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愛媛県史 社会経済5 社 会(昭和63年3月31日発行)

三 県教育委員会県民性調査研究報告から①

 昭和五二年から同五三年にかけて、県教育委員会は、教育センターを核として、県民性調査プロジェクトチームを編成、藤原茂教育次長を総括として三六名のスタッフによって調査研究が実施された。この結果を報告書に従って要点を抜粋してみる。
 この調査の要請は行政サイドからのものであったが、研究の領域や方法については全面的にプロジェクトチーム、つまり調査研究委員に一任された。県民性というこの気質的精神的なものは、はなはだとらえにくいものであり、ある時点、討議の過程で、「県民性というものは、現在の情報化社会では、すでに風化してしまったのではないか。」という調査の根源にかかわる率直な疑問が提出されたことさえあった。逆説的に自ら問いながら、しかもなお、県民性、それにかかわる何ものかが発見されることを期待して、一見表面は風化したかに見えるこの郷土の地盤に数本のボーリングを試みる思いで、今回の調査を実行した、と前文に書かれている。

 領域及び方法

 ○意識・態度調査―一般調査と特別調査に分け、前者は一般成人対象に質問紙法による調査を行い、全国調査との対比、及び県内各地域の対比を行う。後者は県下各地の地域指導者を対象として、アンケートの実施。
O県外から見た県民像調査―県出身で県外居住者、県外出身で県内居住者を対象としてアンケートを実施。
O性格検査―一般調査回答者より一、〇〇〇名を抽出、気質性格検査を実施するとともに、伊予郡松前町住民を対象に、主題統覚検査(TAT)を実施、県内外地域との対比を行う。
O地理と県民性―自然環境、経済、社会構造から、地理的特性要因を解明し、更に意識態度調査の地域的分析を行う。
O歴史と県民性―江戸時代からの政治の動向、文教政策、地場産業の発展等から県民性の形成要因を解明する。
O文学と県民性―愛媛の風土性を持った文学作品、及び県下の文学碑、文学活動等から、住民の気質や性格を明らかにする。
○伝統文化・文化活動と県民性―地域の文化財、住民の文化財への関心度や文化活動の調査を小学校区単位で行う。

