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愛媛県史 社会経済4 商 工(昭和62年3月31日発行)

二 東予新産業都市建設計画①

 東予新産業都市建設基本計画

 昭和三七年(一九六二)一〇月、閣議決定された「全国総合開発計画」における拠点開発構想を具体化したものとして、昭和三八年七月、愛媛県東予地区が、全国一三か所の新産業都市の中に選ばれた。昭和三九年一月、新産業都市建設促進法に基づく名称区域及び基本方針が公布され、東予地区は、「今治市、新居浜市、西条市、川之江市、伊予三島市、宇摩郡土居町、新宮村、別子山村、周桑郡小松町、壬生川町、丹原町、三芳町、越智郡玉川町、波方町、大西町、菊間町、朝倉村」の区域とされた。東予地区が新産業都市に指定されると愛媛県は、新産業都市建設促進法の建設基本方針に従い、第一次の「東予地区新産業都市建設基本計画」を策定した。この第一次基本計画は、昭和三九年一二月に内閣総理大臣に承認された。
 第一次基本計画は、将来の開発の基本的方向として、「瀬戸内海臨海工業地帯の一つの開発拠点として、その建設を促進するものとするが、特に、公害の発生防止に万全を期するとともに、瀬戸内海国立公園、石鎚国定公園等の自然景観の保護利用につとめ、自然と調和した『緑の新産業都市』への実現を図るものとする」としている。「開発すべき工業の業種およびその規模等に関する工業開発の目標」として、「東予地区の工業開発は、当面、既存の工業の開発を中心とし、これにあわせて関連産業、地場産業等の新規立地を図るものとするが、将来においては、臨海性重化学工業の新規開発を積極的に推進するものとする」と述べ、臨海性重化学工業中心の高度経済成長を志向している。
 具体的には「川之江、伊予三島地区および今治地区は、製紙工業、繊維工業等既存企業の育成発展を図ることに重点をおくとともに、関連産業の立地を促進し、新居浜から西条壬生川に至る臨海部は、重化学工業地帯として新規に開発すべき主要地域とする。新居浜地区は、化学工業、非鉄金属工業、機械工業等の既存企業および関連企業の拡張、新設を期待し、西条壬生川地区は、重要港湾東予港の建設に伴う広大な工業用地の造成と、加茂川等の開発による工業用水の確保により、石油精製業、化学工業、輸送用機械、産業用機械等の大規模機械工業およびこれらの関連工業の新規立地を想定する。これらの工業開発が達成されることにより東予地区の重化学工業化率は、昭和三五年の六五%から、昭和五〇年には七三%に達するものと見込まれる」としている。
 土地利用計画については、昭和五五年における市街化区域を約八、三〇〇ヘクタールとし、市街化計画区域を七、三〇〇ヘクタールと計画している。そのうち、工業用地は二、四一〇ヘクタール、住宅地は三、五五四ヘクタール、公園緑地は、四五七ヘクタールとしている。工業用地の利用については、「川之江、伊予三島、新居浜、今治等の既存の工業地は、その拡張発展を図るとともに、工業地が住宅地に混在することのないよう十分配慮するものとする。