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愛媛県史 芸術・文化財(昭和61年1月31日発行)

三 自然的な名勝

1 花樹・紅葉樹・緑樹などの叢生地

千疋のサクラ

 (越智郡玉川町桂 国指定名勝)
 今治市の南、蒼社川上流二八㎞の越智郡玉川町、鈍川温泉の上流にある。楢原山(一〇四二m)の頂の蔵王権現は、古くから地方の人達に敬われて参拝者も多く、また昭和九年八月に経塚が発見され、その出土品が国宝に指定されたところである。登山路の千疋峠近くには、かつて百数十本の山桜の大木が繁り、花時の美しさは格別であった。他の四つの登山路をふくめて、この一帯に約五〇〇余本の老桜があり、昭和一六年一二月、名勝に指定された。指定地域は合計一五haで、千疋峠と仏ヶ峠の二方面に分かれている。
 しかし、すでに四〇年あまり、当時の桜はほとんど枯死してしまった。これらはみなヤマザクラで、目通り回り二mから五mに及ぶものがあり、樹齢も三〇〇年に達していた。ヨシノザクラが植えられているが、本来のヤマザクラの補植復元が望まれる。

御串山

 (越智郡大三島町宮浦 県指定名勝)
 御串山は大山祇神社の玄関口の宮浦港の南側に、約七〇〇mも突出した半島で、神社の祭事に使うサカキ葉をとるので、その名ぶつけられた。総面積約一六〇haの低い花崗岩の山で、カゴノキ、ユズリハ、クスドイゲ、カクレミノ、クロガネモチ、ヤマモモ、モツコク、サカキなど、神社の保護のおかげで大三島のかつての自然を物語る常緑広葉樹に被われ、樹下にはタイミンタチバナ、カカッガユ、ハマニンドウ、オガタマノキなどの暖地性の植物が繁る。クロマツも多い山であったが、松枯れでなくなった。

西 山

 (周桑郡丹原町古田 県指定名勝)
 周桑平野の西方の山間中腹、海抜約二〇〇mの所にある名刹西山興隆寺を中心とする景勝の地である。境内は約一七ha、五〇〇種ばかりの植物が認められ、木本はアラカシ、ツブラジイ、クス、ウラジロガシなどが一層を形づくり、二層にはアオガシ、カゴノキ、サカキ、シャシャンボ、さらに下生えにシャガ、ハナミョウガ、アオキの群生が見られる。渓流石いにはタカオモミジが多く、秋の紅葉が有名である。西山の最高峰は標高約五〇〇mの冠山で、四国山脈や遠く宇摩平野、瀬戸内海を眺望できる。

菅生山

 (上浮穴郡久万町菅生 県指定名勝)
 四国霊場四四番札所の大宝寺を中心とした面積約八haの景勝地である。スギとヒノキの森林で、参道の老杉並木や大イチョウ、カエデ群など、壮厳な雰囲気をかもし出している。樹下にはエゾエノキ、シュウメイギク、ツリフネソウ、シュロソウや、オカメザサ、シャガ、ユキノシタの群生、アケビ、ホトトギスなど多くの植物が自生する。

2 岩      石

岩 屋

(上浮穴郡美川村七鳥 国指定名勝)
 岩屋寺は七鳥字竹谷の西側にあって、四国八十八か所霊場第四五番札所である。寺は東西に大きくそびえたつ七〇mと九五mの奇岩、金剛界峰と胎蔵界峰の間に建てられている。岩屋や古岩屋の変わった岩峰は堆積岩の礫岩、巨礫岩(集塊岩)で、これらが多くの峰をつくり、長年月に風化侵食されたものである。海産の有孔虫、コケムシ、サンゴ、二枚貝、サメの歯、石灰藻の化石など多数発見され、今から約五〇〇〇万年前の新世代第三紀始新世にできたものといわれ、昔、海底であったこの地層を久万層群の二名層と呼んでいる。
 谷側にはトチノキの大木が多く、県下一であり、植生にめぐまれ全国「自然百選」に選ばれている。岩峰にはイワタバコ、シシンラン、ウチョウラン、セキコク、イワヒバ、ツメレングなどが着生、岩屋山発見のイワヤシダとイヨクジャクは採取され絶滅した。地名が示すように野鳥の種類も多い所である。