 意識態度一般調査

 質問の項目は下表の通りで、全国調査、他府県の調査との比較のために選ばれた三四問である。
 対象は県下全域で満二〇歳以上の男女、層化無作為抽出で三、五六〇人を選び、郵送法によって実施された。
 有効回収数は二、一五〇で回収率は六〇・四%、この集計は県立松山工業高等学校のFACOM二三〇で集計された。
 (一) 回答の傾向に影響を与える変数
 意識・態度の変化に関係ある変数は、年齢、職業、性別の外、居住地域等が考えられ、県民意識を問題とする場合にはそれらを考慮する必要のあることを指摘している。
 例えば年齢について見ると、伝統を重んずる傾向、宗教の必要性、家系の継承、恩人への態度等は年齢と共にそれらへの肯定的態度が高くなっているのに対し、個人主義や合理主義的傾向への肯定的態度は逆に年齢とともに減少するようすが読みとれる。
 (二) 全国対象の国民性調査と同じ傾向の見られる項目
 時代の移り変わりや、産業構造の変化は、人々の生活様式や考え方を少しずつ変化させてゆくものであるが、このような変化を推進する大きな役割を担うのがマスコミや、交通、教育等である。こうした流れの中で愛媛県民の意識が、日本人全体の意識の変化と同一の方向に、同じようなテンポで変化したと考えられる項目は、表3-25のように「家」に関する意識、「子供の教育」、「宗教」、「対上司意識」「人生観」等である。
 これらは教育の普及、マスコミの浸透、交通網の整備等の全国的進展の結果と見られるが、愛媛県人が日本社会の中にあって、特殊な生き方をしているものでないことの当然の結果と解釈している。
 なお、全国調査との比較は、統計上の有意差のみでなく、回答のパターンの類似の有無によっても判断されている。「家」については戦後制度的にもその意識は崩かいしたが、日常生活にときとして顔を出すとき、その意識がどの程度人びとの思考に内在しているか、その一端をとらえようとしたものであるが、〝家のことを考える〟人は五二%、〝考えない〟が四三%で、年齢等による差もあるが、その意識の残存を見ざるをえない。さらに特別調査では〝考える〟が六〇%、〝考えない〟が三五%で、本家、分家の意識は強いと見てよい。
 しかし質問一で、「子供がないとき、他人の子供を養子としてあと継ぎにさせるか」では全国的傾向と異なり〝事情による〟が四四%(国民性一七%)となっているが、特別調査では〝つがせた方がよい〟が四八%で、家の存続を願う気持ちがつよい。年齢的に高い人が多いためと見られる。
 「子供の教育」については、人間尊重の立場からは〝自由が重んじられる〟傾向がつよいが、〝規律の尊さを教える〟が学校教育上では大切と見られている。
 「宗教」については何らかの意味で人間生活にとって必要であり、大切と考える人が四分の三をしめている。したがって神仏をまつることも大切と考える人も七〇%をこえている。
 「対上司の人間関係」については、近代経営的上司より家族的雰囲気の上司を好む傾向か大変強い。
 「生活信条」では個人主義的傾向かつよく「仕事」では仕事・余暇併立の考えが約半数である。
 「公務員」に対しては〝法の弾力的適用〟を望むものが七二%と、本県でも欧米と異なる日本人共通の法意識が見られる。
 (三) 全国調査と異なる意識・態度の傾向
 本調査と、全国調査と異なる結果を見せている項目が表3-26の一五項目である。
 (1) 全国的傾向と余り差のない考え方が表3-27の四項目である。
 「養子」も「機械化と人間性」も、保留態度ではかなりの差が見られるが(後出)、肯定、否定では余り差が見られない。
 「主婦と職業」では〝家庭を守る〟に賛成が圧倒的に多いが、今日共働きが普及した状況の中、若年層では〝出て働く〟ことを認める割合が他より多くなっている。
 「結婚式、葬式」は〝分相応〟が圧倒的であるが、盛大にすることに対する拒否反応も多くない。
 (2) 表3-28の三項目は、伝統的考えへの同調も少なく、また合理主義的とも考えにくい、意識の変化過程にあるものと見られる項目である。
 「生まれかわりの性別」その多くは全国調査と同じ傾向であるが、〝女性が女性に〟が全国とかなり差を見せ、女性の意気を示している。
 「しきたり」も「政治家への委任」も、保留態度では全国調査との差が見えるが、肯定・否定ではその差が僅かで、意識の移行過程を示すものかもしれない。
 (3) 表3-29の三項目は何れも人間関係に関するものである。
 「恩人の危篤」、義理人情への態度を明らかにしようとしたもので、恩人の情と現実の責務との葛藤場面であるが、結果は全国の傾向と逆で、〝会議に出る〟が五四%で、義理人情のすたれを見せている。
 「上役の誤解」全体としてひとこと何か言わずにおれないものが多い。
 「成功者へ」もり立てるようにする人が多いと考えているものは四八%で、全国調査よりはるかに少なく、足をひっぱるようにする人が多いと考えるものが三〇%いる。
 (4) 即断をさける態度
 県外から見た県民調査に「石橋をたたいても渡らないくらい慎重」という回答があったが、意識態度にもそれが現れている。表3-30の五項目は全国調査に同じ項目があって比較出来るものであるが、その多くは既出の項目ですでに保留態度については指摘してきた。上の外にもう一項目「家族は夫婦と子供だけで、親と別居したほうがよい」という意見についての賛否で、ここでも〝なんともいえない〟が三六%でかなり多く出ている。もっとも〝反対〟も三七%ではある。
  ともかく愛媛県人は〝事情による〟〝いちがいにいえない〟〝場合による〟〝時・人による〟等の回答が多いのは一つの特徴である。
 (四) 愛媛県独自の質問に見られる多数意見
 独自な質問は他と比較ができないが、各変数によっても2/3前後の支持を見せている回答は、一応県民の特性が表明されているものと判断されている。
  (1) 近隣社会における地域連帯の意識・態度
  隣近所の人々へのあいさつ、つきあい、共同作業への参加は、年齢・職業・地域などで多少の差はあるものの、節度をもって行われ、連帯意識が見られる。
  (2) 貯蓄を重んじるなど堅実な経済観念、消費の慎重な態度
  〝余裕があれば貯蓄したい〟が約七〇%、もし思いがけない収入があった時は、五四%が貯蓄、投資に回すという、つつましやかで堅実な考え方。さらに新製品にはやたらにとびつくことなく、人によって確かめてから使用するという慎重さが七〇%近く出ている。
 (五) 東・中・南の地域による意識・態度の違い
 質問項目では三四問中一四問に地域による統計上の差が見られたが、その差はごく僅かであった。
  (1) 性格評定で、自己判定によっては〝陽気で話し好きであるが、少し気弱い〟と答えたものが五〇%前後で、〝多少がんこできちょうめんであるが、融通がきかないときがある〟と答えたものが約三〇%と、地域差は見られなかったが、他人評価では下のように東・中・南の差が出てきた。
  (2) 家、家族に対する意識
  「養子によるあと継ぎ」では南予に賛成が多く、「核家族化」では東予に反対が多いが、実際の核家族率は東予六五・四%、中予六四・三%、南予五八・三%で東予が最も多い。
 (3) 成功者への態度
 中予に〝足を引っぱる人が多い〟と判定している割合が比較的多い。
 (4) 一般社会意識の中から
 「家・国家中心の志向度」では、南予が家・国家中心の志向度が大で、個人中心は中予に、「公務員タイプ」では南予に厳格さを求める志向が強い。
 (5) 地域連帯性
 南予は東・中予に比べて近隣の連帯性がつよい。
 (6) 貯蓄・消費態度
 「貯蓄心」は南予が旺盛で、少々無理をしても貯蓄に回すべきと考えているが、「臨時収入」の場合は貯蓄への志向は中予がつよく、南予ではむしろ家の修理や、耐久消費財の購入志向で中予との差がある。
 (7) 言葉の意識
 「方言使用の抵抗」は極めてうすく、NHK調査による鹿児島や青森県と比べるとはるかに少ない。その中でも南予地方は、中・東予に比べて多少あり、しかもそれを大切に残しておきたい意識も比較的強い。
(六) 都市化地域と、農山村、島嶼部の差
  (1) 家・家族の意識
  「養子問題」では、都市とその他でつがせると、〝つがせない〟に反方向の差が見えている。
  (2) 地域連帯性
  地域の連帯性はやはり都市化地域に薄い。山村が最も親密のようである。
  (3) 宗教
  宗教についての考え方には差は見られたいが、「神仏のまつり」についてその必要性の意識は都市がよわい。
 (七) 年齢による意識・態度の違い………図3-44・45
 〔A〕図は年齢とともに回答率の高くなる項目で、その多くが伝統やしきたりを大切にしていきたい、という意識に関係ある項目である。保守的傾向が年齢とともに高まることは自然であろう。上の外「しきたりに従うか、自分の考えを通すか」について、〝しきたりに従う〟等も年齢とともに上昇している。
 〔B〕図は逆に年齢とともに下向する項目であるが、これらは個性尊重や、自主性・合理性に関係ある項目である。上の外〝法の適用は弾力的に〟等も年齢とともに下降している。
 図3-45は年齢とともに自分の考えや態度がはっきりして、保留的な選択肢の選択が減少する傾向を示している。

