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愛媛県史 県 政(昭和63年11月30日発行)

 現代はまさに転換期であり、渡るべき国際化と情報化の流れは速く、越すべき高齢化の山は高い。だから新しい価値とヴィジョン=地図が切に求められているのである。
 しかし、真に新しいものは歴史に根ざすもののみである。歴史に沈潜し、その精神を体験して見いだされた光によってのみ新しい地図は描かれ、未来への決意は高められるのではないであろうか。
 転換期における新しい一つの始まりは、常に地方からであった。この意味で、地域史こそ歴史
の主軸であるとも考えられよう。
 我々の伊予の国、愛媛は神宿る高嶺とたたえられてきた石鎚の山並みと、古来我が国の文化と経済を形成した動脈であった青き瀬戸の海に抱かれ、豊かで独自性に満ちた歴史を展開してきた。
この歩みと流れの跡を探究し、過去の道統と未来への可能性を見いだすとともに、来るべき時代の人と土地と生の個性豊かな発展のための新しい地図をつくることは、現在の愛媛に生きる者の責務であろうと考える。
 昭和五十四年の夏に着手した県史編さん事業は、県民の皆様をはじめ多くの方々の御協力を得て順調に進行し、昨年までに三十六巻を刊行したが、本年は通史編一巻(年表・索引)、部門史二巻(県政・人物)、資料編一巻(現代)の計四巻を刊行し、すべての計画を完了する運びになった。この間十か年の歳月と多くの関係者各位のたゆまない御精進により、通史編七巻、部門史十九巻、資料編十四巻の、全四十巻を刊行することができたことは、誠に喜びに堪えないところである。
 本書は部門史の「県政」で、明治六年愛媛県誕生後の明治・大正・昭和前期の官選知事による県政及び昭和二十二年以降の公選知事による青木・久松・白石県政の政治・行政を中心に記述している。県政の舞台となった愛媛の郷土、近代へのあゆみに始まり、経済社会的・文化的事象を交えながら、近・現代愛媛の発展の跡をとらえ、時代の変化に対応した県政主要施策を系統的にまとめているので、県政の概説書として県民の皆様にお読みいただければ幸いである。
 県史編さん事業の終結を迎えるに当たり、長期間にわたり御指導を賜った顧問の先生方及び総括監修者の大石慎三郎先生、資料の収集、執筆など幾多の困難を乗り越えて編さんに携わってこられた県政部会長松友孟先生をはじめ委員各位の御努力と、数々の貴重な資料の御提供や有益な御教示をいただいた方々に対し、ここに改めて、厚くお礼を申し上げる。
 終わりに、この愛媛県史編さん事業の成果が、本県の生活文化の向上に広く資することとなり、学校教育、生涯教育の場において活用され、県民の郷土に対する理解と愛情が深まるとともに、愛媛の未来を展望する指標ともなれば望外の幸せと存ずる次第である。
  昭和六十三年十一月
                      愛媛県知事  伊 賀 貞 雪