大規模の工業開発は、西条周桑地区の臨海部に予定し、新居浜地区ともあわせて、東予新産業都市の中核を形成するよう計画するものとする。この工業地は立地想定業種および輸送面を考慮して、主として西条壬生川地先の海面埋め立ておよびその隣接地に約一、三六〇ヘクタールを計画し、一部一級国道一一万線の沿線に内陸部の工業地を配置する」としている。さらに、工業用地の整備については、「昭和五〇年における工業開発の目標に適合するよう西条壬生川地先等の臨海工場用地および金生井地大江、河南等の内陸工場用地の造成により約一、一一〇ヘクタールの工場用地の確保を図る」としている。
 昭和五二年三月一八日に承認された第二次基本計画は、今後の工業開発について「既存業種との関連を考慮しつつ、恵まれた立地条件をいかし、付加価値生産性の高い高度加工型業種を中心に、環境の保全に十分配慮しながら進める」とし、具体的数字としては、[昭和五五年における工業生産の規模は、おおむね一兆四、六〇〇億円に達するものと見込む。このうち、地域の主要な産業として、機械器具製造業約三、三〇〇億円、パルプ・紙・紙加工品製造業約二、七〇〇億円、非鉄金属製造業約二、五〇〇億円を見込むものとする」としている。第二次基本計画では、工業開発の目標が、日本経済における産業構造の変化を反映して第一次基本計画の臨海性重化学工業から高度加工型業種となっているのが注目される。
 土地利用計画については、「公害の防止、自然環境及び農林地の保全、歴史的風土の保存、治山、治水等に配慮しつつ、愛媛県土地利用計画に即して、総合的かつ計画的に行うものとし、開発の進展に即応して、順次具体化する」としている。工場用地の整備については、「西条東部臨海土地造成等の臨海工場用地の造成により、約二五〇ヘクタールの工場用地の確保を図る」としている。
 昭和五六年一二月二五日に承認された第三次基本計画では、今後の工業開発について「既存業種との関連を考慮しつつ、恵まれた立地条件を生かし、電子機器、造船等の高度加工型、雇用集約型の工業を導入するとともに、地区内中小企業の育成を図り、進出企業によってもたらされる経済波及効果を地区内で十分活用できるよう注意するものとする。また、昭和五五年三月から進めている石油地下備蓄実証プラントの成果を踏まえ、昭和五九年度を目途に、菊間町に国家石油地下備蓄基地の建設を検討する」とし、具体的な数字としては、「昭和六〇年における工業生産の規模は、電気機械器具製造業を新たに導入すること等により、おおむね一兆九、一〇〇億円に達するものと見込む。このうち、地域の主要な産業として、機械器具製造業約四、四〇〇億円、パルプ・紙・紙加工品製造業約三、八〇〇億円、非鉄金属製造業約二、五〇〇億円を見込むものとする。また、昭和六〇年代における工業生産の規模は、おおむね二兆五、五〇〇億円程度に達するものと見込む」としている。
 工場用地の整備については、「西条市の東部臨海土地造成等造成済みの工場用地への工業導入に努めるとともに、地域全体の工場立地の動向を十分に勘案のうえ、臨海工場用地及び内陸工場用地の造成を行い、約二五〇ヘクタールの工場用地の確保を図る」としている。

