データベース『えひめの記憶』
愛媛県史 学問・宗教(昭和60年3月31日発行)
一 発音の生活
発音の全体的な調子
だいたい、伊予弁の話す調子は、人も言うとおり、やわらかい。せかせかしてはいないし、きつい調子でもない。「やわらかい」ということばも、「ヤワラカイ」と発作する。この調子だと、「ヤワラ」の所が、よく、柔和感をさそう。「コーワ オヤノ ユー トーリニ」(子はおやの言うとおりに)とか、「ジー オショート オモヤー」(字を教えようと思えば)とかあれば、聞くものは、ゆっくりとした気分を味わう。
中予弁の、「コノゴロワー、ナンジャ ワイ。」(このごろは、あれだわ。)では、のような抑揚が明らかである。東予弁の「ハヨー セソ カナ。」(早うおしよ。)のばあいも同様である。右のように図示しうる抑揚は、人にやわらかさを感じさせる。
「このごろは」というのが、「コノゴロワー」と長めて発音され、「わたしらは」が「ワタシラワー」と発音される。「どこどこのほうへね。」も、「……… ホーイー ナ。」と発音される。これからは、急迫感などは伝わりようがない。きっくない、やおらかい気分が伝わる。
Oウトータラ エート ユーノジャ ガナー。(歌ったらいいって言うのよ。)
中予弁のこの抗弁ふうのもの言いも、抑揚が、
いうありさまなので、全体が緩徐調の聞こえである。
ところで、喜多郡方面の抑揚には異色がある。前(三四四ページ)にもふれた調子、 ○マダ ヤリョラングライジャー。(まだやっていないくらいだ。)
というようなのが一つの特色である。高音が連続する。つぎに、
○オハヨゴザンスー。(お早ようござんす。)
というようなのも、一つの特色になっている。一文の後部で、一音または少数音をぴょんと高く上げるものである。異色がはっきりとしているが、こうした発音生活も、独自のやわらかさを示す。
さて、南予宇和弁となると、抑揚が、
○アンタ オスシ アガンナハル カ。(あなたはおすしをおあがりになりますか。)
などとなる。右のを、東予の今治弁で言ったものは、
○オマイ スシ タベル デー。
である。抑揚の性質が、いくらかちがう。かといって、宇和弁も、調子がかたいといったようなものではない。
単語のアクセント
ここで、伊予路七地点について、語詞のアクセントをくらべてみよう。単語―一々の語詞――のアクセントは、抑揚に密接に関連している。
昭和五九年四月、私は、左記の諸地点について、語のアクセントの調査を試みた。調査語は二九一語である。調査地点名と、調査に応じてくださったかたと、調査月日とは、つぎのとおりである。
伊予三島市 宮崎峯春氏(六三歳) 四月二二日
大 洲 市 泉 覚弥氏(五八歳) 四月二四日
今 治 市 原田守男氏(五三歳) 四月二二日
八幡浜 市 井上秀雄氏(六五歳) 四月二四日
松 山 市 星野 陽氏(五四歳) 四月二四日
宇和島 市 三好成雄氏(六二歳) 四月二五日
久 万 町 松田茂清氏(六五歳) 四月二三日
つぎには、全調査語中から六〇語を選び、それに関する右七箇所の調査結果をかかげる。各調査語ごとに、右から左に、伊予三島市から宇和島市へと、調査結果をならべる。
(参照 「地名略語」)
丸じるしの右傍の棒線が、アクセントの高音をあらわす。
各語のもとで、最初に、ひらかな書きへ棒線をつけているのは、「東京のアクセント」をあらわしたものである。『明解日本語アクセント辞典』第二版による。
右の各語で、七地点の語アクセントが、「東京のアクセント」と、どのようにちがっているであろう。「○○」のかたちが注目されはしないか。
読者各位には、ご自分の土地アクセントを、この表の中に載せてみてはくださらないだろうか。
(参照 「アクセント表1~6」)