データベース『えひめの記憶』

えひめの記憶 キーワード検索

愛媛県史 教 育(昭和61年3月31日発行)

2 「郷土教育」が重点施策に加わる

 昭和四〇年三月三一日発行の『愛媛教育年鑑』によると、同三九年度、県教育委員会の小中学校教育の「指導の基本方針」中に、「国際理解と郷土教育の推進」がとりあげられている。そして「生活基盤としての郷土をふまえ、すぐれた文化遺産を継承発展させる基礎を養い、郷土愛の精神を育成し、特に、オリンピックの開催を契機として、国民的自覚と国際理解の啓培に努める」というねらいが書かれている。
 つづいて、「指導の目標と計画」のところで、「郷土教育の推進」として、(1)郷土教育資料の作成 (2)郷土教育資料の収集と資料室の設置が強調されている。翌四〇年度になると、「郷土教育研究会の開催」が加わる。

郷土教育資料

昭和三九年三月三一日発行の『愛媛教育年鑑』に、郷土教育資料の作成を同三八年七月一日から始めたこと。二年がかりで八つの分野の資料をつくることが載せられている。その作成意図は、発刊された資料の「まえがき」を読むとよくわかる。

      ま え が き
    血につながる ふるさと
    心につながる ふるさと
    ことばにつながる ふるさと
 これは、藤村の記念堂の白壁に書かれていることばであります。このことは、そのまま郷土教育の原理を示すものと思います。
 この郷土教育の原理を実現するためには、次の内容を指導しなければなりません。
   1 郷土の祖先の偉業をたいせつにすること。
   2 郷土の風物自然をたいせつにすること。
   3 郷土の人々の現実生活をたいせつにすること。
この内容は、郷土愛の精神を啓培するものであり、民族愛・自然愛・人類愛を育成するものであります。したがって、過去の排他的・懐古的・局所的な郷土教育とは根本的に異なるものと思います。
 この内容を個々の児童生徒の心の奥底に沈殿させていくためには、教育課程の四領域に位置づけ、意図的に郷土教育の展開をしなければなりません。このためには、展開の方途となる郷土教育資料が必要であります。
 そこで、愛媛県教育委員会においては、二か年で、八つの分野に分かれて、計五〇名の小・中学校の先生の御協力をお願いし、郷土教育資料の作成をしてまいりました。(中略)
 愛媛の先生方が、この郷土資料によって、郷土を正しくそして深く認識させるような郷土教育を展開せられることを期待するものであります。
 この資料の結実については、官庁・会社・報道機関・学校等の積極的な御援助、大学の先生や専門家のかたがたなど、数知れない多くの人びとの善意をいただきました。心から感謝の意を捧げたいと存じます。特に、作成委員の先生には、炎天の下、風雪の中、あるときには台風のまっただ中に、献身的な御協力と御努力をいただきましたことを、衷心より御礼申しあげます。
 この資料が、町の学校でも山の学校でも活用され、郷土教育が確実に心豊かに行われることを念じながら、発刊の御あいさつといたします。
     昭和四○年三月一日                   愛媛県教育委員会 教育長 中 矢 常 繁
 郷土教育資料第一集 『愛媛の産業』(四〇年三月三一日発刊) 作成委員 岡田利幸(高津小)・鈴木義則(東平小)・日野喜子雄(吉岡小)・長野実(北郷中)・日野一雄(北山崎小)・奥田和久(松山教育事務所)・宇都宮利治(伊方小)・梶原茂保(八幡浜教育事務所)・柳野章一 (城南中)・谷口泰芳(住吉小)
 郷土教育資料第二集 『愛媛の政治・経済・社会』(四〇年三月三一日発刊) 作成委員 伊藤福繁(北中)・稲積御熹(肱川中)・犬飼徹夫(陶成小)・関谷満雄(重信中)・矢野高宣(城東小)・玉井通孝(義務教育課)
 郷土教育資料第三集 『光をかかげた人びと(愛媛の偉人)』(四〇年三月一日発刊) 作成委員 三木筆太郎(長津小)・高橋重雄(日吉中)・渡部栄吉(味生小)・八木優(布喜川小)・永元春雄(奥南小)・越智通敏(義務教育課)
 郷土教育資料第四集 『愛媛の美術(絵画・版画・彫刻)』(四〇年三月三一日発刊) 作成委員 明比学(加茂中)・矢野真胤(津倉小)・吉金四郎(北山崎小)・長滝陽一 (新谷小)・菊沢尋吉(泉中)・高橋忍(義務教育課)
 郷土教育資料第五集 『愛媛の自然界』(四〇年三月三一日発刊) 作成委員 三好文太郎(別子小中)・日野要(玉津小)・越智勇(城東小)・浮穴政成(立花小)・宮内信雄(久枝小ご元永泰蔵(宮前小)・橋本馬喜雄(青石中)・岡野勝敏(五十崎小)・西蔭俊雄(小池小)・大塚文夫(城北中)・高橋昌民(義務教育課)
 郷土教育資料第六集 『愛媛の歴史』(四一年三月一日発刊) 作成委員
続木寿(船木小)・松岡進(宮浦小)・山本雅夫(伊豫中)・谷川寛(小松小)・中岡修也(東海中)・玉井通孝(義務教育課)
 郷土教育資料第七集 『愛媛の文学』(四一年三月一日発刊) 作成委員内山直(宇和島市学校教育課長)・則内秀視(安居島小中)・楠橋猪之助(今治教育事務所)・伊井慶智(宇和町小)・菅昇(垣生中)・藤内勲(義務教育課)
 郷土教育資料第八集 『愛媛のわらべ歌と民謡』(四一年三月一日発刊)作成委員 上田美登(神郷中)・首藤源六郎(壬生川中)・玉井旭(松山教育事務所)・木田正統(大洲小)・高畠茂久(鶴島小)・河野博(義務教育課)

