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愛媛県史 教 育(昭和61年3月31日発行)

2 明治期の訓育

 初等教育における訓育

明治二〇年代の半ばには、教授と対比して訓育(訓練)の用語が教育方法概念として登場し、訓育目的に沿って児童の生活を組織化しようとする動きが現れた。
 回二四年に制定された宇和町尋常高等小学校の校訓、同三五年の新居郡西条尋常小学校の生徒心得、更には松山第二尋常小学校の教育綱領、宮浦尋常小学校の実践項目などは、こうした訓育の流れに沿った実践である。
 これらはいずれも教育勅語の趣旨や戊申詔書の精神を児童に徹底させることでは共通であっても、なおそれぞれの地域の実態を反映しており、明治四〇年代のものになると、それまでの形式主義的な訓育から児童自治の考えに立ったそれへの展開もみられるようになる。
 久万尋常高等小学校では、明治四二年に訓育綱領を定めたが、その趣旨と内容は次のとおりである。

 児童ノ教育ハ教育勅語ノ御趣旨ヲ奉体シ 小学校令ノ示ス所二従フテ為スベキハ勿論ナレドモ 尚戊申詔書ノ御精神二則リ 時代ノ趨勢二鑑ミ 地方ノ状況ヲ察シテ 児童ノ現在及ビ未来二適応スル訓育ヲナサンガタメ特二注意スベキ点ヲ考ヘテ其綱領ヲ定ム
  一、児童ハ正直ナレ (以下、各条の説明文を省略) 一、児童ハ勤勉ナレ 一、児童ハ規律ヲ守レ 一、児童ハ元気ナレ 一、児童ハ親切ナレ 一、礼儀ヲ守レ

 以上の六か条について、それぞれ校内・校外での訓練事項を掲げた「児童日常訓練要目」を作成して訓育を進めている。
 また、東方尋常高等小学校(現松山市荏原小学校)の児童心得は、児童の反復斉唱と記憶に便利なよう工夫したものになっている。内容は、(一)一般の心得、(ニ)学校往復の心得、(三)教室の心得、(四)休み時間の心得、(五)家にある時の心得、(六)特に高等科生の心得で構成されており、例えば(一)と(四)は次のとおりである。

  (一) 校訓をよく、守れ            自分で出来ることは、自分でせよ
     よく運動をなし、体を丈夫にせよ     むだなものを買はずに、金あれば貯へよ
     きものや、体をきれいに、せよ      品物を拾った時、又は捨てた時は、先生に届け出よ
     たべものに、気をつけよ         何事をするにも、よく考へてせよ
  (四) 教室を出ると、すぐ小使に行け      定めてある、所で遊べ
   元気に遊べ                運動場へ木片・石、かみくずなどを捨つるな
   友だもの邪魔や、あぶない、きたない、   便所を、きれいにせよ
   見聞ぐるしい遊をするな          けいこの、始まる、りんがならば、直にならべ
   学校の建物、植木、などを大切にせよ

 中等教育における訓育

 次に中等教育における訓育としては、明治八年九月、松山に創設された英学所の塾則第三章生徒心得が、県下の「生徒心得」の最初のものであろう。もっとも、これは、県下各地から来て英学所に学ぶ寄宿舎生に対するものであって、一般生徒に対する「生徒心得」としては、同二(年二月五日に布達された「愛媛県中学校規則」に示されたものが最初であろう。
 この布達の中で生徒心得を見ると、生徒は「謹慎戒懼心ヲ修身ニ一ニシ、刻苦淬礪志ヲ学業二専ニシ、道芸兼ネ研キ徳才共二備へ、且身体ノ健康ヲ保チ、以テ完全ノ人タランコトヲ要ス可キモノ」とし、日常「服鷹恪守」すべき事項を掲げている。

