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愛媛県史 文 学(昭和59年3月31日発行)

三 民衆詩と芸術派(昭和前期)

 昭和は動乱と変革経済成長の時代である。その前半、三分の一にあたる二〇年間は敗戦によって区切られる。大正末の大震災後のダダイズムとアナキズムの、いわば叫喚詩からはじまる昭和七・八年までの一〇年間は、「文藝戦線」「戦旗」などによるプロレタリア詩運動と、「詩と詩論」による、いわゆる純粋詩運動の両極端が対峙した時期であったといえる。たがいに、社会意識や現実批判と抒情否定形式変革を企図したものであった。文壇のプロレタリア文学と芸術派の対立に比せられるものである。昭和六年の満州事変勃発以後は左翼陣営に対する当局の強圧によって「ナルプ」(日本プロレタリア作家同盟)が解体する(昭9)反面、「文藝懇話会」(昭9)・{日本浪漫派」(昭10)が生まれ、次第に国粋主義的な傾向を強くする。同時に、対極の一方の解消のなかから「四季」(昭9)を中心とする広義の人道・自由主義が復活した時期でもあった。もちろんこれら詩活動の周囲には前衛派詩運動もつづけられ、プロレタリア詩の流れをうけた諷刺・抵抗詩もあったが、昭和一六年太平洋戦争後はこれらの詩活動は絶え、軍国体制のなかに埋没してしまう。