 郷土教育研究指定校

西宇和郡伊方小学校が、管内郷土教育研究大会を、八幡浜教育事務所・西宇和郡町教育委員会連合会・伊方町教育委員会主催のもとに開催したのは、昭和三九年一二月一〇日であった。
 大会資料の冒頭で校長梶谷駒繁は次のように述べている。「人間形成に大きな影響を与えるところが郷土である。人づくりは郷土づくり。まず郷土の正しい認識をしていく努力こそ大切と思う。郷土教育委嘱校として、関係機関の人や物の協力を得ながらこの道のため全校一致で尽力したい」
 続いて、「郷土教育研究の歩み」について、教頭宇都宮利治は、四つの項目を挙げて説明している。
①郷土に立脚する教育の重要性
 ここでは、郷土に立脚することの意義として次のことを述べている。郷土は人間形成の基礎。郷土の自然・歴史・伝統の果たす役割は大きい。郷土から日本・世界をみる遠心性と、国際的視野から郷土へ志向する求心性との調和統一を図る。郷土の具体的事象の学習を通して、広く社会の諸事象についての見方・考え方の基礎を体得させることができる。郷土を愛し祖国を愛するのは良き日本人である。
②郷土教育の在り方ー郷土教育の類型(直観主義・知識主義・国家主義・地人相関論的・統一的等)
③本校の研究主題と設定の理由
 研究主題 ㋐生活基盤としての郷土をどのように理解させていけばよいか。㋑郷土にある資料について、どのようなものが教材となるか。㋒郷土にある資料を、どのように活用していけばよいか。(設定の理由を略す)
 第一年目は、最も関係の深い社会科を中心に、国語・理科・道徳をとりあげ、第二年目は四領域にわたり、郷土教育を展開することにした。