 東予新産都建設計画の経過

 第一次、第二次及び第三次の東予新産都建設基本計画の目標とその達成状況をみよう。工業出荷額の計画達成率をみると、第一次基本計画では一三三・一%(実質)と目標額を超えており、特に、地方資源型産業(一五二・九%)と金属・加工組立型産業(一三九・五%)において計画達成率が高い。しかし、第二次基本計画では、目標達成率は七〇・四%と目標を下回っており、特に、金属・加工組立型産業(四四・二%)と基礎素材型産業(七三・二%)が不振である。第三次基本計画では、昭和五九年度実績で昭和六〇年度目標を大きく下回っており(計画達成率六三・四%)、昭和六〇年の実績が目標を大きく下回ることは確実である。そして、第三次計画では、基礎素材型、金属・加工組立型、地方資源型、雑貨型とすべての型の産業が目標を大きく下回っている。
 総人口及び就業人口の目標達成状況をみると、総人口については、目標達成率が第二次及び第三次基本計画では上昇しているとはいえ、全体としては、低い達成率にとどまっている。総人口の対全県比率も昭和四五年以降、約三分の一の比率のままで上昇していない。就業人口については、昭和五〇年の目標達成率(二三・一%)と昭和六〇年の目標達成率(二〇・四%)が低い。特に、昭和五五年と昭和六〇年を比較すると、第三次就業人口を除いて目標達成率が極めて低いのみならず、雇用者、第一次及び第二次就業人口、製造業人口は、絶対数において減少している。
 施設整備のための投資の進捗率をみると、第一次基本計画(昭和三九~五〇年度)では、名目進捗率は九九・四%である。その期間中の物価上昇を考慮すれば、実質進捗率はこれをかなり下回っていたと考えられる。投資の内訳では、生産関連投資(名目進捗率一二六・一%)、特に、工業用地、工業用水道及び国土保全施設への進捗率が高く、生活関連投資(名目進捗率六八・六%)、特に、住宅団地、下水道及び公園緑地への進捗率が著しく低い。その結果、昭和三九~五〇年度の名目投資額のうち、生産関連投資が六七・九%を占め、生活関連投資は三二・一%にとどまっている。
 第二次基本計画(昭和五一~五五年度)では、名目進捗率を価格でデフレートした実質進捗率は九八・七%とほぼ計画とおりである。第一次基本計画期間中における生活関連投資の立ち遅れへの反省から、第二次基本計画中には、生産関連投資比率四七・三%、生活関連投資比率五二・七%が目標とされ、実績も生活関連投資比率五八・七%と生活関連投資が重点的に投資されたが、住宅用地と公園緑地に対する投資は、第二次基本計画においても極めて低い進捗率にとどまっている。
 第三次基本計画(昭和五六~六〇年度)では、昭和五九年度までの実質進捗率は六六・六%と第二次基本計画よりは低い進捗率にとどまっている。第三次基本計画では、第二次基本計画以上に生活関連投資の比重をかける目標が設定されたが、住宅用地と公園緑地の進捗率は依然として極めて低く、生活関連投資の進捗率は生産関連投資の進捗率を下回っている。

 工業用地の状況

 東予新産業都市地域における工業用地の状況について、より詳しくみよう。表用1―14から表用1―17は、東予新産業都市地域内における工業団地の造成と利用状況、主な工業用地の状況及び工業適地の状況などをみたものである。
 昭和三三年から昭和五九年までに造成された工業団地面積七七八・五ヘクタールのうち、工場建設がなされたのは、三八三・一ヘクタール、比率にして八四%であり、半分以上の四一五・四ヘクタールの工業団地には工場建設がなされていない。特に、昭和五一年以降に造成が完了した工業団地の未利用率が高いのが目立つ(表用1―15参照)。さらに、昭和五九年度と昭和六〇年度の「工場適地調査」では、工場適地面積は九一五・四ヘクタールであり、そのうち四八六ヘクタールが立地未決定の面積である。

