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愛媛県史 近代 下(昭和63年2月29日発行)

四 郷土文学の発展

 大正期の文学は、日本自然主義文学の確立と反自然主義文学の発起、個性の成熟と分化の時期で、大正デモクラシーが高まる反面、社会運動につれてプロレタリア文学も抬頭してきた。昭和前期の文学は、人生派と芸術派、ブルジョア文学とプロレタリア文学、純文学と大衆文学、それぞれ重層的対立をしていたが、昭和一〇年(一九三五)に横光利一や小林秀雄らにより、対立を止揚する方向付けが示されたといわれている。しかし昭和六年の満州事変を契機として、遂に太平洋戦争に発展、文化全般にわたって統制が強化され、昭和二〇年の敗戦を迎えた。
 この間、愛媛の出身者として、中央で最も活躍したのは、俳壇の人々であろう。高浜虚子の守旧派と河東碧梧桐の新傾向に俳壇は二分され、その系列に県下各地の俳人・俳誌は誕生した。詩壇では口語自由詩の服部嘉香、日本のダダイスト高橋新吉がいる。小説には高浜虚子、戯曲には女流作家岡田禎子、映画界には伊藤大輔・伊丹万作、評論には片上伸と安倍能成がいる。明治期から活躍する作家、また県下にあって孤高の世界を拓いていった人々など、次第に文芸が一般の生活に浸透していった。