 意識態度特別調査

 一般調査の結果のうち、愛媛県の意識態度の傾向が、全国と異なる次の六つの質問項目について、地域指導者に対するアンケートが行われた。
 ア 養子による家のあと継ぎ(問一)
 イ 恩人の危篤時の態度(問一二)
 ウ 誤解した上役への態度(問一四)
 エ しきたりと自分の考え(問二二)
 オ 県出身成功者への態度(問二七)
 カ 政治家への委任(問三〇)
 伝統を尊重する意識、人間関係に関する意識、慎重に物ごとに対処する態度等、全国の傾向より強く表れていることに対する地域指導者の受けとり方について尋ねたものである。これに対して地域指導者の大多数は「予想していた通りである」との回答が返ってきた、とある。

 性格検査

 一般調査回答者の中から一、〇〇〇人を抽出して実施した性格検査(精研式性格類型調査)(INV)は次の要領であった。
 検査の内容は表3-33の通りで、対象は特に一般調査に督促なしで回答を寄せたものの中、その土地に一〇年以上住んでいる、いわばはえぬきの人一、〇一〇名を選んだ。
 回収は六一六名で回収率は六一・○%であった。その分析結果を要約すると
 (1) 各類型の評定平均値は全国平均よりも高く、したがって性格類型はよりはっきりしている。分類不能の割合も少なく、愛媛県民は回答に対する防衛的姿勢が少ないようである。
 (2) 県民に多い性格類型は粘着性気質(E)で全体の一八・三%をしめ、次は同調性気質(Z)で、この二類型に混合型(ZE)を加えると三八・九%に達する。
 (3) 県民に多い性格特性について、質問項目五〇の内反応率の高い順に二〇項目を選んで図示すると下図のようで、七〇%を超える性格類型をまとめると、愛媛県人は、粘着性、行動性、世話好き、熱中性、諧謔性、融和性、社交性に富んでいるが、その反面、神経質で怒り易いところがあり、また何かいいたくても言いそびれてしまう内閉性気質の側面もあるという。
 (4) これらの性格類型についての地域差はほとんど見られない。
 (5) 全国と比較して差の大きいのは「粘着性」で、宮城音弥は愛媛は同調性としているが、ほぼ同程度の粘着性気質が見られる。
 (6) これら二つ類型で性格の性差を見ると、女性の方にその割合は大きい。