 新産都建設の評価

 昭和三九年以降の東予新産業都市建設の経過をみると、昭和五〇年までの第一次基本計画で述べられた「臨海性重化学工業の新規開発」を積極的に推進するために、工業用地の造成・道路・湾港などの輸送施設の整備が進められた。その結果、化学工業・非鉄金属・輸送用機材等の出荷額が大きく伸び、出荷額の点では、重化学工業化の推進による製造業の発展は、目標以上の実績をあげた。しかし、製造業人口・就業人口及び総人口においては、実績は目標をはるかに下回った。これは、重化学工業化による出荷額の増大が、一人当たり生産量や資本整備率の上昇によって支えられ、地域雇用の大幅な増大につながらなかったことを示している。また、第一次基本計画期間中も生活関連投資、特に、住宅団地・下水道・公園緑地への投資が立ち遅れ、「緑の新産業都市」の実現という点では、不十分であった。
 昭和五〇年以降の第二次及び第三次基本計画における「高度加工型産業」の立地推進という点では、昭和五六年四月の三菱電気西条工場(IC製造)、昭和五八年四月の住友イートンノバ愛媛事業部(半導体製造装置製造)、住友製薬愛媛工場(インターフェロン製造)といった先端産業の立地決定もみられたが、石油・化学・非鉄金属等の素材系産業の停滞や造船業の不振などのために製造業出荷額は伸び悩み、昭和六〇年一月の住友アルミ東予工場の東予市四号地からの徹退など、既存産業の徹退や大幅な人員削除もみられた。この結果、昭和五五年から六〇年にかけて製造業人口だけでなく、雇用者全体についてもその絶対数が減少している。また、大規模企業立地を予想して造成された工業団地や、既存企業が撤退した後の工場跡地が未利用のまま大量に存在している。
 昭和五五年以降の東予新産業都市地域の不振は、基本的には、日本経済の低成長経済への移行に伴う産業構造の変化の結果生じたものであり、経済の停滞は、地方の新産業都市地域に共通していた。愛媛県は、昭和六一年一一月の第四次『東予地区新産業都市建設基本計画(案)』において、新産都地域を「宇摩地域、新居浜・西条地区、今治地域に区分し、各地域の適切な機能分担のもとに圏域整備を進めていく」とし、具体的には、「宇摩地域については、既存の産業集積をもとに紙・パルプ及びその関連企業を中核とする新地場産業集積都市づくりを推進する」「新居浜・西条地域については、既存の素材型産業の高付加価値化を推進するとともに、先端技術産業等加工組立型産業の誘致、地域中小企業の技術力向上により、先端産業集積基地の形成を図る」「今治地域については、構造不況に直面している造船の合理化、繊維の高付加価値化により、新しい時代に対応した地場産業として育成・振興を図る。また、本州四国連絡橋尾道・今治ルートの整備により本州・四国を結ぶ交通の要衝となるため、流通基地を核とする新都市開発構想を推進する」として、「これらの地域の有機的結合を促進するため、四国縦貫・横断自動車道等を中心とする交通ネットワークの整備を推進する」としている。すなわち、東予新産都市内を三地域に区分し、三地域独自の都市づくりを推進した上でこれらの地域の有機的結合を目指している。
 また、昭和六一年現在、愛媛県で推進している「テクノポリス構想」は、高度技術に立脚した工業開発や産業・学術・住空間が有機的に結合された新しい町づくりを目指したものであるが、この中には、新居浜・西条地区とともに松山地区も入っている。昭和六〇年代に入って、日本経済の情報化・サービス化か進行するに従い、東予新産都建設構想の実効性を確保するためには、新産都地域内の独自性を考慮するとともに新産都地域外との結合も考慮する必要性が生じてきた。この意味で東予地区新産業都市建設は、新しい段階に入ったと言える。

表用1-8 工業開発の目標及び人口の規模

表用1-8 工業開発の目標及び人口の規模


表用1-9 工業開発の目標及び人口の規模

表用1-9 工業開発の目標及び人口の規模


表用1-10 工業開発の目標及び人口の規模

表用1-10 工業開発の目標及び人口の規模


表用1-11 東予新産都建設基本計画の目標と実績(工業出荷額)1

表用1-11 東予新産都建設基本計画の目標と実績(工業出荷額)1


表用1-11 東予新産都建設基本計画の目標と実績(工業出荷額)2

表用1-11 東予新産都建設基本計画の目標と実績(工業出荷額)2


表用1-12 東予新産都建設基本計画の目標と実績(人口及び就業人口)1

表用1-12 東予新産都建設基本計画の目標と実績(人口及び就業人口)1


表用1-12 東予新産都建設基本計画の目標と実績(人口及び就業人口)2

表用1-12 東予新産都建設基本計画の目標と実績(人口及び就業人口)2


表用1-13 東予新産都建設基本計画の目標と実績(投資額)1

表用1-13 東予新産都建設基本計画の目標と実績(投資額)1


表用1-13 東予新産都建設基本計画の目標と実績(投資額)2

表用1-13 東予新産都建設基本計画の目標と実績(投資額)2


表用1-14 東予新産都地域における工場適地の状況(昭和59年度及び60年度調査)

表用1-14 東予新産都地域における工場適地の状況(昭和59年度及び60年度調査)