 昭和四一年三月三一日発行の『愛媛教育年鑑』によると、同四〇年度の郷土教育研究指定校は次の通りである。
  西条市立北中学校  大三島町立宮浦小学校  重信町立重信中学校
  大洲市立新谷中学校 一本松町立一本松小学校
 この研究指定校の研究は二年継続で、二年目に発表をもっている。ここでは、一本松小学校と宮浦小学校の発表要項から、その一部を掲げてみよう。
  〔一本松小学校の発表〕
  「郷土教育の構想と展開」と題する発表要項の冒頭で、校長加洲幸吉は「郷土教育の研究に当たって」と題して、特に次のように述べているのが印象的である。
   「研究の出発に当たって第一に意識したことは、過去のあやまりをくり返すような偏狭独善的なものであってはならない。また、単なる郷愁やお国じまん的のものであってはならない。どこまでも学校近代化の線に沿い、急速に進展してゆく時代を背負う人間形成を基本として、郷土教育の構想も展開も広く自然愛・祖国愛・人類愛に通ずるものでありたいということであります。このようにして、まず郷土教育の理念の研究からはじめ、研究主題の設定、研究協力体制の樹立、資料の収集、指導計画の作成などととり組んでまいりました」
   「郷土教育に関しては、特に地元である郷土全体の協力こそ成否を決する鍵とも考えられますが、この点、地元の各機関、各家庭から数々の助言や資料提供をいただいたことは、本校郷土教育に大きな光明をもたらすものであります」
 発表要項の中から、特色のある点を抽出してみよう。
  (A) 郷土教育の構想
   ①郷土教育の理念
    ○新しい郷土教育への志向ー本校では、目的概念と方法概念とを総合した「郷土に即する教育」「郷土理解の教育」「郷土愛の教育」として、全教育活動を通して行う立場をとった。つまり、教育活動の全面に郷土理解と郷土愛の精神をもり込み、一方全教科領域における郷土学習をいっそう充実しようとしたのである。さらに、郷土理解・郷土愛を通して民族愛・祖国愛・人類愛にまで高めたいという念願である。
      昭和初年、疲弊にあえぐ農村救済を直接の目的として郷土教育が盛んに行われたことがある。それも戦争によって衰えたが、当時の教師の意気やまことに壮なるものがあった。しかし時代思潮を反映して、独善的・排他的・お国じまん的傾向になったことは免れなかった。戦後の教育においても、地域社会学校の理論により、郷土がコアカリキュラムのコアとして、大きくとり上げられたこともあったが、これも抽象論に終わった。われわれの願う郷土教育は、これらの誤りをくり返すようなものであってはならない。あくまで、広く自然愛・祖国愛・人類愛に通じ、指導に直結した具体的・科学的・実践的な教育でありたい。
O郷土教育の底辺(この項以下展開原理までは義務教育課玉井指導主事の指導)
 ア郷土の民族性ー郷土はわれわれ祖先が、現在以上の苦しみをなめてきた歴史をもつところであり、祖先の血が脈々と流れているところ。
 イ郷土の自然性―郷土の人々が、その風物・自然に接し、広がりをもつところ。
 ウ郷土の現実性―郷土は、人々が市町村などを構成し、共同生活を営むところ。
 以上、郷土の民族性・自然性・現実性が郷土教育の底辺である。
○郷土教育の内容―郷土は、人間形成の基盤である。そこに歴史・自然・現実の生活のもつ力は大きい。したがって郷土教育は、この底辺に立って次のように構成せられる。
 ア郷土の祖先の偉業をたいせつにするー民族愛につながる
 イ郷土の風物・自然をたいせつにするー自然愛につながる
 ウ郷土の人々の現実生活をたいせつにするー人類愛につながる
○郷土教育の展開原理
 ア 求心性をもつことー郷土は直観性をもつところ。具体的に遺物・自然・生活を見ることができる。これを明らかにすることによって他地域・日本を理解させることができる。郷土は指導の手段ともなる。
 イ 遠心性をもつことー郷土教育は発展的でなければならない。歴史は発展的に変遷する。過去において排他的・局所的・国粋的・独善的であっても、これからは国際的・科学的でなければならない。
 ウ 郷土のよさを見つけさせることー山の旅館では、まぐろは欲しくない。やっぱり山のものが欲しい。しかし土地の人はその土地のよさを案外知らない。郷上教育では、土地のよさを強く印象づけたい。
 エ 郷土の問題点に関心を持たせることー郷土教育は単なる郷愁であってはならない、山川草木の美しい田舎でも悩みはあり問題がある。長所と短所を合わせもつところが郷土であるから、その短所にも眼を向けさせるのが一つの大きな眼目である。
 ②本校郷土教育の目標
  ○郷土教育の法的基礎ー学校教育法第一八条第二項(郷土及国家の現状と伝統について、正しい理解に導き進んで国際協調の精神を善うこと)
  ○郷土のもつ教育的意義ー郷土は、血のつながるところ・心のつながるところ・ことばのつながるところであるから、人間形成の基盤である。
  ○郷土に立脚する教育の重要性ーA、祖国愛・人類愛のために(国民的・人間的自覚は郷土を理解することからはじまる。この認識を通して郷土を愛し祖国を愛するものはよき日本人であり、よき世界人となる)B、学力向上のために(郷土は、直観的であり、具象性を持つところである。したがって、その事物・現象・生活経験をふまえた教育は、理解認識も容易になるから主体的意欲を喚起し、学力向上のねらいも達成できやすい)C、具体的見方、考え方の養成のために(身近な郷土の具体的事象を学習することにおいて、広く人間関係、社会の諸事象についての見方、考え方の基礎を培うことができる)