 県外から見た県民像

 県内活躍の他県人、県外活躍の愛媛県人は、愛媛県民の性格をどう見ているか、対象を「愛媛年鑑」の人名録より無作為に抽出した各一五〇名、計三〇〇名として次の調査票により郵送法で調査を実施している。
 この一六項目は、前述の宮城音弥の実施した「特性調査票」三五項目の中から選んだものである。これら一六項目について五段階評価したものを、県内、県外両者の合計で評点化したプロフィルは図3-47の通りである。
 これによると愛媛県人は、明るく、親切、温和で、情に厚く、やや楽天的であるが、勤勉で素朴さをもち、保守的傾向かつよいといえる。
 次に県出身と県外出身者の評定結果の差異を見ると、次図の六項目で見られる。
 全体的に県出身者の方が評定が好意的である。
 次は自由記述から摘出してみよう。
 県外に居住する県人の見た県民の性格、―「他府県人と比べ性格が温和で、言葉使いもやわらかで、人あたりがよく、連帯意識も強い」「非常に積極性に富み、勤勉で明朗な人が多い」など好感をもってとらえている。しかし「島国であるという条件によって、穏健で自然を愛し、文学芸能などの風流を愛する人が多い」「島国根性から脱し切れず、多少排他的、独善的な面もある。」などの記述も見られる。さらに「気候温和で、生活が安易なためか、東北、裏日本出身の人に比べると、強さや粘りに欠ける。」「日和見的で島国根性のせいか他人の失敗を喜ぶ人が多い」などの見方もある。
 つぎは県内に居住する他府県人のみた県民性―「瀬戸内特有の気候温暖な影響を受け、一般的に気風おだやかで、温和な人が多い。」「お遍路を通したせいか、他県の人には親切である。」とみている。また「生活環境に恵まれすぎているせいか、欲がなく、積極性に欠けている」「島国のせいか視野がせまく、考え方が自分中心で客観性がない」などの記述もみられる。
 また全体としては均質化の傾向が著しく、「特に当県の県民性という程の特異なものは感じない」「他県と同様、日本人一般として平均化してきている。」などの意見も見られる。交通やマスコミの発達で「言葉においても、最近では『伊予なまり』を聞くことができない」と昔をなつかしむ人もいたという。
 こうした中にも愛媛県は「東・中・南予の三地域でその性格は著しく相違しており……」「同県人でありながらかなりはっきり差があるのが特徴的であるような気がする」とそのちがいを指摘しているのはすべて県外出身者の意見であった。
 その性格のちがいを地図上に示したものが下の図3-49である。

 絵画(主題)統覚検査

 住民の無意識レベルでの家族意識をとらえるために、主題(絵画)統覚検査が実施されている。対象はごく限られた地域(伊予郡砥部町)で、対象人数も七五名、ハーバード図版から調査目的に適した五枚(2・6・4・10・13・)を選んで使用している。
 このテストは多少あいまいな絵を見せて物語りを作らせることにより、個人の潜在意識レベルの欲求、不安、葛藤等を探求しようとするもので、その物語りの構成と解釈を、他県実施の結果と比較して本県の位置づけをしようとしている。
 この結果の要約は、次の通りである。
 砥部町における家族集団への帰属感では、都市と山村の中間的な傾向がみられる。山村に特徴的な家族中心から、核家族的な夫婦中心の都市的な家族イメージに移行しつつあると思われる。母親と息子の人間関係でも同様であるが、若年層では都市的傾向が強い。さらに娘から見た父親には権威者的映像は薄く、女性は家族より社会状況にさらされる傾向が見られ、この点では都市的であるが、男女関係は都市ほどに割り切って考えるまでには至らず、従来からの性道徳がかなり支配的であると思われる。
 このような都市的家族意識は、核家族の夫婦や女性に強く認められ、伝統的家族主義の傾向は高齢者に多いのはごく自然である。