古岩屋

 (上浮穴郡久万町直瀬 国指定名勝)
 岩屋寺の北西一kmの所にあり、同じく結晶片岩を基盤とする第三紀礫岩層が発達、全面穴だらけの円錐状の礫岩峰があちこちにそそり立ち、その高さは三〇mから六〇mはある。イワヒバ、セキコクなどが岩壁に着生し、付近にはイロハカエデ、イタヤカエデ、コハウチワカエデ、ウリハダカエデ、メグスリノキなどのカエデ類が多く、コナラ、ウリノキ、リョウブ、トチノキなどの落葉樹、コツクバネウッギ、ヤブウッギ、オンツツジ、コバノミツバツツジ、林床にはジンバイソウ、ジュウモンジシダ、コミヤマカタバミ、カンスゲ、スズタケなどの植物相も豊かである。
 自然休養村の指定を受け、国民宿舎古岩屋荘もあり、「四国のみち」自然歩道もあって、来訪者も多い。

御三戸嶽

 (上浮穴郡美川村仕出 県指定名勝)
 面河川と久万川の合流点にある高さ三七m、幅一三七mの石灰岩の岩山で、朝夕と渕の水の色に従ってこの岩壁の色が変化するというので、七面鳥岩とも呼ばれる。岩壁にはアカマツ、カヤ、イヌシデ、イブキなどが茂り、コバノミツバツツジ、ヤマツツジ、ツクバネウツギ、イブキシモツケ、キハギ、ヤマブキ、クモノスシダなど興味深い植物が見られる。

 3 峡谷・渓谷・湖沼

別子ライン

 (新居浜市立川山 国指定名勝)
 この渓谷は源流を笹ヶ峰に発し、燧灘に注ぐ国領川の上流にあり、生子橋から鹿森ダムを経て清滝に至る七・五にkmの間である。中央構造線を横切る谷が、三波川系結晶片岩帯を深く浸食し渓谷美をつくっている。
 九〇mの断崖を落ちる壮大な清滝をはじめ、滝や淵、奇岩、自然林にもめぐまれ、四季を通じて美しく、ことに秋のカエデやケヤキの紅葉時は見事である。

面河渓

 (上浮穴郡面河村 国指定名勝)
 石鎚山の南斜面の面河川上流域にあり、石鎚国定公園の一部で、標高七〇〇mの関門、亀腹の屏風岩、兜岩、鎧岩などの絶壁、御来光の滝、霧迫の滝、紅葉淵、熊が淵の深淵など、深い原生林と調和して渓谷美にめぐまれ、新緑によく紅葉に有名で、日本の「自然一〇選」にも選ばれている。渓谷林は大体、モミ・ツガ帯と呼ばれる中間温帯林で、植物相にめぐまれ、オモゴテンナンショウ、オモゴキイチゴなど、面河の名のある植物も知られる。

金砂湖と富郷渓谷

 (伊予三島市金砂町・富郷町県指定名勝)
 徳島県に流れる吉野川の上流、銅山川流域で、県立自然公園になっている。金砂湖は、昭和二九年に完成した柳瀬ダムによって生じた人工湖で、法皇山脈を越して、三島・川之江方面へ、一〇〇年も経て送水の念願がかなったものとなった。富郷渓谷は、戻ヶ崖、猿飛淵など、断崖や深渕が多く、イブキ、ツバキ、スダジイなど、県内で最も多く県指定の天然記念物が見られることも特筆に値する。

 4 海  浜・島

波止浜

 (今治市波止浜・越智郡波方町 国指定名勝)
 今治市波止浜公園、その沖の来島瀬戸をはさむ来島・小島付近の景勝で、内海では最深の一〇〇mを越すこの海峡の激流は、来島の渦潮として鳴門とともに有名である。来島は伊予水軍の根拠地のあった所で、水軍の遺構の柱穴が残され、また小島には、明治三三年に内海防衛のために築かれた要塞跡などが見られ、夏は海水浴客も多く、風光明媚な所である。

