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愛媛県史 社会経済6 社 会(昭和62年3月31日発行)

第二節 母子福祉と婦人保護事業

 母子家庭の援護

 戦後の大きな問題として、戦争の犠牲による母子家庭があげられる。昭和二四年になってようやく母子世帯の援護対策が国会において論議されるようになり、「母子福祉対策要綱」が決定され、福祉事務所に母子相談員が設置されるようになった。続いて昭和二七年一二月に「母子福祉資金貸付等に関する法律」が制定され、一般母子家庭の援護措置がとられるようになった。
 本県では、まず松山市に未亡人を援護しようと婦人更生委員会が昭和二二年一〇月設立され、宮本カヨが委員長となった。昭和二四年七月には松山市婦人更生連合会が結成され、初代会長に梅岡富栄が就任した。同年中に松山市中村授産場・母子寮が設立された。同年八月、三瓶町にも婦人更生会が結成され、これら二つの団体が県内の母子福祉団体のさきがけとなった。三瓶町の福祉更生会を通して初期の活動状況をみてみよう(『三瓶町誌』上巻)。三瓶町の阿部シンエは母子福祉対策の指導で来県した山高しげりの講演に感動して婦人更生会の結成を決心した。「三瓶町婦人更生会」は阿部シンエを会長に、顧問として町長・助役・町会議長・町内全民政委員を選んで発足した。

     会   則(抜粋)
  第一条 本会は三瓶町婦人更生会と称し、事務所を三瓶町役場内に置く。
  第二条 本会は協同の精神を以て明朗な婦人生活の自立向上と、会員相互の親睦を図り以て平和社会建設に寄与することを目的とする。
  第三条 本会は前条目的達成の為に左の部門を設ける。
      1 事業部  商品販売、副業の斡旋、その他協同事業等
      2 勤労部  家事、農事の手伝い、其の他日傭の斡旋等
      3 社会部  家庭生活の向上、修養、和楽
      4 相談部  身上相談、子供の問題、生活上の相談等、世話をなす。
      5 其の他
  第十二条 会費は年額十円とし、経費は会費の外、会の事業による収益金及び寄附金その他を以て当てる。
  以下略

 昭和二十五年度からは、町長を名誉会長、助役を副会長とし、各支部長、各部長を決定して活動を充実していった。
 母子家庭の収入安定のために努力を続け、多くの事業をはじめ、活発な活動を行っている。
 このような未亡人自身の自立しようという努力に対して行政も応えていった。当時の愛媛県民政部長であった松本貞水は、軍政部の「戦争犠牲者を特別に救済することは妥当でない」というのに対して「戦争犠牲者の対策なしに日本の社会事業は考えられない」と強く主張して、共同募金から五〇〇万円と県費五〇〇万円を以て戦争未亡人に生業資金を貸与するため「未亡人金庫」を設立しようとした。名称は結局「社会事業金庫」と変更をよぎなくされたが、当時としては全国でも例のない施策であった(財団法人愛媛県母子福祉連合会編「十年の歩み」)。

 愛媛県婦人更生連合会結成

 昭和二五年に全国未亡人代表者協議会が開かれ、県民生部から宮本カヨが派遣された。同年一一月全国未亡人団体協議会が発足し、仲間が手をつなぐことになった。翌二六年一一月、愛媛県婦人更生連合会が結成され、初代会長に梅岡富栄が就任した。この会は昭和三二年より愛媛県母子福祉連合会と改称された。
 昭和二八年三月七日、道後公会堂で第一回県母子福祉大会が開かれ、会員八〇〇名が集まって県下の未亡人の声をはじめて結集し、力強く第一歩を踏み出した。昭和三〇年には、第一回お年玉付年賀はがきの配分金の補助を受けて、松山市道後今市に道後母子館が建設され、母子家庭の寄る辺となった。昭和三四年の国民年金法に基づく母子福祉年金制度は母子家庭にとって朗報であり、対象者は当時四、五〇〇名ばかりいた。
 母子福祉連合会は単独事業として昭和三三年より、道後動物園内売店、県民館「母子の店」、県議会議事堂地階のグリル「白百合」の経営に着手した。昭和三六年八月一日、財団法人愛媛県母子福祉連合会として新たに出発した。丁度一〇周年を迎えて、名実ともに民間団体として主体性を確立したのである。

 母子福祉センター

 昭和三九年、「母子福祉法」の制定に基づき、母子福祉センターが国の補助事業として設立された。本県は同年発足し、昭和四八年四月に県母子寡婦福祉連合会に運営を委託するまでは県営で行われた。センターの事業は母子家庭を対象として介護人を無料派遣する制度と、本県独自に寡婦対象でも行っている。もう一つの特別相談事業は弁護士に依頼して主として法律上の問題を解決するためのもので相談は多岐にわたっている。また技能修得事業もすすめ、タイプ・和裁・早縫和裁の三科をおき、ここで修得した技能で生計をたてることが出来たものも多数出た。また地方での講習会は、給食調理員・家庭奉仕員・あみもの・姫てまり・洋裁リフォーム・和裁の講座が開講されている(「こよみの花束」県母子寡婦福祉連合会編)。

