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愛媛県史 文 学(昭和59年3月31日発行)

2 舞台脚本

 鴻上尚史・安西徹雄

 鴻上尚史(昭33~ 新居浜市出身 東京都在住)は劇団「第三舞台」の主宰者。公演用台本に「朝日のような夕日をつれて」(昭56・5)、「宇宙で眠るための方法について」(昭56・10)、「プラスチックの白夜に踊れば」(昭57・5)、「電気羊はカーニバルの口笛を吹く」(昭57・10)、「リレイヤー」(昭58・6)、「デジャ・ヴュ」(昭58・11)などがあり、著書に『朝日のような夕日をつれて』(昭58 弓立社)、『宇宙で眠るための方法について』(昭59 弓立社)、『演劇のつくり方』(昭59 弓立社)がある。鴻上はいう…私達が信条としております「芝居」は、いわば生物でありまして、一応台本は、稽古前に完成はしているのですが、稽古の進行と共に、役者の身体との抗争の結果、日々変化していく結果となるわけです。つまりは、旧来の「新劇」の特徴でありました「台本=(文学)至上主義」に否を唱えるところから、全ては始まるわけでありまして、これにより観客すべてが嘘と知っていながら嘘を認めるという旧来の「演劇」の打開を試みようとしているわけであります。役者には、いえ、人間には、個性があるように、(何も性格だけではなく)身体にも言語にも個性(=クセ)が存在するのです。シェークスピアのセリフは何百回読んでも「しっくり」こないが、鶴屋南北の科白は一回で「ピタッ」とくるというところがあるということです。作者である私は、観念ではなく生きざまとして、例えばこの役者は「愛している」ではなく「ほれとんや」か「好きです」か、「はなしとうない」か、「愛しいわあ」か、「淋しくて」か、一体どのセリフが愛をつたえるか、現場で稽古と共に、うんうんうなりながら検証していくわけです。私の台本は、書き込みと取り消しの行列でありまして、とても他の人が見ても理解できない状態にあるわけです。…
 安西徹雄(昭8 松山市出身 東京都在住)は上智大学文学部教授、シェークスピア研究者。バーナード・スレド作「ドリスとジョージ」の翻訳演出で芸術祭優秀賞受賞(昭56)。演劇集団「円」を拠点に翻訳・演出をする。…演劇は同じ劇場の中の時間と空間とを、演じるものと観るものとが共有すべきものであるから、演劇固有の魅力を最大限に追求するには小劇場での上演が原点である。現実は信じられない、現実はいつどうなるかわからない、だからむしろ虚構である。嘘であることを標榜しているお芝居の中にかえって現実ではない真実があるのかもしれない。「すべてこの世は一つの舞台、人間の一生は一つの劇であって、人はそれぞれの役を演じている」(「お気に召すまま」)、「劇というのは自然に向かって、つまり世界に向かって鏡をさし向けるものである」(「ハムレット」)とシェークスピアがいうように虚構の世界=演劇の中に真実の人生が提示されている…と説く。

 山像 信央

 筆名 逢坂勉(昭11~ 宇和島市出身)。関西テレビ(昭36~54)を経て、「ロマン舎」設立・代表取締役(昭54~)。花登筐の『私の裏切り裏切られ史』(昭58 朝日新聞社)は「週刊朝日」に連載されたが、その最終回(昭58・9・16)の記事。

胸が熱くなったといえば、ニカ月ほど前のことであろうか。私の作品のほとんどの演出をしてくれていた元関西テレビの山像信夫ディレクターが、「たまに気分を晴らしに外へでも出ましょう」と、誘ってくれて行った先のレストランに、かつて彼と私の作品に出演した俳優さん達が集まっていて、「何の会合?」と聞くと、何と私の快気祝いを開いてくれたのであった。「船場」の主役の本郷功次郎君夫妻や、その子供時代を演じた小林芳弘君も、わざわざ大阪から駆けつけて成人した顔を見せてくれたし、「堂島」の山像夫人の野川由美子さんや、「どてらい男」の西郷輝彦君。「さわやかな男」の柴俊夫君、内田朝雄さんや、志垣太郎君の顔もあったし、「昼ドラ」のスタッフでフロアディレクターの津崎チーフや、メイクの武田千巻女傑も来てくれていた。「快気祝いをするから」と言われればてれ性の私のこと、来ないと思った山像ディレクターの思いやりであったのであろう。しかし私は非礼だと思いながら、皆より一足早く帰ったのは、涙がこらえ切れなかったからである。私はその夜、家でひとり泣いた。入院前から冷え切っていた私の心に温かさがよみがえったことが嬉しかった。
 山像は「見知らぬ恋人」(朝日放送 昭54・10~55・3)や「意地悪ばあさん」(原作・長谷川町子 CXテレビ 昭56・10~57・3)などのテレビ脚本を書いているが主たる仕事は舞台脚本・演出である。「夫婦善哉」(原作・織田作之助 昭47・11~52・11 名鉄ホール・梅田コマ)、「夫婦のれん」(原作・藤本義一 昭48・11 名鉄ホール)、「おんな川」(原作・日向鈴子 昭49・6 梅田コマ)、「浪花友あれ物語」(原作・藤本義一 昭50・6 名鉄ホール)、「ちりれんげ」(原作・藤本義一 昭53・7 道頓堀中座)、「もくれん茶屋日記」(原作・雲輪瑞法昭53・9 名鉄ホール)、「天井知らず」(原作・藤本義一 昭54・4 日本劇場)、「今、工女たちの歌がきこえる」(原作・山本茂美「あゝ野麦峠」昭54・11 道頓堀朝日座)、「花と龍」(原作・火野葦平 昭56・9 大分文化会館)、「乱世に生きる女たち」(原作・永井道子「流星」昭57・1・2 京都南座・大阪中座・中日劇場)、「この春恋一番」(原作・山本周五郎「ちいさこべ」昭57・1 新宿コマ劇場)、「みだれ川」(原作・北泉優子 昭57・10 日本橋三越劇場)などの台本を書き演出した。オリジナル台本演出に「あかんたれ堂々」(昭49・9 梅田コマ)、「練馬に大根がなくなった日」(昭56・3 池袋サンシャイン劇場)など幾十本がある。