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愛媛県史 近代 上(昭和61年3月31日発行)

 現代はまさに転換期である。かつてない豊饒であるにもかかわらず不信と不安がつきまとい、新しい価値とヴィジョンが切に求められている時代である。
 「最良の予言者は、過去である」といわれるように、未来への道標は、歴史を探求することによってのみ、見いだされるものである。とりわけ、転換期における新たな胎動は、常に地方から起こったという歴史的事実に鑑み、地域史こそ歴史の主軸であると言っても過言ではないと思う。
 我々の伊予の国、愛媛は古来我が国の文化と経済の動脈であった瀬戸内海と霊山として崇敬されてきた石鎚の連峰に抱かれ、独自性に満ちた歴史を展開してきた。この歩みと流れの跡をたどり、未来の可能性を見いだすとともに、来るべき時代の個性豊かな発展のための新しい地図を描いてゆくことは、現在の愛媛に生きる者の責務でぱないかと思う。
 昭和五十四年の夏に着手した県史編さん事業は、県民の皆様をはじめ多くのかたがたの御協力を得て順調に進行し、昨年までに十八巻を刊行したが、本年は通史編二巻(近世上・近代上)、部門史四巻(教育・芸術・文化財・社会経済1・社会経済3)、資料編一巻(考古)の計七巻を刊行する運びになった。
 本書は通史編の「近代上」で、近世編に続く通史編第五巻である。その内容は愛媛県の成立から日露戦争後の社会までの明治時代を対象とし、主に県政や県会の動向、町村合併と松山市の誕生、産業構造の変化、近代教育の確立、日清・日露戦争と郷土部隊の活動、県民生活の様相などを叙述したものである。伊予八藩が県として一つにまとまり、近代化を図る諸改革が実施された時代に、その変化に対応して進められた県施策や、先見の明をもって道をひらき現在の愛媛の礎を築いた先覚者の姿を読み取っていただければ幸いである。
 終わりに、終始御熱心に御指導を賜った顧問の小西四郎先生、編さんに当たられた近・現代部会長の田中歳雄先生をはじめ委員の諸先生、また貴重な資料の御提供や有益な御教示をいただいたかたがたに厚くお礼を申し上げる次第である。
  昭和六十一年三月
  愛媛県知事 白 石 春 樹