    以上の帰着として、本校では郷土教育の目標を次のように立てた。
  ○郷土教育の目標ーA、生活基盤としての郷土における先人の偉業・風物自然及び現実の生活を理解させ、正しい郷土愛・祖国愛・人類愛の精神を培う。B、郷土の事物・現象・生活経験を他の資料と相まって、日常の授業に活用し学力を高め、思考力・実践力に富んだ心身ともに健康な郷土人を育てる。
 ③郷土教育の指導構造と指導系列(四領域に位置づけられていたが、ここでは省略する)
 ④研究主題の設定
  ○生活基盤としての郷上をどのように理解させていけばよいか。
  ○郷土の資料を学習指導にどのように活用したらよいか。
(B) 郷土教育の展開
 ①研究組織と協力体制ー本校職員を中心とした地域総ぐるみの協力をめざしてー
 ②学年部会・教科部会・専門部会の研究内容及び研究経過と問題(省略)
 特に本校は、昭和初期に郷土教育を展開していたため、資料が豊富に残っていた。これらに新しく収集した資料も加えて整理をしているのが、「郷土教育資料目録」である。A献、B地図一図表・年表・副読本、C現物資料、D施設環境、E写真・幻灯スライド類に分類整理されている。
  〔宮浦小学校の発表〕
    「本校の郷土教育」と題した発表要項で、校長松岡進は次の点を強調している。
 1、郷土の範囲を考える場合、児童が直接経験できる地域、つまり校下地域を第一次的な郷土の範囲とする。つぎに町民としての経験がひろくなるにしたがって地域も大手島町(大三島)にひろがっていく。第二次的な範囲である。また、県・国にひろがる第三次的な郷土の範囲も考えられるが、大三島は瀬戸内海の中央部に位置しているので、海による制約と海による利点とに立脚した人間生活の場である。だから、宮浦小の郷土教育は校下・町・県・国とひろがる場合、常に海との関係を持つようにすることである。
 2、郷土教育の方法は、生命展開の原則に立って、「知ること」「行うこと」の二原則から出発する。「知ること」と「行うこと」の過程を考えるには、「気づく→知る→内面化する→判断し決意する→実践する」というすじ道をとる。本校では、この方法原則として、五段階を次のように重点化している。
  I 気づくことと経営―環境(教室・廊下・特別教室・図書室・運動場)、学校行事等に重点をおく。
  Ⅱ 知ることと経営-社会科・理科を中心とする教科に重点をおく。
  Ⅲ 心情にうったえ内面化することと経営ー
                      道徳に重点をおく
  Ⅳ 判断・決意することと経営ーーーーーー
  V 実践することと経営ー特活・行事に重点をおく。
     「町旗の掲揚」について、「毎日、町旗を掲げて、町民としての具体的生活をよくすることのシンボルとする。毎月初めに県旗を、祝日に国旗を掲げることと相まって、愛国心を実にする。郷土の建設を無視して、どこに祖国の興隆ありや。
特に本校郷土教育の展開で特色のあるもの二つを掲げておこう。
 I、学校行事等における郷土教育(四月のみ)
   学校行事   社会行事   郷土行事           内          容
  ・告別式新任式                 ・愛校心の涵養、良き郷土人としての自覚、宮浦校における師
  ・入学式始業式                  弟のつながり。国旗・町旗掲揚、国歌
 ・大掃除                    ・自分たちの学校を美しく、校風の樹立
 ・身体検査                   ・郷土の生活環境及び習性と体位との関係
 ・遠足                      ・郷土の文化・風土に親しませると共に郷土の実態の理解と自
                          覚をねらう現地指導
          ・天皇誕生日          ・郷土と日本、皇太子殿下行啓記念碑、記念樹の保護
                 ・こんぴらさん ・古い郷土の歴史を大切にする
2、郷土教育資料室の経営
 (A) 第一資料室 ねらいー児童の夢を育てることを主眼とする。ややもすると、郷土教育が懐古的になったり、視野が閉じこもったものになってしまうが、本来は、常に生活を開拓する魂を呼びさますものでなくてはならない。そのための資料と場の構成をねらう。児童が楽しく考え、楽しく想をのばす場としたい。
  〈配置物〉○両側の壁面ー各学年の教材写真と校下大絵地図 ○前面ー郷土年表 ○後面ー研究用立体地図類 ○夢を育てる絵を天井から垂下(前後と左右) ○両側に展示棚 O中央ー大三島の立体模型地図一校下の立体模型
 (B) 第二資料室 ねらいー過去の文化財の中にすぐれたアイディアを見出したり、生活を充実するために役立つような点のあることに気づかせる。愛郷心・愛国心のあらわれとして、郷土をあとにして活躍したり、現に活躍している人への関心を深める。特に、先覚者の遺品を教育の殿堂としての資料室に保管する。
  〈配置物〉○壁面ー日本年表と郷土教育資料活用系統表 ○三面の展示棚-生産用具、社会科資料、道徳資料、○床上の展示箱ー古文書・民芸品・美術品・衣食生活具・衛生具・防災具等
  〈留意〉古的陳列にとどまらないように活用を図る。郷土のすぐれた文化財、保存を心要とする文化財は、その保存の必要性がわかる説明図をつける。

表4-2 研究組織と協力体制

表4-2 研究組織と協力体制


表4-3 地域に根ざした教育優良学校及び優良校外活動グループ

表4-3 地域に根ざした教育優良学校及び優良校外活動グループ