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愛媛県史 社会経済6 社 会(昭和62年3月31日発行)

四 災害復旧制度の確立

 災害復旧とシャウプ勧告

 戦中から戦後にかけて、台風などにより多くの人命を失う災害が続発した。当時の災害復旧に対する国庫補助制度は、明治四四年制定の「府県災害土木費国庫補助ニ関スル件」によるもので、大正八年、昭和六年、同一六年に一部改正され、同二四年まで施行された。戦後の昭和二四年、アメリカのシャウプ使節団が来日し、税制に関する勧告を行った。その中で地方自治及び地方財政の一般方針を述べているが、災害復旧制度について、「天災は予知できず、緊急に莫大な費用を要し、罹災地方公共団体の財政を破綻させるおそれがある。したがって、災害復旧事業は、中央政府だけが、満足に処理できるものである。」として、災害復旧費の全額国庫負担を勧告した。
 このため、政府は勧告の趣旨を尊重して、「昭和二五年度における災害復旧事業費国庫負担の特例に関する法律」を制定し、原則として全額国庫負担することとした。なお、別途制定された「農林水産業施設災害復旧事業費国庫補助の暫定措置法」では、農地、農業用施設、林業用施設、漁港施設、共同利用用施設等の農林水産業施設が災害を受けたとき、その復旧に要する経費の一部について国庫補助を行うものであった。

 公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法の制定

 昭和二五年、「地方行政調査委員会議」が設置され、災害復旧制度に関する審議が行われた。同会議は、国会及び政府に対し、「災害復旧事業は、被災施設の管理者がその責任と負担において行うべきであるが、弾力性の乏しい地方財政では、その金額を負担することは困難であるから、財政力に耐える限度においてその一部を負担し、超過部分は国が負担すべきである。」との勧告を行った。
 昭和二六年、政府はこの勧告等に基づき、災害復旧制度に関する恒久的措置として、現行法である「公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法」を立案し、第一〇国会に提出、同年三月可決、成立をみたのである。この法の対象となる施設は、河川・砂防設備・道路が建設省の所管、林地荒廃防止施設・漁港は農林水産省、港湾は運輸省、海岸は建設省、農林水産省または運輸省の所管となっている。ところで、国庫負担率の算定は、建設省が、各省所管で決定した災害復旧事業費をとりまとめて、合算した総額を基本額とする。それに、地方公共団体の標準税収入と対比して、事業費の額区分に伴い三分の二、四分の三、四分の四と逓増する率を乗じて算定した額を合算し、これと基本額との割合を国庫負担率と定めている。
 このほか、昭和二八年には、「公立学校施設災害復旧事業費国庫負担法」が制定され、公立学校施設が災害を受けたときは、その復旧に要する経費について国庫が三分の二を負担することを定めている。公共施設の災害復旧については、以上の基本三法のほか、公営住宅、生活保護施設、伝染病隔離病舎、隔離所、都市施設等の災害復旧に対しては、個別法律の規定又は予算措置によって国庫補助がなされている。こうした災害復旧は、原形復旧を原則としている。しかし、原形復旧では不充分であるとか復旧だけでは施設維持、公益上充分でないので被災箇所外を含める必要がある場合には、移設あるいは改良工事を実施する。ただ、改良事業については、災害復旧と異なり、国は義務的に費用負担をするのでなく、国が一部費用負担する形の財政援助を行うこととなる。この種の災害関連の改良事業としては、昭和九年開始の災害復旧助成事業と昭和二九年開始の災害関連事業の二つがある。
 なお、公共土木施設及び農林水産業施設の補助災害復旧事業については、緊要なものについて当初発生の年を含め三か年、その他は四か年で完了することになっていたが、現行は原則三か年で完了させることとし、予算計上率は初年度三〇%、次年度五〇%、第三年度二〇%とされている。

 災害対策制度の整備

 昭和三七年には、災害復旧の円滑な実施と適正な財政援助を内容とした激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律が制定された。このほか災害により被害を受けた個人に対する援護、融資制度も昭和二〇年代に逐次整備された。これらの法律としては、災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律(昭和二二年)、農業災害補償法(昭和二二年)、住宅金融公庫法(昭和二五年)、中小企業信用保険法(昭和二五年)、天災による被害農林漁業者等に対する資金の融通に関する暫定措置法(昭和三〇年)等がある。その後、個人に対する災害救済制度の拡充を図るための災害弔慰金の支給等に関する法律(昭和四八、五七年)、昭和四九年の三菱石油水島製油所重油流出事故を契機に、石油コンビナート等災害防止法(昭和五〇年)などが制定され、社会経済環境の変化に対応した災害対策制度の拡充が図られた。また、昭和五三年には、大規模地震の予知情報が出された場合の防災体制の整備強化を図ることを主な内容とする大規模地震対策特別措置法が、また同五五年には、同法に関連して地震防災対策強化地域における地震対策緊急整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律が制定され、地震災害の軽減を図る制度が整備された。
 一方、災害による被災者の災害復興の意欲を促し、その迅速な復興を図るため、各種の災害融資の措置を講じている。主な災害融資をあげると、表3-3のとおりである。さらに、災害による損害を補てんするため、農林水産業関係災害補償制度や地震保険など各種の保険・共済制度が設けられている。
 また、災害により住宅や家財に被害を受けた人々に対しては、所得税法、災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予に関する法律、地方税法等の定めるところにより、国税及び地方税について、軽減、免除及び徴収猶予等の措置が講じられることになっている。このほか、災害復旧事業や災害応急対策を実施するため大きな財政負担を負う地方公共団体に対して、国は、災害関係地方債の許可及び資金運用部資金の貸付、災害に係る特別交付税の交付、普通交付税の繰り上げ交付等の措置を講じ、財政負担の軽減を図ることとしている。

 激甚災害のための特別財政援助

 ところで、昭和二八年の西日本水害、同三四年の伊勢湾台風、同三六年の梅雨前線豪雨などのように、災害の程度が極めて激甚なときは、通常の制度の災害復旧や災害対策をもってしては、地方財政の過重な負担を救い、罹災者救助を適切に行うことができないため、このような大災害にはそのつど特別立法を行って、特別の援助措置をとってきた。
 昭和三七年九月、「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」が制定され、総合的、合理的かつ恒久的な制度として、激甚災害の場合における災害復旧等の事業の円滑化を図るため、特別の財政援助、被災者に対する特別助成措置について定められた。財政援助については、災害復旧事業費にかかる地方負担額の標準税収入額に対する割合に応じて、国庫負担率をかさ上げすることなどである。なお、「激甚災害指定基準」については、災害対策基本法に基づき設置された「中央防災会議」において定められ、その指定は政令によってなされることとなっている。

表3-3 主な災害融資

表3-3 主な災害融資