  忠孝ノ心ヲ存シ、尊王愛国ノ志気ヲ持ス可キ事(第二二条)
  長ヲ敬シ幼ヲ慈シ正直信義ヲ守リ、親切寛恕ヲ旨トス可キ事(第二三条)
  廉恥ヲ励ミ節操ヲ磨キ、苟モ軽躁浮薄ノ風アルヘカラサル事(第二四条)
  礼譲ヲ重シ威儀ヲ正クシ、苟モ粗暴傲慢ノ挙動アルヘカラサル事(第二五条)
  言語ヲ慎ミ行事二敏クシ、志ヲ定メ操存ヲ固クシ、苟モ失得玷行アルヘカラサル事(第二六条)
  凡テ師表ノ訓誨二恭順シ、規則ノ旨趣ヲ謹守スヘキ事(第一五条)
  事ヲ成スハ勉学ト耐忍トユアリ、故二学校二在ルト家二居ルトヲ問ハス、常二勤学修業ノ思念ヲ遺ルヘカラサル事(第二八条)
  身体健康ナラサレハ精神活潑ナラス、精神活潑ナラサレハ、勤苦ノ事二任へ難シ、故二常二意ヲ摂生二注キ、起臥ヲ時ニシ飲食ヲ節ニシ運動ヲ適度ニシ身体衣服ヲ清潔ニシ、以テ体躯ノ康強気象ノ快活ナラン事ヲ求ムヘキ事(第二九条)

 禁条及び罰科においては、生徒が規則及び禁条を犯した時、その情状によって戒諭を加え、また処罰する旨を規定している(第四四条)。罰科は拘止・禁外出・放校の三種に分けられ(第四五条)、拘止は通学生徒に限り課業終了後二時間以内学校に留めおくのであって、禁外出は寄宿舎生徒に限っていた。
 なお同一六年九月に松山中学校長から学術演説討論会再興伺が提出された。これに対して、県では文部省の内達に「学校生徒ニシテ妄二学術演説ヲ爲スハ教育上不都合ノ儀二付相成ラス」とあるのを理由として、「書面伺之趣難聴居」と禁止の指令をした。これによっても、当時の中学校における訓育の一端を伺うことができる。
 明治四三年九月「教授法概要及訓育ノ状況」と題する愛媛県立今治中学校の文書は、当時の訓育の状況を具体的かつ詳細に述べている。まず、訓育の方針を述べ、「身体ハ強健二志操ハ堅実二克ク規律ヲ重ンジ勤勉質素ノ美徳ヲ備へ、忠実事二当ルベキ人士ヲ養成スルヲ以テ訓育ノ大方針」と要約し、生徒の長所短所を列記して、「長所一、一般二質素ニシテ経済的観念アリ ニ、概シテ従順ナリ 三、怜俐ニシテ世故ニ長ス 四、運動二耽ラズ 短所 一、意志薄弱ニシテ勇気二之シ ニ、小量ニシテ無邪気淡泊ナラズ、ヨク小理屈ヲ云ヒ辨疏に努ム 三、利己的ニシテ和親協同ノ念二乏シ 四、早飲込ニシテ研究心二乏シ 五、不活発ニシテ労ヲ厭フ風アリ 六、敬語ヲ知ラズ語尾不明瞭ナリ 七、集団ノ際二不規律ナリ」とし、長所を伸ばし、短所を正し、善良な気風を養成し校訓の本旨にそうようにすることが、教職にある者の夙夜つとむべきことだと結んでいる。
 次に訓育実施の状況として、学校家庭の協同に由らねば訓育の目的は達せられないとして、まず、学校における施設として十項目を掲げている。第一教師の模範、第二管理、管理については、教室内、校内、校外の三つに分けて述べている。校外の管理の全文を引用する。

  校外ノ監督ハ職員全体之二当リ、学校所在地付近ノ町村二ハ時々巡回シテ生徒ノ動静ヲ視察ス、殊二本校ニハ創立以来夜間外出時間ヲ制定シ、規定外出時間外二外出セシメザル様父兄二注意スルト同時ニ、職員分掌シテ巡視監督ノ任二当リ、若シ規定時間外二外出スル者アル時ハ之二説諭ヲ加へ、且父兄二注意ヲ促スコトトナセリ、而シテ一里以外ヨリ通学スル生徒ノ状況二関シテハ、其地方小学校長二依頼シテ時々動静ヲ報告セシメ、其都度生徒二訓諭ヲナシ居レリ、規定外出時間左ノ如シ 一、二、三、十一、十二月ハ、放課後午后八時迄 四、五、十月ハ、同午后九時迄 六、七、八、九月ハ、同午后十時迄

