトス
  七、本協定ニ関シ疑義又ハ紛議ヲ生ジタル場合ハ県ノ裁定ヲ仰ギ決定スルモノトス
   右協定ヲ証スル為メ本書四通ヲ作製シ関係漁業組合、県庁及郡中警察署ニ各一通保管スルモノトス
     昭和七年三月九日
               郡中漁業組合長 鎌倉島吉(印)
               松前漁業組合長 武智雅一(印)
               立会人
               郡中警察署長  大野牛太郎(印)
               愛媛県農林技師 岡井正男(印)
               仝 農林技手  村田伊徳(印)

 なお、組合内部においても、小網操業内規をつくり次のように操業の円滑化を図っている。
   小網操業内規
  小網操業ニ関シ将来円満ヲ期スル為メ茲ニ左記内規ヲ制定シ固ク実行スルモノトス
  一、相場曳ノ分
   引潮ノ一番ハ 松前川口
    〃 二番ハ 火葬場
    〃 三番ハ 新川
   満潮ノ一番ハ 家端ナレ
    〃 二番ハ 新川
    〃 三番ハ 火葬場
   但シ片ノ網ガ遺放シテ次ノ網ガ遺ル
  二、ツバス曳(鰮網ノ操業ニ做フ)上ノ端ハオモカジ
  三、烏賊曳
    上手ヨリ順次ヤル
    取カヂハ上ノナギ(タニシ山ノ下) 戎ナギノ中間ヨリ遺ル
  四、網ハ乾切リヲ以ッテ番トス
  五、二日番トス
  六、中ノナギカラ遺ルコト
   右条項ノ改廃ハ五人ノ合議ヲ以テ為スコト
   内規各項ニ違反シタル時ハオ中預リトシ郡中漁業組合長之ヲ保管スルモノトス
   本内規ハ当業者一枚宛保管ス
     昭和十一年五月拾九日
              小網持連名 対尾幾次郎(印)
                    日山源次郎(印)
                    網野弥三郎(印)
                    高野宇三郎(印)
                    大元荒吉(印)
               立会人  福本住一(印)

 更に、現在松前漁業協同組合との間に結ばれている協定書は、一九六一(昭和三六)年のもので次のように記載されてある。

         協 定 書
   伊豫郡松前町地先及び伊豫市地先の地びき網漁業の入会操業について松前町漁業協同組合(以下「甲」という)と郡中漁業協同組合(以下「乙」という)との間に次のとおり協定する。
 (甲の入会できる区域及び漁業種類)
  一、甲所属の組合員が営む地びき網漁業の入会できる区域は、伊豫市二本松網代以北の伊豫市地先(二本松網代を含む)とする。
 (乙の入会できる区域及び漁業種類)
  二、乙所属の組合員が営む地びき網漁業の入会できる区域は松前港南突堤以南の松前町地先とする。
 (操業順位)
  三、入会漁場での操業順位は、地元者入会者の別なく先着順による。但し、伊豫市二本松網代での操業順位は地元者(乙所属の組合員)を先番とし潮時(一番二番)を地元者が行使するものとする。
 (入会できる区域及び漁業種類の特例)
  四、乙所属の組合員が営むこのしろ地びき網漁業については、第一号の定めにかかわらず甲と協議のうえ、松前港南突堤以北の松前町地先へ入会することができる。この場合入会者は甲に対し別に定める率で販売歩金を納入しなければならない。
 (入会者の心得)
  五、入会者は、操業するにあたり地元側の定め及び慣行に従い漁業道徳を守り紛争を起こさないよう心掛けなければならない。
 (この協定の有効期間)
  六、この協定の有効期間は協定成立の日から昭和三十九年三月三十一日までとする。
 (協定の更新)
  七、前号の期間が満了したときは、甲乙協議のうえ関係漁業権の存続期間を越えない範囲でこの協定の更新を行うものとする。
 (協定更新の特例)
  八、前号によりこの協定の更新を行うにあたり、昭和三十七年一月当時と比較して入会漁場の状態が変化したため、この協定の内容が適当でないと認められるときは甲乙協議のうえ入会条件(入漁できる隻数・漁業区域及び操業方法等)を変更することができる。
 (その他)
  十、昭和二十八年七月十三日甲と乙との間に手交した契約はこの協定の成立した日をもって無効とする。この協定の成立を証するため四通を作成し、協定者及び立会者がそれぞれ所持するものとする。
      昭和三十六年十二月二十七日
   協定者 甲 伊豫郡松前町浜
         松前町漁業協同組合
         組合長理事        向井徳太郎(印)
       乙 伊豫市灘町二四〇番地
         郡中漁業協同組合
         組合長理事        鎌倉島吉(印)
   立会人   愛媛県漁業協同組合連合会
         会長           赤松 勲(印)
         愛媛県農林水産部水産課
         課長           清家 璋(印)