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愛媛県史 教 育(昭和61年3月31日発行)

1 「郷土」が社会科に台頭

 社会科は、社会生活を理解し、社会の進展に協力できる人間を育てることを目標としているのであるから、身近な郷土の生活をとりあげることは至極当然といえる。しかし、その郷土のとりあげ方や郷土の範囲は、社会科が誕生した当時は、まだはっきりしていなかった。順次、学習指導要領社会科編が改訂されるにしたがって、郷土教育のあり方が鮮明になっていった。

小学校学習指導要領社会科編二二年度試案

社会科がどんな教科であるかも明白でなく、「郷土」という言葉も、小学校第四学年の目標と学習活動の例、第五学年・第六学年の学習活動の例のところにでている程度である。第四学年の「目標」の一部を掲げてみよう。
  ○郷土を拓いた人たちは、新しい環境にうまく適応した時に成功した。○郷土を拓いた人々の、いろいろな経験は現在の人々の役にも立つ。○郷土を拓いた人々は、あちこちと、よりよい生活の途を求めて移動して来た。○郷土を拓いた人たちは、後世のものが働きよいように考えていろいろな仕事をした。

小学校学習指導要領社会科編二六年度試案

このごろになると、社会科の性格もだんだん明らかになってきた。「郷土」という言葉も学年主題や単元の基底の中に明記されてきた。
学年主題(〔 〕中)と学年別単元の基底の例
第一学年[身近な生活] ○学校における生活 ○家庭を中心とする生活
  第二学年〔身近な生活〕 ○近所の生活 ○わたくしたちの生活を守ってくれる人々
  第三学年〔郷土の生活〕 ○郷土の生活 ○動植物の利用
  第四学年〔わたくしたちの生活の昔と今〕 ○郷土の開発 ○町や村の発達 ○交通の昔と今
  第五学年〔産業の発達と現代の生活〕 ○生活に必要な主要物資の生産 ○手工業から機械工業へ ○商業の発達と消
                     費生活
  第六学年〔世界における日本〕 ○通信報道機関の発達と現代の生活 ○わたくしたちの生活と政治 ○わたくしたち
                 の生活と外国との関係

  「郷土」という言葉が、第三学年と第四学年に明記されていることがわかる。
 このごろ、「郷土」を学ぶために、児童生徒用の資料が必要であるという現場教師の声を察知して、松山市社会科研究委員会(代表高橋忠雄)では、昭和二六年三月、一七〇頁の副読本を発刊した。それが『松山のすがた』という郷土の社会科副読本である。
 大きな「もくじ」を拾ってみると、「自然のすがた」「自然のめぐみ」「大ぜいの人びと」「生活のうつりかわり」「いろいろな仕事」「便利になる世の中」「文化のあゆみ」「役所のはたらき」「安全な生活」となっている。特に「松山平野附近の絵図」は貴重な存在である。
 また、『愛媛県社会科図集』(掛図)が「自然と資源編」「産業と交通編」「政治と文化編」の三つに分けられ、昭和二八年一一月一日、村上節太郎によって発刊され、小・中・高等学校で利用されている。

小学校学習指導要領社会科編三〇年度

小学校における教育の目標の中に、郷土教育に関係の深いものが載せられた。それは、「郷土及国家の現状と伝統について、正しい理解に導き、進んで国際協調の精神を養うこと」であり、社会科の学習を通して目標達成に努めなければならないことが明らかになった。
 この三〇年度改訂版の学年主題をみると、第一学年「学校と家庭の生活」、第二学年「近所の生活」、第三学年「町や村の生活」、第四学年「郷土の生活」、第五学年「産業の発達と人々の生活」ー日本を中心としてー、第六学年「日本と世界」となっている。社会科という教科が一層明確になってきた様子、郷土学習の内容もだんだん明らかになっていることがうかがえる。なお、中学校学習指導要領社会料編に正しい郷土認識の目標や内容がとりあげられた。