 第三服装、服装検査を、体操時間の初め、毎月一回は学級主任、毎学期初めに全生徒同時に行っている。第四出欠及び忌引、第五訓話、第六個性調査・附級会 個人訓育のため詳細な訓育調査簿を作成、更に日誌を記入させて毎月一回検閲する。教師は休憩放課時間内なるべく運動場に出て、生徒と運動遊戯をともにし、生徒と接近する機会を多くするよう努める。更に、明治四三年四月から級会を組織、一学期一回以上開催し、講談会・遠足・錬胆・遊戯運動等適宜の方法で行い、主任教師の外他教師も時々列席することにして、生徒の個性を知るとともに、生徒間の親睦・職員生徒の和親を図っている。第七図書閲覧室 一週三回放課後一時間半閲覧とし、夏冬の休暇には貸出しをしている。なお、教育勅語・戊申詔書・校訓及び学生訓の四つを記載した「修養の友」を常に携帯させている。第八運動遊技・附作業 体操科の外に適当の運動遊戯を選定し全生徒に課することが教育上必要であるとして、明治四三年四月以降撃剣柔道を第三学年以上に課している。運動の種類は、撃剣・柔道・庭球・野球・蹴鞠・端艇・水泳・相撲の八種である。第九賞罰 「諄々トシテ説諭二説諭ヲ以テシ、良心ノ苛責二愬ハシメ、自然二悔悟謹慎セシムル方針」をとって、それでも改悛しない者を処罰することとしている。また「学術優等操行善良ナル者、運動遊技二秀デタル者、精勤者、級長、校友会役員、其他本校及校友会二功績アル者」に褒賞及賞牌を授与している。第十寄宿舎 「寄宿舎ハ校風樹立ノ中心」であるから、充実に努めている。次に、家庭との連絡について、入学式・書信通信及父兄召喚・家庭訪問について述べている。

 中等教育における校友会

 明治三二年三月三〇日「愛媛県中学校規則」は改訂され、愛媛県尋常中学校は松山中学校、東予分校は西条中学校、南予分校は宇和島中学校となるが、同三一年五月発行の愛媛尋常中学東予分校(現西条高等学校)道前学会の組織・活動をみてみよう。

     道前学会会則
  第一条(名称)本会は愛媛尋常中学東予分校道前学会と称す
  第二条(目的)本会は東予分校生徒全体及職員を以て組織したるものにして和合親睦を旨とし智育徳育体育を実地に練習するを以て目的とす
  第三条(事業)本会の事業を左の三部に分つ
    運動部   講談部   雑誌部
     但し各部に関する細則は別に之を定石
  第四条(会員)本会々員は通常会員名誉会員及会友の三種とす 通常会員は当校在籍の生徒全体とす 名誉会員は当校職員及曽て職員たりしものとす 会友は曽て当校に生徒たりしものとす
  第五条(役員)本会は左の役員を置く
   一会長  一名    当校首席教諭之に任す
   一副会長 一名    当校次席教諭之に任す
   一会計  二名    当校書記之に任す
   一部監  各部に二名 名誉会員の中より之に任す
   一理事  各部に五名 通常会員の中より之に任す
   一総代  若干名   当校各級組より二名宛之に任す
  第六条(職務)本会役員の職務を定むること左の如し
   会長は本会百般の事務を総理監督す 副会長は会長の事務補佐し会長不在の時は代理す 会計は本会会計の総務を司る 各部監は会長の命を受け其部に関する一切の事務を管理す 各部理事は其部監の命により一切の事務に任す 総代は其組全体の意志を代表し会長及部監の命に依り其組に関する雑務に任す
  第七条(任期及撰任)役員の任期は一ヶ年とし毎年四月之を撰任す
    但会計及各部監は会長之を依嘱し理事は上級より総代は各級より互撰し会長の認可を経るものとす
  第八条(会期)本会は各部会期を定むること左の如し 但当校の都合に依り臨時変更することある可し
   運動部  運動小会  四月・六月・九月・二月  大運動会 十一月
   講談部  演説討論会 五月・十月・一月
   雑誌部  雑誌発行  五月・七月・十一月・十二月・一月・三月
  第九条(会費)通常会員は毎月六銭を納め名誉会員は毎月応分の寄付金をなし会友は通常会員の半額を納む
  第十条(重大事件)本会規則の改正及其他の重大事件は正副会長・会計及各部監評議の上会長の承認を経て処理するものとす

とあり、新任役員の名簿が載せられ、論説・文苑等会員の記事、運動会の景況、道前学会々費計算報告など当時の校友会活動状況がうかがえる。