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伊予市誌

一〇、三秋の大池の大蛇 (三秋)

 大蛇の伝説は、伊予市で主なものだけでも五か所ある。唐川長崎谷の蛇ヶ渕、大平の森山城、上三谷の大谷池、八倉の赤坂泉、三秋の大池などである。これらの中で、三秋の大池の大蛇の伝説を次に書いてみよう。
 昔、三秋の端に住んでいた中藤徳三という人が、五月のある曇った日、氏神の稲荷神社へ、おこもりに行くために三秋の大池の土手にさしかかった。すると、急に大池の中から大木の幹ほどもあろうかと思われる大蛇が姿を現して、中島山の方へはっていくのを見て、びっくりした。しかし、肝の太かった中藤さんは、気を落ちつかせて、
「ああ、大きいもんを見た。お前も時には酒でも飲めや。」
と、持っていたとっくりの酒を大池へ注ぎこんでやって、自分もラッパ飲みした。それからの中藤さんの家は、この大蛇のおかげか、とんとん拍子にお金がたまって、大金持ちになったという。
 これも昔、ある日のこと、端の清さんという人がドブロク(にごり酒)をたくさん作ったので、郡中の町へ売りに行くことにした。三秋の峠のところへさしかかると、道の横のがけがザアザア音を立てているので、ふと見上げると、丸太のような大蛇が、はっていた。清さんは驚いたのなんの、かついでいたドブロクをほうりだして、逃げて帰ったという。この大蛇は、森の大谷の浜で魚をとって食べ、山を越えて帰っていく途中、よく三秋の大池で潮につかった体を洗って明神山へ帰るのだと言われていた。
 また、これも昔、双海町の小網の魚売りが、三秋へイワシを売りに行っての帰り、三秋の大池の土手で一休みした。ちょうどいいことに、そばに大きな松丸太がころかっていたので、それに腰かけて、キセル(刻みタバコを吸う道具)を取り出し、タバコを一服した。
 そして、キセルの灰を落とそうとして、そのキセルを丸太に打ちつけると、その丸太がぐらぐら動き出したではないか。魚売りがびっくりして、よくよく見ると、この丸太が大蛇だった。
「あっ、こりゃ、三秋の大池の大蛇じゃ。」
と、びっくりぎょうてんして、何もかも、そこにほうり出して、ガタガタふるえながら、逃げて帰ったという。