 地理と県民性

 各種の統計・資料・文献をもとに、現地調査をふまえ愛媛県の地域的特色を摘出し、それが自然と相まってどのような住民の意識や態度、ひいては気質、性格の違いを生み出しているかを究明しようとしている。
 従来愛媛県の地域的区分をするときは、その面する海域や、川の流域等によって分けられた東予・中予・南予の区分が一般であり、上の意識、態度の調査等もその区分による地域差を指標として解説されてきた。
 しかしそれらの結果についても、子細に検討すると、もはや東予・中予・南予という区分によって地域性を明確にできる郷土的性格を見出すことは、特例を除いては困難になってきていると最初に問題を提起し、自然環境、経済構造、社会構造の三面から考察して、三大地域区分に人口集中地区、農業地区分図を合わせて県下を一四地域に区分して考察することを提唱している。
 上記の区分による、意識・態度調査から見九地域差の二、三を呈示する。(その状況を地図によって示す)
 (1) 養子と家のあと継ぎ(図3-50)
 県全体としては〝事情による〟という答えが四四%をしめている。〝他人の子供でも養子にもらって家をつがせる〟は、東予農山村、東予島しょ、中予山村、南予農山村、南予段畑地域で望んでいる人が多い。日常生活で連帯感の強い地域である。他方都市化の進んだ地域は〝つがせないでよい〟が多い。
 (2) 工場用地買収への協力(図3-51)
 県全体では〝価格による〟が五一%であるが、一般に山村地域では積極的姿勢が見られるが、人口流出の多い地域と重なる。
 (3) しきたりと自分の考え(図3-52)
 県全体では〝場合による〟が七〇%で、〝しきたりに従う〟は農山村、島しょ部と宇和島市につよい。これらは住民移動の少ない地域である。今治市には保留態度が多い。
 (4) 家・国家中心への志向度(図3-53)
 県全体では〝家・国家中心〟が四八%、〝個人中心〟が三七%で、前者は中予山村、大洲市や川之江市に、後者は都市部とその周辺に多い。なお〝個人中心〟は青壮年層や居住年数の少ない人々に、〝家・国家中心〟は老年層や居住年数の多い人々に多い。
 (5) 近所づきあいの程度(図3-54)
 全体では〝節度をもって〟が七一%で最高、〝何でも気楽に〟は中予山村、南予農村段畑地域に多い。後者は一般に過疎高齢地域である。
 (6) 県出身成功者への態度(図3-55)
 全体では〝もり立てる〟が四八%で、〝足を引く〟が三〇%で他県と傾向が異なっている。〝足を引く〟が多いのは集計上は、中予山村地域である。

 歴史と県民性

 我々の生活や意識が、大なり小なり歴史と深いつながりのもとに成立していることは万人の認めるところであるが、愛媛県民の意識・態度に最も強い影響を与えたのは近世以降であると考え、歴史と県民性では近世については伊予八藩の成立、展開、藩政、文教政策、及び幕末維新の各藩の動向を探り、明治以降については県内各地域の地場産業の盛衰に見られる特性を中心として県民性の一端に迫ろうとしている。
 その詳細は上に述べたのでここでは省略し、結論のみ提示する。
 近世伊予各藩の考え方や動きは一様でない。
 明治以降においても旧藩の地域性をこわしてしまうような大きな交流は少なく、こうした条件のもとでは、ある一つの事柄についても、人々の対応の仕方は一様でなかったし、藩政時代に始まる地域的結びつきは安易に解決されなかった。歴史的にみるならば、県民の意識は多様性に富む要因を持っていたと結んでいる。
 地場産業では東予伊予三島・川之江の製紙業の、又今治タオル業の順調な発展をあげ、特に製紙業については、南予地方のそれが南予人の律儀さと良心によって、今日まで伝統工芸として守ってきたのに対し、東予では近代工業への転換に成功した企業心の旺盛さをうかがわせるとし、また今治市桜井地方の椀舟行商を背景とする月賦販売の発祥が、タオルと共に東予人の創意・工夫、商機をみるに敏な性格、企業家としての根強さの露頭であるとしている。
 中予では藩政期に起源をもつ伊予絣があげられているが、近代化の遅れにより衰退を示しているのは、今治のタオルと比べ企業活動の面での東予大と中予人の差を示している。
 南予では藩政期西日本随一の鰯網漁場という豊かな自然条件のもと新網敷設、新浦開発が進められ、他方「耕して天に至る」といわれる段畑が開墾され、強い共同体意識の村落共同体を成立させた。この段畑の石垣の一つ一つの石の積み上げに示されるものは、勤勉さと粘り強さであろう。またこの共同体維持のためには連帯感と、伝統を重んずる意識が鍛えられると共に、他面新漁法の導入、新しい作物の転換などに見られるような、進取的・積極的な傾向もうかがうことができると見ている。
 文学と県民性は、本稿中それぞれの年代で引用したので複雑をさけて改めて述べない。