 今日の母子家庭問題

 豊かな日本に発展するにつれて、終戦直後のような悲惨な母子家庭の状況はほとんど見られなくなってきたが、今度は豊かさ故の家庭崩壊が姿を見せるようになってきた。次の二つの統計は全く異なった集計をしているものではあるが、母子世帯の原因に注目すれば昭和五四年の統計に離別・事故・未婚の母が原因であることが目立っている。従って次第に若年母子家庭が増加しており、その対策が必要とされる時期になっている。

 婦人保護事業

 「夜の女」ということばに代表される新しい形の売春が終戦後の姿である。GHQの公娼廃止の声は届かず、農村から出て来て、だまされ売りとばされて売春婦になったという例が非常に多いと報告されている。ヒロポンを打たれ、特飲街で働く女たちの中には一八歳未満の少女もかなり含まれていた。昭和二九年三月の県下の売春婦・売春業者数は、青線区域の売春婦三〇三人、業者一三五人、赤線区域の売春婦四九二人、業者一〇〇人と保健所、各警察署調べでは数字が出ているがこれは氷山の一角であると考えられよう。
 昭和二八年一二月、売春問題対策協議会が設置され、昭和三一年五月
にいたってようやく「売春防止法」の成立にこぎつけた。しかし以後三〇年が近づいている現在も、売春はより巧妙に多様化した形で存続している。転落の未然防止、転落者の保護更生のために婦人保護対策がとられている。愛媛県婦人相談所と、保護施設さつき寮が設立されており、民間協力団体として愛媛県婦人保護対策協議会がある。
 婦人相談所の取り扱った相談内容の多くは、昭和三五年ごろは売春問題が八〇%を超えていたが、昭和五二年には二〇%を割り、それにかわって家庭紛争・離婚・夫の暴力・サラ金問題など多岐にわたるようになった。従って五〇年代以降の売春問題は特殊浴場・サラ金・暴力団・覚醒剤等と結びつき、より複雑化、潜在化の方向をとっているといえる。愛媛県婦人相談所(松山市千舟町七丁目)は左記の表示板を掲げて保護の手を指しのべている。昭和三二年以来、相談所の扱った相談件数は昭和五三年度までで五、〇一七件である。売春歴を有する者の相談件数が年と共に減少している。相談内容では経済・家庭問題が圧倒的に多く、夫の浮気・酒乱・暴力等で家庭崩壊が起こる例が増加している。職業別では主婦・無職(特に内縁関係)の家庭内トラブルが原因となった
相談が多い。
 いっぽう県下に置かれている婦人相談員九名が受けつけた相談件数は昭和三五年から五三年の間に一万七、四三六件であり推移は表のとおりである。
 婦人保護施設さつき寮は、転落のおそれのある者・転落した要保護女子を収容保護し、生活訓練・教養訓練を行い保護更生を図っている。昭和五三年・五四年当時は収容者は四~五名である。婦人保護対策協議会は売春防止法制定の趣旨にかんがみ、あらゆる方途を講じて婦人の福祉向上を図ることを目的として設立された。事業は(1)売春をなくす運動、(2)婦女子の転落防止、(3)婦女子の保護更生を主とし、婦人相談所に側面から協力する団体である。行政に対しても悪書追放、特殊浴場の規制等を積極的に働きかけ成果を上げている。毎年機関紙「よあけ」を発行し、啓発運動を続けている。四国四県の同協議会の連携も密である。

      愛媛県婦人保護対策協議会趣意書      、

 本会は売春防止法制定の理念にもとづき、昭和三十二年発足以来売春をなくし住みよい社会顕現のため、日夜あらゆる施策を講じ最善の努力を講じましたので、一応はいまわしい売春形態は影を潜めた感がありましたが……その後巧妙にして悪質なる売春は紐や暴力組織による管理形態により、県下各地に激増したモーテルその他旅館等を利用し、堂々と行われ善良なる社会環境が悪化されると共に、不幸な境遇より逸脱する術もなく泣いている婦女子は、法制定以前にも増していると推定されると共に、売春による当然の産物としての性病は平和なる家庭にまで侵入し、紛争を起こしている例は各地に見受けられる現状であります。私共の力は微力であると共にこの仕事は大変困難な仕事であり、尚且つ永い年月を要するものであり又多くの人々の理解と絶大なる御支援と御協力がなければ、到底なし得ないもので何卒御支援御協力をお願い申し上げる次第で御座居ます。
                                                  愛媛県婦人保護対策協議会

表3-4 婦人更生会の活動状況

表3-4 婦人更生会の活動状況


表3-5 母子世帯の原因比例

表3-5 母子世帯の原因比例


表3-6 昭和54年

表3-6 昭和54年


表3-7 相談主訴別 (昭和53年度)

表3-7 相談主訴別 (昭和53年度)


表3-8 相談主の職業別 (昭和53年度)

表3-8 相談主の職業別 (昭和53年度)


図3-2 婦人相談活動状況

図3-2 婦人相談活動状況


愛媛県婦人相談所

愛媛県婦人相談所


図3-3 相談件数の年度別推移(S35~53)(婦人相談員取扱分)

図3-3 相談件数の年度別推移(S35~53)(婦人相談員取扱分)