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伊予市誌

三、農業倉庫

 農業倉庫の意義と機能
 農業倉庫の設置が国の政策としてとられたのは、政府の米価調節策のためであった。それは、一九一四(大正三)年の初め東京深川の正米市場で石当たり一八円八五銭であった米価が、翌年九月には一〇円六〇銭に急落するという米市場価格の不安定が背景となっている。
 「農業倉庫業法」は、一九一七(大正六)年の第三九回臨時国会の協賛を得て、同年七月公布し九月一日から施行された。この法によると、農業倉庫の業務は、一般の倉庫業と同様に固有業務と付随業務に分けられる。固有業務とは受託物の保管であり、付随業務とは受託物の調整・改装・荷造り・販売、仲立ちと取り次ぎ、農業倉庫証券を担保とする貸付などである。しかし、現在では、これら業務のうち付随業務はすべてその経営主体である農業協同組合自体の業務として行われ、また、これらの付随業務にいずれも寄託契約の締結を要件として、組合の行う利用・運送・販売・信用の各事業部門において行われている。
 農業倉庫は、一九三七(昭和一二)年の日中戦争以降、政府の食糧政策が従来の米価維持、米価抑制、不足対策へと様相を一変したことに伴い、本来の自治的販売統制ないし政府による間接的な需給・価格調節の施設から政府食糧の集荷・貯蔵のための施設へと、その機能を変えてきた。特に一九四二(昭和一七)年に至って内地食糧の不足は急速に著しくなり、政府の働き掛けもあって全国津々浦々まで農業倉庫が普及し、戦中・戦後にかけて我が国の食糧危機を乗り切る大きな役割を果たした(『日本の穀物倉庫史』参照)。

 農業倉庫の実態
 伊予市内の農業倉庫は、昭和六〇年に南伊予・伊予農協に第117表のとおり八か所が設置され、穀物を収容保管していた。現在、愛媛県は米については消費県で、県内の生産量以上に消費が上回っているが、良質米の需要が増大している今日では適切な保管及び流通の円滑化を図る必要があり、低温倉庫など保管施設の近代化が進められている。このように農業倉庫は共販体制の確立と食糧管理制度の遂行に大きな役割を果たし、国民の食糧需給の調整施設としての機能の重要性を加え、更に施設の整備充実を図る必要が生じている。

第117表 伊予市内の農業倉庫一覧

第117表 伊予市内の農業倉庫一覧