 伝統文化・文化活動

 調査は県下全小学校四一一校の校長に依頼して行われ、地域の住民が、特に親しんだり、誇りに思っている文化財、地域ゆかりの有名人、偉人、古くから行われている子供達の遊びや行事、伝統的行事、町内会、公民館が行っている住民の集会、地域で行われているサークル活動、伝統文化の継承や文化財保存に対する住民の関心度、江戸時代から地域内に起こった歴史的できごと、地域内の地場産業の盛衰、地域内で歴史的によく知られている私塾・家塾・寺子屋そのほか住民の性格形成にかかわりがあると思われることがあればとりあげ、これによって住民の性格がどのように変化しているか等を記入してもらっている。
 この調査の結果からみられる県民性として
 (1) 文化財に寄せる強い関心
  指定文化財の指定数のうえからは、国指定で全国平均と大差はないが、県指定や市町村指定の数では全国平均をかなり上回り、四国では第一位である。このことは県民の文化財に対する関心の強さを示し、伝統指向の強さを表していると思われる。なお文化財の内容に対する関心度では、記念物や有形文化財に対するものの方が強く、無形文化財や民俗文化財に対する関心は余り強くない。また関心は各地とも次第に薄れる傾向にあるようであるが、地域によってその行事が盛んな処、それがマスコミに乗ったりする処では関心は深い。
 (2) 伝統文化に対する意識の年代によるずれ
 一般に伝統文化の継承や文化財に対する関心度は、若年者に低く、年配者は郷土芸能や伝統的民俗文化をいかにして継承させていくかに悩んでいる。しかしどの地域も三世代交流学習会などの会合をもち、互いに考え方の交流を図り、伝統的なものを保存伝承しようとする努力がうかがえる。
 (3) 関心度は南高東低
 南郡地方では伝統文化への関心が比較的高く、都市化や新興住宅地の開発進む東予・中予の地域では住民の伝統行事への知識も薄く、関心も今一つである。
 (4) 指導者の有無と日常生活への志向
 すぐれた指導者のいる地域、精力的な活動家のいる地域では関心も高く、新しく地元を見直す文化を興そうとする気概にもあふれているが、過疎地域などでは日常生活に追われ、その余裕が見出しえないと報告している。
 (5) 東予はスポーツ、中予は研究や文芸、南予に多い伝統保存の指向性
 東予にスポーツ関係のサークルが多いのは新産都市として若者の集中が多かったため、研究サークルが多いのは中予で、郷土史、古文書、果樹、園芸などがある。なお松山中心には句碑・歌碑も多く、子規の伝統を受け 文芸サークルも数多い。
  茶道・華道・琴・詩吟・舞踊などの芸能に関するサークルはどの地域にも多く一般的である。
 なお県内の文化人―俳人・歌人・柳人―その他の分布及び句碑・歌碑・その他の文学碑の分布等を見ると、東予には川柳、中予は俳句、南予には詩歌が目につく、それぞれの愛好の気質が適合している感を禁じえない。

表3-24 調査内容

表3-24 調査内容


表3-25 全国と同じ傾向がみられる質問項目と回答比率の対比

表3-25 全国と同じ傾向がみられる質問項目と回答比率の対比


表3-26 全国と異なる意識の傾向区分

表3-26 全国と異なる意識の傾向区分


表3-27 全国と異なる傾向のみられる質問項目(1)

表3-27 全国と異なる傾向のみられる質問項目(1)


表3-28 全国と異なる傾向のみられる質問項目(2)

表3-28 全国と異なる傾向のみられる質問項目(2)


表3-29 全国と異なる傾向のみられる質問項目(3)

表3-29 全国と異なる傾向のみられる質問項目(3)


表3-30 全国と異なる傾向のみられる質問項目(4)

表3-30 全国と異なる傾向のみられる質問項目(4)


図3-29 地域連帯意識

図3-29 地域連帯意識


図3-30 経済観念

図3-30 経済観念


表3-31 三予人性格評定(他人評価)

表3-31 三予人性格評定(他人評価)