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愛媛県史 社会経済4 商 工(昭和62年3月31日発行)

二 昭和三〇年代の経済状況

 所得の向上と消費の伸び

 ドッジラインの実施とそのデフレ政策によって、物価の終熄をみたものの経済は不況へと突入、まさに安定恐慌の状態であった。しかし経済不況も昭和二五年(一九五〇)六月の朝鮮戦争勃発で霧散、時代は好景気へと向かった。輸出は特需ブームに支えられて伸びていき、昭和二四年の五億一、〇〇〇万ドルから昭和二六年に一三億五、五〇〇万ドルで、二・七倍の増加となる。わが国は、この特需により輸出をはじめ生産や企業の収益率を伸ばすことができた。また国民生活の方でも、このころから消費の向上をみることになる。国民消費水準は、昭和二七年に一六%の向上を遂げ、翌二八年には一二%の上昇をみた。そして昭和二九年には、わずか二%の上昇ではあったが、ここにきて初めて戦前の消費水準に、あるいはそれをも上回る状況に達した。国民所得でこの時斯をみると、昭和三〇年における国民所得は、昭和二六年をI〇〇とすれば一三〇・六%の伸びを示している。昭和三〇年における国民の消費生活水準は、都市で一三八%、農村でも一二一%の伸びを示すなど朝鮮戦争を契機に、わが国経済の回復の早さを如実に示していると言えよう。
 国民所得の伸びは、一般消費者の生活様式あるいは消費の中身を変えさせることになる。昭和三〇年ごろから「三種の神器」と言われたテレビ・電気洗濯機・電気冷蔵庫が一般家庭に徐々に普及し始め、第一次耐久消費財ブームの到来をみるのである。テレビは昭和三四年の皇太子御成婚、昭和三九年の東京オリンピックをきっかけにして大幅な普及を遂げていく。愛媛県における耐久消費財の普及状況を一、〇〇〇世帯で示したのが表商4-4である。昭和三四年、洋服ダンスは七〇〇世帯で所有され、七〇%の普及率であった。またミシンは七二九世帯、カメラ二八三世帯、電気洗濯機二五七世帯という普及率であった。そして昭和三〇年代の高度経済成長下での所得の伸びとともに、耐久消費財の一般家庭への浸透は顕著なものがあった。電気冷蔵庫・電気掃除機の電化製品も昭和三九年には一、〇〇〇世帯の半数の世帯で所有され、五年後の昭和四四年(一九六九)には、電気冷蔵庫・電気洗濯機・ミシン・カメラ・洋服ダンスなどの消費財が、一般家庭に大体において普及していたことがこの表から分かる。上述の電化製品・ミシン・洋服ダンスなどが一般家庭に行きわたった段階で、新しい耐久消費財の普及がみられ始める。つまりカラーテレビ・ルームエアコン・ピアノ・乗用車などの所有の伸びをみていくのである。
 昭和二〇年代初めの物資の欠乏期、人々の服装はモンペやつぎはぎの服、進駐軍放出の破れたセーターなど、おせじにも立派なものとは言えない。また子供達は下駄や裸足で学校へ通うものもいたし、ズボンのベ
ルトはハチマキで代用していた。しかし、二〇年代後半から三〇年代にかけての急速な経済成長、そして所得の伸びとともに人々の服装も立派になり、消費生活にも流行が敏感に取り入れられていく。消費スタイルで言えば、昭和三〇年代は一般家庭において米からパンヘ、七輪からガスヘ、畳から椅子へ、和服から洋服へ、下駄から靴へ、火鉢から石油ストーブヘ、飯台からテーブルへと洋式化あるいは洋風化へと急速な移行がみられた。またラジオからテレビへ、自転車からオートバイさらに自動車へ、団扇から扇風機、そしてルームクーラーヘと高次の商品へと消費の移行をみた。これはまさに「生活革命」あるいは「消費革命」であり、昭和三〇年代さらに四〇年代はそうした時代として位置付けられよう。
 昭和三〇年前後からわが国経済は、戦後の苦しい時代から脱出して高度経済成長の波に乗り大きな躍進を遂げていくことになる。それに伴って所得も着実に上昇していく。昭和三一年経済白書は「もはや戦後では
ない」と述べているように、それはまさに戦後経済からの脱出を告げるものであった。しかし三一年経済白書のサブタイトルがいみじくも示しているように、日本経済は近代化という新しい困難な課題を背負ってい
たことも忘れてはならない。
 昭和二六年から三六年ごろまでの家計の消費支出構造について示したのが表商4-5である。高度経済成長下、家計の支出の上に変化がみられる。昭和二六年、消費支出額一万一、三〇七円(今治市)であるが、
そのうち食料費の占める割合は五七・三%、被服費は一三%である。これに対して雑費(教育・教養・娯楽費など)の消費支出額中の割合は一九・四%であった。消費支出額の中で食料費の占める割合が高い。昭和
二八年では食料費五三%・雑費二六%と後者の支出額が増加している。昭和三五年には消費支出額中、食料費四四・四%、雑費三一・二%となっている。
 昭和三〇年代、所得の伸びの中で衣食については個人の欲求は一応充たされ、そののち次第に教育・教養・娯楽などに対する支出が増えていくのを確認できる。

表商4-4 愛媛県における耐久消費財の所有量数

表商4-4 愛媛県における耐久消費財の所有量数


表商4-5 愛媛県の家計消費支出額(全世帯)

表商4-5 愛媛県の家計消費支出額(全世帯)