中学校学習指導要領社会科編三〇年度

地理的分野の目標で「郷土教育」に関係のあるものをとり出してみよう。○人々の生産活動その他の生活様式には、地域によってそれぞれ特色のあることを理解させるとともに、他地域の人々を偏見や先入感にとらわれないで正しく理解していく態度を育てる。これを具体的にすると、次の三つになる。
 (1) 郷土における生産活動その他の生活様式には、他の地域にくらべて、それぞれ特色のあることについて理解させる。
 (2) 各地域の人々の生産活動や衣服・食物・住居・交通手段・言語・宗教・美術・風習などの生活様式には、いろいろ違いがあるが、そこにはそれだけの理由があるとともにその底には、常に幸福を追求してやまない共通の人間性がひそんでいることに気づかせる。
 (3) 自分や、家庭、学校、住んでいる市町村などの身近な社会や、日本における生活上の諸問題について、常に他地域や外国のそれと比較・関連させて考えていこうとする態度を養い、集団生活を営んでいく一員として広い視野に立った郷土や国家に対する愛情を育てる。
 以上の具体的目標から考えて、「郷土」の持つ特殊性と共通性を理解させながら、先入感や偏見にとらわれない、正しい郷土理解が重要であることを示している。特に、「郷土愛」「国土愛」を育てる目標が明記されたことに注目すべきである。
 地理的分野の内容は次のとおりである。1、日本の諸地域 2、全体としての日本 3、世界の諸地域 4、全体としての世界 5、郷土(「生産活動……」「他地域との関係比較」「地理的諸問題」「野外観察……」)
 「郷土」が一番最後になっているし、その内容の一つである「野外観察と調査」も最後に位置している。

中学校学習指導要領社会科 三三年抄録

ところが、昭和三三年の抄録によると、社会科の目標が次のように精選され、郷土が一層重視されてきたことがわかる。(1)郷土や日本における生活の特色を、他地域との比較・関連において明らかにし、郷土のわが国における地位……、郷土や国土に対する愛情を育て……。②郷土・日本の諸地域・世界の諸地域における生活には、地方的特殊性と一般的共通性……、他地域の人々を偏見や先入感にとらわれないで……。
 内容をみると、「郷土」が一番最初(三〇年度は最後に位置している)に出てきて、「野外観察と調査」がその「郷土」の最初にまた位置している。
 地理的分野において、順次、「郷土」が重視されていく様子が理解できよう。
 このごろ、愛媛県社会科教育研究会では、『愛媛のくらし』四年生用社会科副読本(回三二年)を編集発刊しているし、続いて『えひめ地方史年表』(同三二年)を編集発刊している。また、松山市小学校四年生用の、単元に即して編集された社会科『郷土のくらし』(松山市教育委員会玉井通孝編)は同三三年に発刊されている。

小学校学習指導要領社会科編三五年度

 「目標」の4に「人間生活が自然環境と密接な関係をもち、それぞれの地域によって特色ある姿で営まれていることを……、郷土や国土に対する愛情などを養う」とある。愛郷心・愛国心が小学校の社会科の目標に明示されたのは、この改訂からである(中学校は三〇年度の改訂に明示されていた)。しかも、郷土の範囲についても「指導上の留意事項」に明確に記されている。
 第三学年の指導上の留意事項によると、「この学年の村または町についての学習では、行政区画としてのそれを取り上げる必要のある場合と、むしろそのような区画にとらわれず、児童の日常の生活に最も密接な関係がある地域的範囲を、指導の目標や内容に即して決定したほうがよい場合とがある」と明記されている。
 第四学年の指導上の留意事項によると、「この学年では、郷土という語を、自分だもの村(町)より広い地域をさす場合に用いているが、その地域的範囲は、行政区画としての都道府県と一致する場合と、一致しない場合とがあることにじゅうぶん留意すべきである」と明示されている。