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愛媛県史 文 学(昭和59年3月31日発行)

第八節 戯曲

 戯曲

 戯曲は演劇の台本であり、かつそれは文学の一形態でもある。作者が作った筋書き、すなわち台本は、舞台装置・照明・音楽などの効果と演出者の指導によって、俳優が舞台で演技して観客に見せる〝劇〟という、いうなれば総合的な芸術の骨格をなすものである。台本と呼ばれる脚本が〝戯曲〟と名付けられて文学の一翼に加えられるのは明治の中期以降のことである。概していうなれば、台本・脚本とは演劇的舞台的表現様式にかかわるものであり、戯曲とは〝読む〟文学的表現様式のものであるといえる。従って、江戸文芸としての歌舞伎脚本は、まれに刊行根本として板行されたものはあったとしても、その多くは作者自筆台本として、あるいは写本として伝えられてきたのであった。脚本の著作価値が認められるようになったのは演劇改良運動の影響のもとに「脚本楽譜條例」(明治二〇年一二月二八日勅令第七八号)によって著作権・興行権の法的処置が施行されてからであった。その後、文壇人の劇壇への進出によって脚本の活字化が醸成され、劇文学の独自性が認識される。
 ここでは〝文学〟としての戯曲(台本・脚本)を取りあげ、その演劇芸術としての演出・効果・演技(俳優)などには原則としてふれない。