志島ヶ原

 (今治市桜井浜 国指定名勝)
 今治市の南、燧灘に臨む白砂青松の景勝の海岸で、数千本のクロマツが生え、面積一〇ha余、前面の島々、山々の展望もよく、菅原道真の伝説のある綱敷天満宮がある。この付近は、北に唐子浜、南には石風呂海岸と、県下一の松原が続いている所である。

法王ヶ原

 (越智郡弓削町下弓削 県指定名勝)
 弓削神社を中心とした長さ約三六〇m、面積二haほどの海岸で、マツ枯れのため古木は減ってしまったが、数百本のクロマツの生えた典型的な白砂青松の地である。弓削道鏡法皇にまつわる伝説もある島で、伊予水軍ゆかりの弓削商船高等専門学校がここに接して建てられている。国民宿舎もあって来島者も多い。

鹿 島

 (南宇和郡西海町鹿島 県指定名勝)
 宇和島藩主伊達公のお狩場であったため、自然がよく保存された孤島である。周囲六㎞、ケナシアオギリやカンコノキの群落、ビロウジュなど、全島暖帯南部の植生に被われ、二〇〇頭ばかりの野生ザル、六〇頭ほどのシカがすむ。島は砂岩と頁岩の互層からなり、宇和海の怒涛に洗われて三方に断崖をつくり、「鹿島の洞」など、大小の海蝕洞がある。海岸植物も貴重なものがあり、国民宿舎もあって、付近の海中公園へのグラスボート基地になっている。

 5 山 岳・丘 陵

大三島

 (越智郡大三島町 国指定名勝)
 内海で四番目に大きい花崗岩の島で、島のほぼ中央の鷲ヶ頭山は標高四三六m、この付近島嶼中第一の高さで、頂上の園地からの内海の島々や、中・四国の山なみの遠望もすばらしい所である。昭和五〇年ごろからの松枯れで、マツは昔のおもかげもないが、ヒサカキ、ネズミサシ、ネジキ、トベラなどが目だち、下草はコシダなどである。

八幡山

 (越智郡吉海町 国指定名勝)
 県内では大三島に次ぐ大きいこの大島で、そのほぼ中央に、標高二I五mの八幡山がある。頂上からは、多島海の島々、四国、中国の山なみが展望される。マツ枯れで昔のおもかげはないが、ウバメガシ、ヒサカキ、ネジキ、シャシャンボ、アラカシ、花の美しいコバノミツバツツジ、ヤマツツジなど、なお自然は豊かである。山麓に八幡船で名高い大亀八幡神社がある。

金山出石寺

 (喜多郡長浜町豊茂 県指定名勝)
 標高八二〇mの出石山頂にある出石寺を中心とする地域である。出石寺は開山以来一二〇〇年以上の歴史をもつ古刹で、境内からの伊予灘、宇和海の眺望もすぐれている。境内にはスギ、ヒノキなどの巨木老木が繁り、付近には目通り一一mのカツラの大木をはじめ、アカガシ、ケヤキ、コガノキ、タブノキ、アオガシ、ウラジロガシなどの大木も多い。下草にはムサシアブミ、テンナンショウ、テバコモミジガサなど植物相に富む。

三滝城跡

 (東宇和郡城川町窪野 県指定名勝)
 標高六四二mの三滝山と、三滝渓谷を中心とした景勝地で、山頂近くまでカシ類やシイの自然林と、スギ、ヒノキの植林が見られる。渓谷には渕が散在し、遊歩道が整備され、変化に富んだ渓谷美を探勝できる。ことに全山紅葉の秋がすばらしい。

国指定名勝「千疋のサクラ」の指定地域

国指定名勝「千疋のサクラ」の指定地域


国指定名勝「波止浜」の指定地域

国指定名勝「波止浜」の指定地域